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2012年7月に作成された記事

2012年7月13日 (金)

小林一郎著「ガード下」の誕生-鉄道と都市の近代史(祥伝社新書)が糞だった(その4)

道路のガード下(高架下)についても、ええかげんな書きっぷり


     
 インターナショナル・アーケードの隣には、自動車専用道路が並走する。
 自動車専用道路は、あくまで道路として使用するものであり、そのため、道路下空間の利用は広場や駐車場などのほか使用できなかった(現在は改正され、さまざまな用途に使用するよう推進されている)ので、道路下空間を店舗や住宅として活用している姿を見ることは基本的になかったのだが、新橋-有楽町-東京間の東京高速道路は、しっかりした店舗として活用されている。きわめて珍しいケースだ。

 小林一郎著「ガード下」の誕生 88頁から引用

小林氏は、東京高速道路は自動車運送法上の一般自動車道であり、道路法上の道路ではない事自体は理解しているようだが、「自動車専用道路」自体が道路法の道路にしか適用されないことは分っていないようだ。また上記の規制(「高架道路の路面下の占用許可について」(昭和40年8月25日付け建設省道発第367号建設省道路局長通達。平成17年廃止)も道路法の道路にしか適用されないことも分っていないようだ。(あるいは分っているけど、適当にごまかして書いているのか?)
「(東京高速道路高架下の店舗は)極めて珍しいケース」といいたいばかりにわざと混同しているようにも思える。

                                                 
 小林一郎氏の嘘  ホント
 東京高速道路は自動車専用道路  東京高速道路は、道路法所掌の道路ではないので、道路法(第48条の2)に定める「自動車専用道路」ではない。
 そのため、東京高速道路は、高架下占用を規制していた通達(「高架道路の路面下の占用許可について」(昭和40年8月25日付け建設省道発第367号建設省道路局長通達。)の対象外。
 自動車専用道路は、あくまで道路として使用するものであり、 ○通達は、自動車専用道路だけを規制するものではなく、一般道の立体交差部分の高架橋の下等も対象。

○規制する理由は「自動車専用道路だから」ではない。「あくまで道路として使用するもの」というのも日本語として全く意味不明。(こういうところからも小林氏はシロウトさんだと思う。)

○「高架下占用は、占用物件の直上を車両等が通行するため、防災上、また道路の維持管理上も好ましいものではなく抑制すべきもの」(「道路法解説」道路法研究会 編著・全国加除法令出版 刊 226頁)というのが規制の理由である。また、上記通達においても「道路構造の保全」があげられている。
 道路下空間を店舗や住宅として活用している姿を見ることは基本的になかった ○もともと、道路法施行令には、
「トンネルの上又は高架の道路の路面下に設ける事務所、店舗、倉庫、住宅、自動車駐車場、広場、公園、運動場その他これらに類する施設」
が占用物件の例としてあげられている。

○旧・通達には
 「高架下の占用物件は、次に掲げるものに限るものとする。
  イ 駐車場、公園緑地等都市内の交通事情、土地利用等から必要と認められるもの
  ロ 警察、消防、水防等のための公共的施設
  ハ 倉庫、事務所、店舗等その他これらに類するもの。ただし、次の掲げるものを除く。
   一 易燃性若しくは爆発性物件又は悪臭、騒音等を発する物件を保管し、又は設置するもの
   二 風俗営業用施設その他これらに類するもの
   三 住宅(併用住宅を含む。)」
 と記載されており、法令上は店舗は可能。住宅は除外されているが、何故か道路の高架下の住宅は存在しているw(後述)

○「相当の必要があって真にやむを得ないと認められる場合における占用についてのみ許可することとする「抑制の方針」として取り扱ってきた」「その結果、高架道路の路面下の利用形態としては、事実上、広場、公園、駐車場等に限定されているのが実態」
http://www.mlit.go.jp/road/press/press05/20050909/1.pdf
というのがオフィシャルなスタンスだが、実態としては、いろいろあり、「都市の近代史」を自称するのならば、取り上げるべき物件は山ほどあろう。(おってご紹介します)

小林氏の傾向なのか、「勝手に目的を決めつけて、それ以外のものは鬼っ子だけど、そこから新しい価値」みたいなストーリーが大好きなようだ。鉄道しかり、「自動車専用道路」しかり。。
しかし、その「勝手に決め付けられた目的」がピントはずれなので、その後のストーリーもまたピントはずれになっている。

通達では、「高架下の占用の許可にあたっては、公共的ないし公益的な利用を優先するものとする。」という許可基準(これは現通達でも変更されていない)に加え、占用料については、国や地方公共団体については、無料となる場合が多い(道路法第39条参照)ため、結果的には、道路の高架下には国や地方公共団体が設置する公園、駐車場・駐輪場、公民館等が多くを占めることになっているのである。
鉄道との大きな違いはここであろう。

せっかくなので、本来の「都市の近代史」であれば取り上げていただきたい、道路下の物件を紹介したい。

○船場センタービル(大阪市)
阪神高速と大阪府道の下にある。
なお、地下には大阪市営地下鉄も走っている。道路法32条の占用物件。

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○木津卸売市場(大阪市)
小林氏も満足できそうなロマンあふれる物件であるが、道路の耐震補強のため解体済みとのことである。道路法32条の占用物件。
私の別稿に詳細を紹介している。

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○東京シティエアターミナル(東京都)
東京高速道路を除くと東京で最も有名な高架下物件ではないか?道路法32条の占用物件 。

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○大阪シティエアターミナル(大阪市)
東京に対抗して大阪シティエアターミナルは、ビルの中から阪神高速の出口ランプが顔を出すという物件。底地は建物側で、道路が区分地上権を設定している。道路法第47条の6の立体道路

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阪神高速道路の本線からランプがビルの中に突っ込んでいくところはこちら

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Ocat
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/ppp/kenkyu/pdf/doc3.pdf 11頁から引用)

その北側には、ビルの1階に阪神高速道路の料金所がある。ビルがランプと一体となっている。道路法第47条の6の立体道路

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○朝日新聞社ビル(大阪市)
阪神高速道路がビルの上に乗っている。底地は朝日新聞ビル側で、道路は無権原と聞いたことがある。レア物件。

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○十三大橋高架下住宅(大阪市)
住宅も店舗もあるんだよ。
高架下趣味者には、「中津高架」で有名。阪急の高架下と道路の高架下の部分が並走しており、それぞれ趣がある。その道路部分。
旧・通達には「住宅はアカン」と書いてあったような気がするが。見るからに年季が入っているので、通達による規制前の「既存不適格」物件かも。

