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2012年7月10日 (火)

小林一郎著「ガード下」の誕生-鉄道と都市の近代史(祥伝社新書)が糞だった(その1)

私も「高架橋脚ファンクラブ」の一員であり、浅草橋やら東京高速道路やら大阪の中津高架やらをうろうろしているので、標記の図書は気にはなっていた。
買ったきっかけが地形特集にひかれて買った「東京人」掲載の川本氏の書評だったのだが、買ってみたら糞だった。

いや、高架下をあちこち練り歩いて、なぎら健一風にくだをまくのなら、好き勝手だし、「ワイも高架下にはロマンを感じるで」と協賛するところであるのだが
何分、嘘だか、調査不足だかが多い。それも根っこのところに。
所詮新書なのだから、通勤電車で読み散らかす程度ならそれでもよいのだろうが、まがりなりにも「鉄道と都市の近代史」などと名乗るとなると話は別だろう。
小林氏の他の著書は拝読したことはないし、この新書を読んだ限りは、シロウトさんっぽいのだが、嘘や調査不足の部分で私が分る範囲で補足しておこう。
そうしないと嘘がホントになりかねないので。

     
 この権利の複雑化を含め、抽象論として「戦後のどさくさに紛れてガード下を不法占拠し、居座っている」などという根も葉もないことが流布されることが多い。これに外国人への差別意識が重なり、話を膨らませる者も多い。だが、実際のところ、法治国家であるわが国でスクワーター(squatter=不法占拠)など許されるわけがない。

小林一郎著「ガード下」の誕生 18頁から引用

しかしながら、インターネットで国会議事録を「高架下 占拠」といったキーワードで検索するとすぐ下記のような答弁が出てくる。

       
昭和28年12月07日 参議院 - 決算委員会 
○参考人(西尾寿男君(引用者注※鉄道弘済会理事長) 今営業局長御説明を申上げましただけでは、ちよつと高架下の御質問だつたので少し足りないのじやないかと思うのですが、実は今日国鉄からも三宮の高架下のガードの転貸処理の問題についてお話になつたのですが、今御質問がございました大阪附近の高架下の問題につきましては、これは御承知かとも存じますが、終戦後にあそこが非常に荒廃しておりまして、或いは不法占拠されたような場所もございました 。で、鉄道ではこれを整理することができないから弘済会で整理しないかというようなお話でお引受けをいたしました。 

       
昭和29年05月07日 参議院 - 決算委員会
○説明員(天坊裕彦君(引用者注※日本国有鉄道副総裁)) 不法占拠の問題は、大体において高架下に限るわけでございます。そのほか行政管理庁のお調べで、土地等の不法占拠というような恰好で出ておりますけれども、これは不法占拠というよりも、手続が遅れておるという式のものが大部分でございまして、そういうふうな見方で、同一には見られないと思うのであります。三宮の近所は、高架下を一時戦争後、国籍を異にする人であるとか或いは戦災で家がないというような浮浪の諸君に占拠されまして、だんだんおつぽり出して整理して参つたのでありますが、一部分残つておることは、おつしやる通りでありまして、このままで放つて置いていいというふうに考えておりませんので、何とか処理したいと、訴訟等でやつておるわけであります。     

私も、昨今跋扈するレイシストどもを利するつもりは毛頭ないのだが、このように国会において国鉄副総裁等が政府として答弁していることは相応の重みがあるはずである。
(もちろん関係者の皆様が上記のような状況を改善するために汗した結果、現在の姿があるからこそ、私ものほほんと高架下を散策できるのであり、その努力には感謝をおしまない。)
小林氏が、これをもひっくりかえす証拠をお持ちであるのならば、それはそれでよいのだが、『「ガード下」の誕生』にはその根拠は記載していないようだ。

また「法治国家であるわが国で不法占拠など許されるわけがない」というのは、不動産や建築にかかわったことがある方なら、一笑に付すのではないか。
裁判で勝訴してもなかなか追い出せないのが、わが国の一面であるし、かたや「占有屋」などという商売もあるようである。
国鉄の高架下に係る国会の答弁を見ていても、そのあたりの苦悩がしのばれる。

