50年前の常磐線品川乗り入れ計画~横須賀常磐ラインは新幹線東京乗り入れがきっかけ
JRの上野東京ラインが来春完成し、常磐線の「ひたち」や「ときわ」等が品川まで乗り入れるとの報道がなされているが、常磐線の品川乗り入れは約50年前に計画されていたというお話。それも都心の地下経由で横須賀線との直通で。
ざっくりパワポでまとめてみるとこんな感じ。
首都圏整備計画の基本計画及び整備計画(昭和33年7月4日 首都圏整備委員会告示 第2号)によると
§6 既成市街地における主要な鉄道軌道等の整備計画
(a) 東海道線 | 東京・大船間の線路増設(横須賀線と湘南電車線の分離) |
(b) 東北線 | 赤羽・大宮間の線路増設(電車線と汽車線の分離) |
(c) 中央線 | 東京・三鷹間の線路増設(東京・三鷹間の複々線化、緩行線の東京乗入れ) |
(d) 総武線 | 両国・市川間の道路増設(電車線と汽車線の分離)及び都心乗入れ |
(e) 常磐線 | 都心乗入れ |
(f) 南武線 | 溝ノ口・立川間の路線増設(南武線の複線化) |
(g) 横浜線 | 東神奈川・原町中間の線路増設(東神奈川・原町田間の複線化) |
年 度
項 目 |
昭和 | ||||||||||||
32 | 35 | 41 | |||||||||||
線
路
増
設 |
東京・三鷹間の複々線化 | ← | ─ | ─ | ─ | → | |||||||
南武線及び東神奈川・原町田間の複々線化 | ← | ─ | ─ | → | |||||||||
横須賀線及び湘南電車線の分離 | ← | ─ | ─ | ─ | ─ | ─ | ─ | → | |||||
その他(東北、常磐、総武線各線) | ← | ─ | ─ | ─ | ─ | ─ | ─ | ─ |
というように、東海道線と横須賀線の分離等の輸送力増強の取り組みが実施されていた。ところが、新幹線の東京駅乗り入れのために、東海道線と横須賀線の分離のために確保してきたスペースを新幹線に明け渡すこととなり、東海道線・横須賀線の分離については別線を計画する必要が生じた。
また、中央線についても東京~三鷹間の複々線を計画していたが東京~御茶ノ水の用地買収が難航し、新幹線の東京駅乗り入れ検討線の一つである市ヶ谷駅付近から外堀を経由して東京駅に乗り入れるルートを中央線に転用したようである。
この辺の経緯は先日別稿に記したところである。
→首都高直結の八重洲地下駐車場の場所に新幹線の東京駅が入る計画があった http://kakuyodo.cocolog-nifty.com/blog/2014/10/post-f1bf.html
その辺りを、日本道路協会の「道路」昭和36年3月号に国鉄常務理事(当時)滝山養氏が「東京都心及び周辺の鉄道計画」という報文にまとめている。
中央線の通勤対策としての線路増設案は都市交通審議会の第一次答申(昭31.8)に次の如く取り上げられている。
中野―三鷹間の複々線化
御茶水―東京間の複々線化
国鉄はこの線に沿って先づ輸送力の行詰まりの著しい代々木―千駄ヶ谷の混雑緩和のため、緩行線の東京乗り入れを策して昭和33年3月東京―御茶水間の線路増設に着工せんとしたが、地元の反対のため用地買収と道路使用に関する設計協議とが困難となり、その代案として東京―市ヶ谷間の地下鉄による短絡案をとらざるを得なくなった。(略)
東京―品川間の線路は横須賀、湘南両線通勤電車と遠距離急行列車と競合して増発のためには線路を増設することが急務とされたが、東海道新幹線の東京駅乗入れが決定したため、これに遠距離列車を移すことにより当面の解決を見ることとなった。しかしこのまま推移し横須賀、湘南両電車の大船以東の共用が問題となった場合、一部電車を品鶴貨物線の活用を考え分離すると、品川以北の別線を必要とするに至る。
一方常磐線は現在上野打ち切りとなっており、そのため山手線外回り、京浜東北線南行の上野―東京間に負担をかけ、地下鉄2号路線(中目黒―北千住)の開通を見てもこのまま推移すれば行詰りを生ずるに至る。