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○ゲートタワービル(大阪市)は、私の別稿に詳しい。

○阪神高速道路 泉佐野PA(泉佐野市)
道路法第47条の6の立体道路 制度を活用してパーキングエリアとビルを一体的に整備している。
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00035/1993/48-04-0168.pdf

○首都高速の高架下の店舗(東京都)
 首都高速道路公団法(廃止済)第29条第2項において認められていた、公団による店舗。
■高速2号目黒線の整備に当たり、首都高速道路公団法第29条第2項第1号(大臣認可を受けて行う公団業務)に基づき、高架下に施設を設置し賃貸を開始(昭和43年4月1日~)した。
■2号線高架下施設は東麻布一・二丁目、南麻布二丁目、南麻布三・四丁目、恵比寿三丁目・白金六丁目の4地区に分れており、4地区合計で事務所又は店舗(一部住居併用あり)47戸、附帯駐車場66台となっている。
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/senyou_taika/pdf3/4.pdf 9頁から引用

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ここ(5号線南池袋地区)も?

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首都高速道路公団法 (廃止済)
 (業務の範囲)
第29条
(第1項 略)
2 公団は、前項の業務のほか、国土交通大臣の認可を受けて次の業務を行うことができる。
 一 前項第一号の自動車専用道路の新設又は改築と一体として建設することが適当であると認められる事務所、店舗、倉庫その他政令で定める施設(以下「事務所等」という。)を建設し、及び管理すること。
 二 委託に基づき、前項第一号の自動車専用道路の新設又は改築と一体として建設することが適当であると認められる事務所等を建設すること。
(以下略)

○中央自動車道 高井戸IC付近  世田谷区立北烏山東敬老会館(東京都)
 中央道建設反対運動があった世田谷区烏山団地隣接のシェルターの下にある物件。NEXCO中日本と高速道路機構による占用許可事項が大きく掲示されているので拡大してみた。
 公民館の類は、公共性があって、道路占用料も免除ということで全国の道路の高架下に見受けられる

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ここまでが、

       
 2005年(平成17年)、町づくりの観点等を踏まえ、高架道の路面下活用が可能となるよう『高架道路下占用許可基準』が改正されたため、今後は、高速道路下にもさまざまな施設が誕生する方向に向かっている。 

小林一郎著「ガード下」の誕生 92頁から引用

(※ここで引用していて、小林氏は、「等」と「など」の標記が統一できていないことに気がついた。ライターとして2流なんだと再確認した次第。「編集プロダクション主宰」とあるが、こういった記述のルールなんか整理できていないプロダクションなんだろうと推測する。)

とある改正『前』の道路と建物の特色ある物件の事例である。

小林氏が知らないだけで、いろいろあるのだ。

改正された通達はこちら。 http://www.mlit.go.jp/road/press/press05/20050909/20050909.html
通達の解説はこちら。 http://www.hido.or.jp/14gyousei_backnumber/2009data/1002/1002koukashita-riyou-mlit.pdf

通達改正後には、例えば首都高速の高架下に
トランクルームを作ったり
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20100809_386617.html
エクセルシオールカフェを作ったり
http://www.shutoko.co.jp/company/press/h18/data/12/1221_1

住宅展示場を作ったりしている。
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20100921_395341.html

なお、本書では積極的に評価していると思われる、東京高速道路株式会社であるが、国会議事録を「東京高速道路株式会社」で検索すると

昭和35年03月01日参議院 - 建設委員会
  東京高速道路株式会社は高速道路を作るという美名のもとに数々の悪徳を重ねております。これは都民全部の指弾の的だったのです。       

昭和34年04月02日参議院 - 建設委員会       
 東京高速道路株式会社のような世間の疑惑 を招くようなものが、今後、全然起らないように宜しくお願いいたします。       

昭和34年03月06日衆議院 -   建設委員会
 世間で怨嗟の的となっております東京高速道路株式会社との関係であります。 

といった有様である。
おってこの辺りがどのように「悪徳」で「疑惑」で「怨嗟の的」だったのかは整理してみたい。
というか、「都市の近代史」ならちゃんと書けよ。

いやはや高架下は鉄道にしても道路にしても「鬼っ子」どころではなく「鬼門」ですなあ。

(参考資料)

       
  ○ 道路法( 昭和27年法律第180号)
 (       道路の占用の許可)
第32条 道路に次の各号のいずれかに掲げる工作物、物件又は施設を設け、継続して道路を使用しようとする場合においては、道路管理者の許可を受けなければならない。
 一~       六( 略)
 七 前各号に掲げるものを除く外、道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある工作物、物件又は施設で政令で定めるもの       

  ○ 道路法施行令( 昭和27年政令第479号)
 (       道路の構造又は交通に支障を及ぼすおそれのある工作物等)
第7条 法第32条第1項第7号に規定する政令で定める工作物、物件又は施設は、次に掲げるものとする。
 一~       五(       略)
 六  トンネルの上又は高架の道路の路面下に設ける事務所、店舗、倉庫、住宅、自動車駐車場、広場、公園、運動場その他これらに類する施設
 七~ 九( 略) 
高架道路の路面下の占用許可について(廃止済)
昭和40年8月25日建設省道発第367号
 北海道開発局長、各地方建設局長、各都道府県知事、六大市長、日本道路公団総裁、首都高速道路公団理事長、阪神高速道路公団理事長あて建設省道路局長通達

 標記に関し、別紙のとおり高架道路下占用許可基準を定めたから、左記の事項に御留意の上事務の処理に遺憾のないようにせられたい。
 ~省略~
                              記
一 高架道路の路面下の占用は、道路の管理上好ましくないので、抑制の方針をとること。したがって、本基準は、その占用を奨励する意味を持つものではなく、相当の必要があって真にやむを得ないと認められる場合における占用の基準を定めたものであること。
二 道路の占用は、元来用地補償とは別個の問題であるから、高架道路の用地交渉段階において被買収者に占用を約束するが如き行為は、厳に慎むべきこと。
三 省略
四 高速自動車国道、都市内高速道路その他の道路で、相当区間連続して高架化されているものについては、路面下の全体的な利用計画を作成し、位置図、平面図、断面図その他の必要な資料を添付して当局に事前協議すること。 