     
昭和32年02月21日 衆議院-運輸委員会 
○小倉説明員(引用者注※日本国有鉄道副総裁) お答え申し上げます。ガード下の問題につきましては前々から各方面の御指摘を受けておりますので、私ども誠意を持って事に当りたいと考えております。現に今回の機構改正につきましては、東京鉄道管理局の中に特に管財部という部を設けまして、これに責任を持って当らせるという改革をいたしましたやさきにこの木藤の問題が出まして、これは先ほども御指摘がございましたが、運賃値上げをお願いしておるやさきでございますから、私どもほんとうにつらい思いをいたしております。こういう点につきましては、一番私どもが残念に思い、相済まないと思いまして、今後はかかることが繰り返してないように徹底的にいたして参りたいと思っております。それで今又貸しの問題でございましたが、又貸しにつきましては、前に決算委員会でございましたか、御指摘を受けました新橋のデパートの問題、これにつきましては、これも一会社の浮沈に関することでございますから、なかなか容易なことではございませんでしたが、交渉を重ねまして最近排除に決定いたしました。直接に最終使用者に貸すことに決定いたしました。これにつきましても法律上はなかなかむずかしいのでございます。現在高架下等は、私どもの方では、これは公益的な財産だと考えておりまするが、貸借の問題になりますと一般私法の関係にもなるという説もありまして、それで借地借家法の適用があるとかないとか、これはまだ定説がございませんようで、もし借地借家法の適用がございますと、これは排除を命じましても、訴訟の上で勝つか負けるかわからないような問題でございますが、それは理屈でございまして、実際上は説得いたして、この中間的な存在でありました鉄友会を排除いたしまして、直接に貸すことにいたしました。これが一番大きな問題でございましたが、私ども熱意をもって解決に当った次第でございます。その他にも又貸しの点があるようにも承知しております。これは戦災のあといろいろな関係がございまして、非常に複雑になっておりますので、それで中には暴力を使ってくる者もありまするので、いろいろな点につきまして難事業だと思いますが、しかしその難事業をそのままに置いておいてはいけないので、私どもは誠意をもって事に当って、一件々々解決して参りたい、こう考えております。

私が、小林氏をシロウトさんではないかと思うのは、こういう現状を知ってか知らずか「法治国家~」などと書いている他、各所で、センスのなさ(特に権原関係)が見えてくるからである。建築、不動産関係に携わったことがないのではないかと感じられる。
また、本を開いて第1章でいきなりがっかりきたところで、早速とどめをさされたのが下記の一文である。

     
 こうした、不信感までも含めたイメージがガード下といえば、ガード下なのだが、では住所は?
 ガード下は公的な道路ではなく私有地なので、番外ではなく、きちっとした所番地の住所が配分されている。

小林一郎著「ガード下」の誕生 19頁から引用 

これは、西銀座デパート(東京高速道路のガード下)のイメージに引っ張られているのだろうが、公道のガード下の建築に番地があることは珍しくない。
東京で最も有名なものは、箱崎のシティターミナル(首都高のガード下)であり、大阪であれば、船場センタービル(阪神高速等のガード下)であろう。
検索すると「東京シティ・エアターミナル株式会社〒103-0015 東京都中央区日本橋箱崎町42番1号」と出てくる。
(東京高速道路高架下の建物の表示については、
http://kakuyodo.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/post-ade5.html
を参照されたい。)
また、大阪で高架下(ガード下)愛好者がつどう中津高架に隣接した十三大橋のガード下には、事業所や個人の住宅等が占用しているのだが、下記のグーグルストリートビューで見ていただいて分るように住居表示がなされているようである。

大きな地図で見る

私も住居表示のルールについてはよく分からないのだが、小林氏が「道路の高架下には住居表示がされない」と判断した根拠を是非ご教示していただきたいところである。

ということで、780円も出したのに、19頁目にして、早くも根拠の書かれていない断言(しかもすぐ反証事例が出てくる)だらけで読む気が失せたのだが、せっかくなので、小林氏が書かなかったのか知らなかったのか、はたまた知ってたけどストーリーが崩れるからあえて黙殺しているのか分らないが、世間の皆様の後学のために、私なりにできることをしばらく書き散らかしていきたい。

なお、再度書くが、「紀行文やったらええんや。ワイも高架下にはロマンを感じるで。しかし「近代史」というんやったら(この本は)アカン。」ということで、続きます。

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