東海道線、常磐線ともそれぞれ都心に乗り入れるためには現状では高架線によるはり付けの線路増設は不可能なので地下鉄路線によらざるを得ない。一応考えうる路線は品川から地下鉄8号路線により日比谷、大手町を通り地下鉄9号線に沿って三河島に抜けるものである。これによれば横須賀、常磐両線の直通が可能となる。
路線図はこんな感じ。
昭和45年には横須賀、常磐両線の直通が開始されるよう目論んでいたようである。
(東陽町までの計画だった地下鉄5号線(東西線)が亀戸で総武線と乗り入れしている辺りも興味深い。)
なお、同報文では、貨物線の増強案として武蔵野線や京葉線(東京湾岸鉄道)の新設も語られているが、武蔵野線の路線図が一直線に近い線で描かれていて興味深い。月島線は汐留―越中島―小名木川を結ぶ計画だ。
余談1 瀧山氏(同一の方と思うのだが)は、こんな講演録もあるのでご関心のある方はどうぞ。業界内の講演ということでなまなましい話も散見されて興味深いです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsee1953/27/2/27_2_4/_pdf
余談2 東北縦貫線については、http://www.kanda-kankyo.net/pages/40years1.html によると東北新幹線の東京乗り入れに際して「縦貫線は廃止する」との確認書を地元に提示しているようだ。
その一方で
「なんとか可能性だけは残しておきたい。そこで新幹線の工事にあたって、線路の基礎構造物を強くし、将来新幹線の真上に、在来線の線路をつくっても十分に支えられる構造にした」
地上に線路がないのなら、線路の上に線路をつくればいい――。なんと将来を見越して、2階建ての高架構造に対応できるよう、工事を行っていたのだ。そしていま、神田駅では新幹線の上に線路を敷設している。先を見据えた基礎工事が、30年という時を超えて結実しようとしている。
東京駅に新路線、100年来の構想実現 「新東京駅」計画も
2012/7/6 6:30日本経済新聞 電子版
としてやったりのドヤ顔が見えちゃうということは、地元をだましていたか確認書なんてえのはハナから守る気がなかったということですかねえ。当時の国鉄の財政事情の中でこんな金の使い方をしていたのがばれたら大蔵省や会計検査院はだまっちゃいませんぜ。「東京ふしぎ探検隊」の河尻定は、そういうとこは絶対見てないよなあ。一面的なものの見方しかできねえ記者だなあ。「秘話」さえみつかりゃ大喜びなだけだもんなあ。「目的を達成するためには国会も大蔵省も地元も騙し抜く、これぞ十河、島以来の国鉄新幹線屋魂!」てな感じでそこのところを掘り下げて取材してこそ「秘話」であって、本のコピペしただけで「秘話」扱いとは日経のデスクもぬるいですなあ。
ところで、山之内秀一郎氏が「東北・上越新幹線」を出版したのは、東北縦貫線の工事着手前なのだが、こんな本音を書いちゃうとあとあと地元と協議する際にもめるのが分かりそうなもんだけど、本人も周囲も気にしないのかねえ。「後輩が苦しむより、俺様の手柄」なのかなあ。これ読んだときに地元の人がどう思うか考えないのかなあ。こういう本って現役が下調べしたり、草稿のチェックしたりすると思うんだけど、当時のJR東日本の関係者は地元関係の対応をどう考えていたんでしょうねえ。
地元に対する国鉄(JR)マンの意識は、http://kakuyodo.cocolog-nifty.com/blog/2014/10/post-d1de.html のころとあんまり変わっていないということなんですかねえ。
余談3 東京の地下鉄路線の経緯については、「東京の通勤鉄道路線網計画に関する研究」八十島 義之助等もあわせてお目通しいただくとよろしいのではないか?
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscej1984/1986/371/1986_371_31/_pdf
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