別 紙
 高架道路下占用許可基準
一 趣旨
  高架の道路の路面下(以下「高架下」という。)の占用については、道路の構造の保全、利用形態等において従来の平面道路の場合と著しく異るものがあることにかんがみ、この占用許可基準に従い公正厳格な占用許可を行ない、道路管理の適正を期するものとする。
二 方針
 (1) 高架下の占用は、道路管理上及び土地利用計画上十分検討し、他に余地がないため必要やむを得ない場合でなければ、許可してはならない。
 (2) 次の一に該当する高架下の占用は、許可しないものとする。
  イ 都市分断の防止又は空地確保を図るため高架道路とした場合の当該高架下の占用
  ロ 道路管理者が学識経験者の意見を聞いてあらかじめ策定した高架下利用計画に適合しないもの
  ハ 一部車線を高架とし場合における当該高架下又は高架道路の出入口附近の占用
 (3) 高架下の占用の許可にあたっては、公共的ないし公益的な利用を優先するものとする。
 (4) 高架下の占用は、原則として道路管理者と同等の管理能力を有する者に一括して占用させるものとする。
 (5) 高架下の占用物件は、次に掲げるものに限るものとする。
  イ 駐車場、公園緑地等都市内の交通事情、土地利用等から必要と認められるもの
  ロ 警察、消防、水防等のための公共的施設
  ハ 倉庫、事務所、店舗等その他これらに類するもの。ただし、次の掲げるものを除く。
   一 易燃性若しくは爆発性物件又は悪臭、騒音等を発する物件を保管し、又は設置するもの
   二 風俗営業用施設その他これらに類するもの
   三 住宅(併用住宅を含む。)
三 占用物件の構造等
 (1) 占用物件の構造については、次の基準によるものとする。
  イ 高架道路の橋脚の外側(中略)をこえてはならないこと。
  ロ 占用物件が事務所、店舗等であって、その出入口が高架道路と並行する車道幅員5.5m以上の道路に接する場合には、歩道を(幅員1.5m以上とする。)を設けること。
  ハ 構造は、原則として耐火構造とすること。
  ニ 天井は、必要強度のものとし、必要な消化施設を設置すること。この場合においては、あらかじめ消防当局と十分打ち合わせておくこと。
  ホ 天井は、高架道路の桁下から1m以上空けること。
  ヘ 壁体は、原則として高架道路の構造を直接利用しないこと。
  ト 緊急の場合に備え、市街地にあっては最低30mごとその他の地域にあっては約50mごとに横断場所を確保しておくこと
  チ 高架道路の分離帯からの物件の落下等高架下の占用に危険を生ずるおそれある場合においては、占用者において安全確保のため必要な措置を講ずること。
 (2) 占用物件の意匠等は、都市景観を十分配慮して定めるものとする。
四 その他
 (1) 占用の期間は、占用物件の性質等を考慮して適正に定めるものとする。
 (2) 占用の許可にあたっては、転貸等の弊害を防止するた必要な条件を附するものとする。
 (3) 高架下の利用について、公共的ないし公益的な利用計画がない場合において、この基準に適合するときは、高架道路に係る土地等の提供者を他の者に優先して考慮することができるものとする。

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2012年7月10日 (火)

小林一郎著「ガード下」の誕生-鉄道と都市の近代史(祥伝社新書)が糞だった(その3)

「ガード下の範囲」の本当の範囲

小林一郎氏は、ガード下の定義に建運協定を引用している(19頁~20頁)のだが、違和感がある。建運協定は、道路と鉄道の費用負担の話であって、貸付を受ける範囲とは関係ないよねー。

(本稿とは、直接関係ないが、建運協定については、 http://blogs.jsce.jp/2013_08_01_archive.html の仁杉巌元国鉄総裁のコメントが興味深い。)

ということで、その2でも引用した日本国有鉄道施設局用地課課長補佐 大村 充氏の「国鉄高架下の貸付けと管理について」から改めて正解となる部分を引用してみようと思う。(大村さんすいません。不都合があればお申し出ください。)

 

     
 高架下を部外に貸し付ける場合、高架橋工作物本体の下の土地に属する部分が対象となるのが通常であるが、時には高架橋工作物の本体から外れた土地に属する部分も含めて貸しつけられることもあるので、部内の用語として「高架下」、「附属用地」及び「附帯用地」という表現により取扱上、これらを区分しているので以下用語の意義と解釈について略述する。

(1)「高架下」とは「高架線橋下の土地及び当該土地の地表と高架橋工作物の内壁に囲まれた空間」をいう。貸付における高架橋工作物としては主にアーチ型(図例1)とスラブ型(図例1-2)とがあり、アーチ型の場合は前述の意義で問題はないが、二柱式又は三柱式のようなスラブ型の場合においては、「高架橋工作物の内壁に囲まれた空間」とは、「高架橋スラブ外側線内及び高架下スラブ下橋から当該高架下の土地の地表面に囲まれた空間」と解することになる。
Kouka1

(2)「附属用地」とは高架下と一体として使用することが適当と認められる高架下の土地と接続している土地をいう。(略)
Kouka2
Kouka3
(3)「附帯用地」とは「高架下又は附属用地と地続きでない土地であって貸付ける高架下の巡回管理に併せて管理することが可能、かつ適当と認められる土地をいう。(略)
Kouka4

この図例と、小林氏『「ガード下」の誕生』48頁の図と比べて、大きな違いは、「用地境界線」の有無であろう。実際の高架下では、隣接地との境界(側道との境界)次第で、建物がどのくらい出てよいのか否かというのが変わってくると思うが、「ガード下」の誕生では、その辺が無視されている。最初見てモヤモヤしていたものが、国鉄大村課長補佐の文と比べ見て、モヤモヤの原因が良く分かった。

『「ガード下」の誕生』の読者の方は、上記の図例を切り取って、20頁と48頁に貼りつけておくとよいのではないか。

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小林一郎著「ガード下」の誕生-鉄道と都市の近代史(祥伝社新書)が糞だった(その2)

社史に書いていないからといって、あらぬ方向に「推測」していいわけではない。それは妄想か?メルヒェンか?

頁を開いて、早々に、糞呼ばわりしてしまったのであるが、気を取り直して頁を進めてみよう。

     
 わが国におけるガード下は、明治から大正にかけて誕生したのが最初だが、そのガード下はどのようにして利用されてきたのだろうか。ガード下空間の利用についての研究は、どこまで進んでいるのだろうか。
 利用形態を調べるため、各社の社史を覗いてみよう。社史を綴ったなかには、日本の鉄道開通から戦後の高度経済成長期の1972年(昭和47)までの百余年の歴史を綴った『日本国有鉄道百年史』(全19巻)という膨大な資料がある。一万ページを超す膨大な著書である。この資料をあたってみよう。日本国有鉄道とは現在のJRの前身企業だ。
 同書を読み進むと、明治時代、すでに駅舎内で新聞を販売、さらに売店を設け小間物(中略)を販売したこと、」などが記述されている。さらに、構内食堂を設けたといったことも「駅構内での営業」という見出しを立て、誇らしげに書きこんでいる。現代流に言葉を変えていえば「駅ナカ」である。
 ところが、この一万頁をめくってみても、駅間の高架下でなにをやったかという記事は、1ヶ所のみ。1931年(昭和6)、「貨物輸送の付帯事業として秋葉原駅にはじめて直営倉庫を設置して、営業を開始した」という「倉庫としての利用」との紹介文が載るのみである。
 これらは何を意味するのだろうか。社史を鵜呑みにすると、1970年代当初まで、有楽町のガード下や、上野のガード下に展開されるアメ横、秋葉原のガード下電器街はなかったことになる。そこで、現在のJRに問い合わせてみたが、「ホームページで公表している情報以外は公開できない」という官僚的な答えで遮断されてしまった。隠すほどのことではないと考えられるが、さらに追及すれば、「プライバシーの侵害にあたる」という優等生的な答えが用意されているのだろう。

小林一郎著「ガード下」の誕生 21~22頁から引用  

引用にしては長くなってしまったが、小林氏の『「ガード下」の誕生』は、「ガード下は、社史に載らない鬼っ子」というところをきっかけにストーリーが進んでいくので、お許しいただきたい。
まあ「なにを言うてまんのん。国会議事録を検索すれば、バンバンHITしまっせ」ということなのだが、せっかくなので、これまた引用で恐縮なのだが、私の手元にある7頁ほどの小論から「社史に載っていない」部分を紹介したい。
題名を「国鉄高架下の貸付けと管理について」といい、著者は「日本国有鉄道施設局用地課課長補佐 大村 充」氏ということで、まさに高架下のプロの方とお見受けする。
これまた長くなるのだが、非常によくまとまっているので、引用させていただこうと思う。

     
 高架下利用の社会的な関心は終戦後特にヤミ物資が横行する世の中において地理的に優位で、かつ比較的少資本による経営に適する等の理由から次第に脚光をあびて盛り場を形成するに至ったものである(代表的なものとしては御徒町、上野間の通称アメ横といわれている第一・第二上野町高架橋及び下谷町高架橋がある)が、これに対し当時の国鉄の管理体制は非常に不十分であったものと言えよう。昭和28年、いわゆる鉄道会館問題が起り、国鉄財産に対する国民の批判がきびしくなるに至って、国鉄ではその年の11月国鉄本社内に臨時財産監理部を設け、国鉄財産の管理の改善を図った。その後臨時財産監理部を廃して恒久的な機関として感材部を設け、東京・大阪の地方管理局における管財要員の充実を図るとともにこれが管理体制を整備していった。一方国鉄の財産監理に関する規定類については、国鉄が公共企業体となって国有財産法の適用を排除されたため、基本法としての国鉄法・内部規定として日本国有鉄道会計規程(中略)及び日本国有鉄道固定財産管理規程(中略)のみでは不十分であり、不動産貸付けの管理事務が他の固定財産の貸付けに比し、複雑な問題を含んでいるため、昭和32年4月日本国有鉄道土地建物貸付規則(中略)及び土地建物貸付取扱細則(中略)を制定したが、高架下管理上の諸問題は単に手続上の問題のみならず、後述するように、法制の不備、不明確による点が多く使用関係の正常化については現在もなお困難な問題が残されている現状である。
 即ち国鉄の高架下は戦前国鉄が国であった当時から、住宅、店舗、倉庫等種々の目的で部外に貸し付けていたが、特に終戦後は戦災による住宅難や経済事情から鉄道高架下への関心が高まり、広範囲の部外貸付けが行われたが、これら高架下の使用状況は昭和32年3月の国会で高架下の問題が国民の関心と批判の的となっていることを背景として「日本国有鉄道の固定財産管理運用に関する決議」がなされ、国鉄ではこれに答えるため「高架下管理刷新委員会」を設置して、高架下の管理刷新に関する基本事項、不当使用の排除等を強力に推進してきたところであるが、当時の貸付件数約2,300件のうち約300件が問題とされ指摘を受けた高架下不当使用の実態は大略次のとおりである。
 ①高架下の使用権を国鉄の承認を得ないで第三者に譲渡又は転貸し、第三者が建物を建て使用しているもの
 ②高架下に建物を建築し、国鉄の承認を受けないで、その建物の全部又は一部を第三者に譲渡しているもの
 ③使用名義人が所有する高架下の建物の全部又は一部を国鉄の承認を受けないで、第三者に賃貸しているもの
 ④高架下の建物を使用して、名義人と第三者とが共同経営をしているもの
 ⑤業務委託契約により第三者が高架下での建物を使用しているもの
 ⑥いわゆるケース貸しをしているもの
 ⑦高架下の目的以外使用について使用目的の追加変更の手続を怠っているもの
 ⑧不法占拠のもの
 これらの事例は高架下の使用について複雑な権利関係を発生せしめ、一部にはそれによって高額の中間利得を得ているものがあり、その外高架下が一種のスラムとなり(■■市■■附近、■■市■■附近高架下の一部(※伏せ字は引用者による))或いは乱雑な飲食店街を形成するなど、都市美観上からも誠に好ましくない現象が見受けられるに至った。

きりがないので、引用を終わるが、この報文を読んでいると、「高架下にロマンを感じるで」とはなかなかいかないものである。(国鉄職員が自分の路線の沿線に対して「スラム」と公言するのにはびっくりしたが。)

なお、昭和28年に起きた「鉄道会館問題」とは、東京駅八重洲口にあった旧・大丸の駅ビルをめぐる疑獄であり、昭和32年の国会で取り上げられた高架下は、新橋の京浜百貨店(現・京急ストア)、有楽町の日本交通公社(現・JTB)等である。唯一国鉄百年史に出てくる秋葉原の倉庫もやり玉にあがっている。これらは不正に国鉄OBがからんでいる事例等である。
また、(その1)で引用した国会答弁に「木藤の問題」というのが出てきているが、これは高架下に入居に係る便宜をはかるために国鉄の高架下担当木藤氏と業者の間で贈収賄事件が発生し多数の逮捕者が出たものである。 これも昭和32年の国会で厳しく追及されている。

国鉄の十河総裁というと、昔の国鉄について少しかじった方なら「新幹線の追加予算をとおすために自分の地位には恋恋としなかった気骨のある新幹線の父」というイメージがある人も多いのではないかと思うが、この国会の答弁を見ると全くそのようなイメージはなく、陳謝につぐ陳謝である。
なぜに国鉄百年史に掲載されないか分るような気もする。しかしながら、それでは「暴力(小倉副総裁による答弁)」にもまけず正常化のために高架下をはいずりまわったであろう国鉄管財担当者の皆様がうかばれないように思う。

いずれにせよ「各鉄道会社の社史にも書きこまれない鬼っ子として誕生した「ガード下」は、それまでの既成概念の破壊と新たな価値を創造した。これを第一次ガード下改革と呼ぼう。」(小林一郎著『「ガード下」の誕生』218頁から引用)というにはほど遠いイメージがある。

最後に昭和32年国会での岸首相等に対する追及の議事録を掲載しておく。詳細については機会があればまとめてみたい。

     
      

昭和32年03月04日-衆議院-予算委員会-

      

○吉田(賢)委員 岸さんの時間の都合もありますので、私は直ちに綱紀粛正の問題に入っていきたいと考えます。
 今、岸内閣の一つの大きな今国会における仕事は、国鉄運賃の値上げ問題の成功するかいなかにあるだろうと思うのです。しかし同時に、もしこのまま値上げを無理押しに実現することになりましたならば、おそらく私はあなたの内閣の大きな黒星になるのではないかと思われます。私はこの運賃値上げの当否、必要性の有無等を論議する前に、まずもって国鉄財政を粛正せなければならないと思っております。国鉄財政を粛正することは、同時にこれは綱紀の粛正なくしては不可能であります。この関係を十分に認識いたしまして、初めて私は経営の合理化にしろ財政の再建にしろ論議し得ると思うのであります。もしこの基盤をなす財政の紊乱ということを軽視いたしましたならば、運賃値上げがかりに多数党によって実現するといたしましても、おそらくは悔いを将来に残すこととなると思うのであります。国鉄運賃値上げを論議する前にまず綱紀を粛正せねばならぬ、こういう点についてあなたはどうお考えになっておりますか。

      

○岸国務大臣 国鉄の運賃値上げの問題に関しましては、かねてより国鉄の経営の合理化の問題を検討し、今御指摘のようなあるいは綱紀問題に触れるものがあるかと思いますが、いわゆる広い意味における経営の合理化、ここにいろいろなむだやあるいは間違ったことがあるのを直して、できるだけ経営を合理的ならしめた上において、その最後に幾ら値上げすることが必要であるかというふうな研究の結果、運賃値上げの結論が出たものと承知いたしておりまして、もちろん今お話のように、国鉄の経営上あるいは不合理な点があるとか、あるいは綱紀問題に触れておる点があるということであれば、これを粛正し是正することはもちろん前提として考えなければならぬ、かように考えております。

      

○吉田(賢)委員 綱紀問題は、国鉄に関する限りにおいては実に根深いものがあり、またこれは単に国鉄の内部だけの問題ではなくて、外部との関連におきましても相当広範な根深い関係にあることは御承知と存じます。この問題につきましてはあらゆる面から検討いたしまして、粛正の実を上げていかねばならぬと考えるのであります。試みにたとえば財政再建の問題を検討しようといたしましても、いかにして多く収入をはかり、いかにして支出を節減するかということが直ちに問題になって参りますが、その前に、そのときに当面することは、例をあげますと膨大な固定資産の管理の問題があるのであります。世界一番の公共企業体である国鉄に限って、この固定資産の管理運用の問題をめぐりまして、かくもひどい乱脈がなぜこんなに長い間放置されておったか、こういう感を深くするのであります。あなたはこういう点は詳しく御存じないかもしれませんけれども、しかしながら、東京におられ、政治の中心におられて、この固定資産の管理の問題がいかに重大であるかということは、これは御認識にならなければなるまいと思います。この固定資産の管理について、たとえば収入の面から見て、これはわずかでないだろうか、こういうお考えならば、これはとんでもないことであります。収入が少いとか多いとかいう問題のほかに、この財産の管理をめぐりまして、あらゆる財政的な乱脈があるわけであります。たとえばこの間決算委員会におきまして、高架下の問題、特に新橋駅の百貨店問題を取り上げて論議をいたしておりました。なぜ粛正の実が上らないのか、なぜ粛正できないのかということをだんだんと追及しておりますと、ついに副総裁は暴力によってこれが妨害せられておるという事実を指摘なさるのであります。よろしゅうございますか。国会で暴力によって粛正の実が妨害せられると言われるようなことは、これはまことに聞き捨てがたいことだし、よくよくのことである。刑事局長がそばに列席しておりますので、刑事局長に聞いておいて下さい。たといそれがどういう形で現われるにしろ、国鉄が資産を守らんとするときに、合理的な経営をなさんとするときに、暴力がこれを妨害するというようなことを国会で発言せられるということは、これは大へんなことです。こんなことで一体国鉄の資産管理を全うし得るでしょうか。あなたはその席にはおらなかったが、ここに国鉄の財産管理をめぐりまして、きわめて深刻な泥沼のような腐敗と乱脈があるのであります。外から中においてあらゆる力が錯綜しておるのであります。こういう事実を明らかにするのでなければ、あなたの方で年間数百億円の増収を目ざして進んでいきましても、こういうところからみな漏れてしまう。国民はそう言っているんですよ。ざるで水を受けるようなことになる。この財政の紊乱のその一つの穴が固定資産の管理にあるのであります。現に神田の駅の高架下をめぐりまして、御承知と思いまするが、係長が今収容されております。前課長も逮捕されております。前後十人ほどの者が贈収賄の嫌疑を受けて、今逮捕され取り調べ中であります。三十年の五月には、国鉄みずからが五百件にわたって高架下を調査した事実もあるのです。その中にはいろいろな外廓団体が巣くっておりまして、そして国鉄に損害をかけておる。二重、三重、五重の転貸し、又貸し、それをやっておる。途中で利益を収奪しておる。中間搾取をしておる。それをまた、国鉄の者が入り乱れて利益の分け前を受ける。こういうことが三十年の五月に発見されておるのであります。そして名前も全部出ておる表がある。現に国鉄においてはそれを持っておるのであります。そのうち一部が現われたのが、この間の新橋の百貨店問題なのであります。こう見て参りましたならば、あなたは、経営の合理化をよく考えて、収支のことも、財政再建のことも考えて、そして値上げ問題の結論を得ておるというような考えでは甘過ぎますよ。本気に綱紀粛正をやろうとするならば、こういう問題がもし芽を吹いておるならば、少しでも出ておるならば、それは氷山の一角として、深くぐっと鋭く追究していくだけの熱意と、誠意と、努力と、真剣さと、勇気がなければ、綱紀の粛正なんということは百年河清を待つにひとしいことです。そんな念仏を国会は聞こうといたしませんので、こういうような最近のなまなましい事実をあなたに申し上げるのであります。暴力問題さえ国会に出たときに、あなたは総理といたしましてどうお考えになります。

      

○岸国務大臣 私は、今おあげになりましたような事実は詳しく承知いたしておりませんが、しかし、言うまでもなく、国鉄は国鉄として、その不動産の管理等につきましては、あくまでも厳正に、公正に、かつ合理的にこれを行わなければならぬということは、言うを待たないのであります。その管理について不正があり、もしくは不合理な点があるならば、これはあくまでもその事実を明らかにして、これを是正するというのは、政府として当然やらなければならぬ、こう考えております。

      

○吉田(賢)委員 政府は、かつて経営調査会、あるいは運輸省におきまして、いろいろな諮問機関等々によりまして、いろいろと運賃値上げの問題も協議し、意見も聴し、答申も得ておるのでありますけれども、しかしながら固定資産の管理等をめぐりましてこんな大きな乱脈があり、綱紀の紊乱があるということについては、深く触れておりません。またいろいろな公聴会におきましても、国鉄その他政府が呼びました人は、その真相を知りませんから、うわさだけでは公けに発言をしておりません。従ってこれを究明するところは国会以外にないのです。町でやろうとしてもできないのです。警察なり検察庁も、それはほんに事件となって現われたものだけなんであります。国鉄がみずから手を下そうとするならば、暴力がこれを妨害するのであります。国会以外にないのであります。そこで国会におきましては、この事実を徹底的に究明いたしまして、それによってどんなに財産の管理上、収支の関係におきまして、国鉄財政の健全化のために寄与し得るか、こういったような数字まですっかり出しまして、それはよし十億になろうと、三十億になろうと、あるいはそれ以下になろうと、その総額は別であります。いずれにいたしましても、国鉄財政の将来のことを考えますときに、この種の問題については、まずもって徹底的に究明をしていくということが先決でなければなりません。でなければ国民は納得しませんよ。運賃だけ値上げして、全国の鉄道の利用者からよけい運賃を、取って、そしてあらぬ方に流れていってしまうということ、乱脈があり、汚職があり、暴力があるということが国会で明らかになり、これに対する究明が遂げられておらぬというようなことで、国鉄の運賃値上げを決定することは、本末の転倒であります。前後の撞着であります。まずもって粛正をし、まずもって財政の再検討をし直さなければならぬ。深刻にこの種の方面から財政の再検討をしなければいけません。こういうふうな手段に出ることが私は順序としては正しいと思います。いかがでございますか。

      

○岸国務大臣 先ほども申し上げましたように、この運賃値上げの問題に関しましては、これに関係して相当長い間、各般の権威ある調査審議を重ねてきた結論でありまして、もちろん高架下あるいは何に関する不動産の管理を合理化するという問題も頭に置いて出てきた結論でありまして、今御指摘のありましたような具体的な事例等は、これはあくまでも究明し、それを明らかにしなければならぬことは、私は言うまでもないと思います。しかし、この運賃値上げの問題そのものの大きな結論を、それがためにおくらせるということは適当でない。あくまでも、輸送が隘路になっておる現状から見ますると、国鉄の経営を健全、合理化して、そしてこの隘路を打開しなければならぬという大きな命題の前には、結論としては、私はそう動かす何はないと思うが、しかし今吉田さんがおあげになりましたような事態を決して等閑に付し、それを全然調査しないということは間違っておりますから、あくまでもそれは究明し、明らかにし、また将来そういうことのないようにすることは、当然考えなければならぬと思いますが、私は、運賃値上げの問題をそれがためにおくらすとか、結論をどうするという問題じゃないと思います。

      

○吉田(賢)委員 そこが根本的に考え方が違うのであります。国民に納得をせしめて、その上で正しい運賃の改訂をする。国民に納得せしむるということは何かといえば、疑獄あり、汚職あり、紊乱あり、財政が紊乱しておるということであれば――そもそも運賃値上げは、国鉄の財政問題がもとであります。国鉄財政が紊乱の結果正しい収支が行われておらぬ。財政の執行が正しくないということがありとして指摘されるならば、その大小は別といたしまして、これを検討するということが先決でなきゃならぬ。たとえば、雑収入という小さな費目がある。雑収入は、三十二年度の予算によると、八十八億円になっております。そのうちのこの種のものの収入は、三十六億円ということになっております。しかし、三十六億円でも、これの管理運営のいかんによりましては七十億円になるのです。あなたはそういうこまかいことは知らないかしりませんけれども、今の新橋の百貨店でも、毎月百三十万円も鉄友会がふところに入れておったのです、中間搾取、中間利益を一つの小さな場所で。そのくらい利用価値があるのです。でありまするから私は言うのです。上野・新橋間を調査した先般の国鉄の調査結果を見ましても、ほんとうにりつ然とするのであります。ようもこんなにひどい状態がほったらかしてあった。現に、たとえば朝日新聞のそばの高架下に交通公社が借りている場所があります。これも転貸しです。二百五十万円の権利をもって小さな洋品店に貸しております。そんなことはしちゃいかぬのです。けれどもやっておるのです。月々五万円の家賃をとっております。こういうことなのです。ですから何十億円という雑収入をまぬがれておるということ。これを増収するだけでも数十億円生ずるのであります。数十億円を小さいとお思いになってはいけぬ。七十三億円の固定資産の増税も、現に運賃値上げの理由に述べておられるじゃありませんか。答申の実情を見ても、数億円ならともかく、七十億円をこえなければならぬということすら調査会の答申に出ておる。だから雑収入は、これを倍額にいたしましても、おそらくは三、四十億円はふえるのであります。これを小さしとすべきじゃありません。ですから、こういう問題をほんとうに解決して国民に納得させなさい。そして終局におきましてどういうふうに運賃が改訂されようと、これはまた別の問題です。こんな問題をほったらかすということは、これは断じて間違いであり、本末転倒であります。あなたと考え方が根本的に違っております。運輸大臣、どうお考えになりますか、あなたの所管事項ですよ。この問題については、いいかげんになさったら全国民の恨みを買いますよ。どうお考えなさいますか、この問題については。

      

○宮澤国務大臣 お答えいたします。ただいま御指摘になりました国鉄の固定資産の運用につきまして、あのような不祥事の起っておること、これは今回に限らない、数年前からもときどきそういうことが起っておりますが、まことに遺憾にたえないのであります。たといいかに多くの人が従業しておろうとも、かくのごときことの起るということは、やはり私どもとして国民に対して申しわけない。ことに国鉄運賃値上げをするというこの機会にこういうことの起りましたことは、なおさら申しわけないと考えておる次第であります。また、もちろんこれに関しましては、国鉄当局においてもなおざりにしておるわけではないのでありますけれども、しかしながら、ただいまお話のように、こういう席上においてお話を承わることは非常に刺激となって、実際これにまた刺激されまして、特にいろいろな手を打ってもおるのであります。ことに国鉄の資産の権利が生じて、又貸しを幾つもするということには――実はこれは国有財産もそうだそうでありますが、国鉄の資産を貸しますときには、いつでも期限なしに取り上げるという約束になっておる。そのために貸賃を安くしておる。市価というか、つまり普通の値段で貸しますと、取り上げるというわけにいかないのですけれども、安く貸しておるから、いつでも取り上げられるという約束になっておる。そういうことからいろいろな事柄も起ってくるので、これに対してはやはり相当に改めなければいけないのじゃないか。御指摘のように普通の市価をもって貸せば、それは収益も相当上ってくる。しかしそれはそのままその権利に移ってしまう。国鉄が必要なときにこれを取り返すことができないというようなこともありまして、非常にこれは考え直すべき問題ではないかというようなことも考えておるのであります。ただいま御指摘になりましたような点に、私どもは決して弁解もなにもない、すなおに承わってこれに対処しなければならぬということを、実は苦慮しておるのであります。御期待に沿うような運びをいたしたいと考えております。

      

○吉田(賢)委員 それなら伺いますが、国鉄の有力なる旧幹部がいわゆる外郭団体と称せられるものを作って、これが上野――新橋間の最も利用価値の高いところの土地を借りて、又貸しし、権利を譲渡するという例がずいぶんたくさんあるのであります。今あげました新橋の例もその一つでありますが、こういった国鉄に損害をかけ、いつでも取り上げられる約束によって借りておるにもかかわらず、契約に違反してこのような不都合なことをいたしましたすべてに対しまして、直ちに断固これを取り上げるという処置をして粛正したらどうですか。それを約束できますか。

      

○宮澤国務大臣 あれだけのものを貸して、それぞれ仕事をしておるものを、今ここで直ちに取り上げるということを、原則的に、一般的に取り扱うことは困難であろうと思いますが、しかし事実御指摘のような、約束に反する又貸しのようなことをするような行き過ぎたものに対しては、これはそういう処置をとらなければならぬと思います。この点に関しましては、一つ国鉄を激励いたしまして、御期待に沿うような成績を上げるよう努力してみますから、一つしばらく時日をかしていただきたい。
 

「人・モノを運ぶのが鉄道輸送の目的で、駅と駅の間はあくまで通路。その通路下が空いているから使おうというのはあくまで副次的な利用。人やモノを輸送するという本来の業務とはまったく交わらない。あえていえば、鉄道会社がやるべきものではない。つまり通路である高架下空間を金をとって利用させるといことに抵抗感があったのではなかろうか。」(小林一郎著『「ガード下」の誕生』31頁~32頁から引用)と比べて如何お感じになるだろうか。

(追記)

http://library.jsce.or.jp/Image_DB/mag/gaho/kenchikukouji/01-09/01-09-0190.pdf

土木建築工事画報 第1巻第9号 大正14年11月発行(1925年) の「鉄道省東京市街線工事」という記事に「高架下の利用 高架線軌條面は地表面より平均22、3尺鉄道諸詰所、駅設備、工場、倉庫、民間商店、御徒町、上野間の中間に省電のため変電所の設けあり」という記載がある。小林一郎氏の著書の記載とは異なり、わざわざ「高架下の利用」という章立てがなされているのですね。

http://library.jsce.or.jp/Image_DB/mag/gaho/kenchikukouji/16-01/16-01-2883.pdf

同じく土木建築工事画報 第16巻第1号 昭和15年1月発行 (1940年) の「東京駅改築並に東京新橋間高架新設工事」という記事では、「型式 高架橋は、在来高架橋の径間、高架橋下の使用上の便宜並びにその構造等に依り、(中略)等の種類あり」という記載があり、高架下の利用を考慮して高架橋の構造が選定されていることが分かる。

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小林一郎著「ガード下」の誕生-鉄道と都市の近代史(祥伝社新書)が糞だった(その1)

私も「高架橋脚ファンクラブ」の一員であり、浅草橋やら東京高速道路やら大阪の中津高架やらをうろうろしているので、標記の図書は気にはなっていた。
買ったきっかけが地形特集にひかれて買った「東京人」掲載の川本氏の書評だったのだが、買ってみたら糞だった。

いや、高架下をあちこち練り歩いて、なぎら健一風にくだをまくのなら、好き勝手だし、「ワイも高架下にはロマンを感じるで」と協賛するところであるのだが
何分、嘘だか、調査不足だかが多い。それも根っこのところに。
所詮新書なのだから、通勤電車で読み散らかす程度ならそれでもよいのだろうが、まがりなりにも「鉄道と都市の近代史」などと名乗るとなると話は別だろう。
小林氏の他の著書は拝読したことはないし、この新書を読んだ限りは、シロウトさんっぽいのだが、嘘や調査不足の部分で私が分る範囲で補足しておこう。
そうしないと嘘がホントになりかねないので。

     
 この権利の複雑化を含め、抽象論として「戦後のどさくさに紛れてガード下を不法占拠し、居座っている」などという根も葉もないことが流布されることが多い。これに外国人への差別意識が重なり、話を膨らませる者も多い。だが、実際のところ、法治国家であるわが国でスクワーター(squatter=不法占拠)など許されるわけがない。

小林一郎著「ガード下」の誕生 18頁から引用

しかしながら、インターネットで国会議事録を「高架下 占拠」といったキーワードで検索するとすぐ下記のような答弁が出てくる。

       
昭和28年12月07日 参議院 - 決算委員会 
○参考人(西尾寿男君(引用者注※鉄道弘済会理事長) 今営業局長御説明を申上げましただけでは、ちよつと高架下の御質問だつたので少し足りないのじやないかと思うのですが、実は今日国鉄からも三宮の高架下のガードの転貸処理の問題についてお話になつたのですが、今御質問がございました大阪附近の高架下の問題につきましては、これは御承知かとも存じますが、終戦後にあそこが非常に荒廃しておりまして、或いは不法占拠されたような場所もございました 。で、鉄道ではこれを整理することができないから弘済会で整理しないかというようなお話でお引受けをいたしました。 

       
昭和29年05月07日 参議院 - 決算委員会
○説明員(天坊裕彦君(引用者注※日本国有鉄道副総裁)) 不法占拠の問題は、大体において高架下に限るわけでございます。そのほか行政管理庁のお調べで、土地等の不法占拠というような恰好で出ておりますけれども、これは不法占拠というよりも、手続が遅れておるという式のものが大部分でございまして、そういうふうな見方で、同一には見られないと思うのであります。三宮の近所は、高架下を一時戦争後、国籍を異にする人であるとか或いは戦災で家がないというような浮浪の諸君に占拠されまして、だんだんおつぽり出して整理して参つたのでありますが、一部分残つておることは、おつしやる通りでありまして、このままで放つて置いていいというふうに考えておりませんので、何とか処理したいと、訴訟等でやつておるわけであります。     

私も、昨今跋扈するレイシストどもを利するつもりは毛頭ないのだが、このように国会において国鉄副総裁等が政府として答弁していることは相応の重みがあるはずである。
(もちろん関係者の皆様が上記のような状況を改善するために汗した結果、現在の姿があるからこそ、私ものほほんと高架下を散策できるのであり、その努力には感謝をおしまない。)
小林氏が、これをもひっくりかえす証拠をお持ちであるのならば、それはそれでよいのだが、『「ガード下」の誕生』にはその根拠は記載していないようだ。

また「法治国家であるわが国で不法占拠など許されるわけがない」というのは、不動産や建築にかかわったことがある方なら、一笑に付すのではないか。
裁判で勝訴してもなかなか追い出せないのが、わが国の一面であるし、かたや「占有屋」などという商売もあるようである。
国鉄の高架下に係る国会の答弁を見ていても、そのあたりの苦悩がしのばれる。

     
昭和32年02月21日 衆議院-運輸委員会 
○小倉説明員(引用者注※日本国有鉄道副総裁) お答え申し上げます。ガード下の問題につきましては前々から各方面の御指摘を受けておりますので、私ども誠意を持って事に当りたいと考えております。現に今回の機構改正につきましては、東京鉄道管理局の中に特に管財部という部を設けまして、これに責任を持って当らせるという改革をいたしましたやさきにこの木藤の問題が出まして、これは先ほども御指摘がございましたが、運賃値上げをお願いしておるやさきでございますから、私どもほんとうにつらい思いをいたしております。こういう点につきましては、一番私どもが残念に思い、相済まないと思いまして、今後はかかることが繰り返してないように徹底的にいたして参りたいと思っております。それで今又貸しの問題でございましたが、又貸しにつきましては、前に決算委員会でございましたか、御指摘を受けました新橋のデパートの問題、これにつきましては、これも一会社の浮沈に関することでございますから、なかなか容易なことではございませんでしたが、交渉を重ねまして最近排除に決定いたしました。直接に最終使用者に貸すことに決定いたしました。これにつきましても法律上はなかなかむずかしいのでございます。現在高架下等は、私どもの方では、これは公益的な財産だと考えておりまするが、貸借の問題になりますと一般私法の関係にもなるという説もありまして、それで借地借家法の適用があるとかないとか、これはまだ定説がございませんようで、もし借地借家法の適用がございますと、これは排除を命じましても、訴訟の上で勝つか負けるかわからないような問題でございますが、それは理屈でございまして、実際上は説得いたして、この中間的な存在でありました鉄友会を排除いたしまして、直接に貸すことにいたしました。これが一番大きな問題でございましたが、私ども熱意をもって解決に当った次第でございます。その他にも又貸しの点があるようにも承知しております。これは戦災のあといろいろな関係がございまして、非常に複雑になっておりますので、それで中には暴力を使ってくる者もありまするので、いろいろな点につきまして難事業だと思いますが、しかしその難事業をそのままに置いておいてはいけないので、私どもは誠意をもって事に当って、一件々々解決して参りたい、こう考えております。

私が、小林氏をシロウトさんではないかと思うのは、こういう現状を知ってか知らずか「法治国家~」などと書いている他、各所で、センスのなさ(特に権原関係)が見えてくるからである。建築、不動産関係に携わったことがないのではないかと感じられる。
また、本を開いて第1章でいきなりがっかりきたところで、早速とどめをさされたのが下記の一文である。

     
 こうした、不信感までも含めたイメージがガード下といえば、ガード下なのだが、では住所は?
 ガード下は公的な道路ではなく私有地なので、番外ではなく、きちっとした所番地の住所が配分されている。

小林一郎著「ガード下」の誕生 19頁から引用 

これは、西銀座デパート(東京高速道路のガード下)のイメージに引っ張られているのだろうが、公道のガード下の建築に番地があることは珍しくない。
東京で最も有名なものは、箱崎のシティターミナル(首都高のガード下)であり、大阪であれば、船場センタービル(阪神高速等のガード下)であろう。
検索すると「東京シティ・エアターミナル株式会社〒103-0015 東京都中央区日本橋箱崎町42番1号」と出てくる。
(東京高速道路高架下の建物の表示については、
http://kakuyodo.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/post-ade5.html
を参照されたい。)
また、大阪で高架下(ガード下)愛好者がつどう中津高架に隣接した十三大橋のガード下には、事業所や個人の住宅等が占用しているのだが、下記のグーグルストリートビューで見ていただいて分るように住居表示がなされているようである。

大きな地図で見る

私も住居表示のルールについてはよく分からないのだが、小林氏が「道路の高架下には住居表示がされない」と判断した根拠を是非ご教示していただきたいところである。

ということで、780円も出したのに、19頁目にして、早くも根拠の書かれていない断言(しかもすぐ反証事例が出てくる)だらけで読む気が失せたのだが、せっかくなので、小林氏が書かなかったのか知らなかったのか、はたまた知ってたけどストーリーが崩れるからあえて黙殺しているのか分らないが、世間の皆様の後学のために、私なりにできることをしばらく書き散らかしていきたい。

なお、再度書くが、「紀行文やったらええんや。ワイも高架下にはロマンを感じるで。しかし「近代史」というんやったら(この本は)アカン。」ということで、続きます。

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