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2014年12月23日 (火)

新幹線と近江鉄道にまつわる「景観補償」の検証(その3)

新幹線と近江鉄道にまつわる「景観補償」の検証(その2)では、国鉄と近江鉄道の交渉の序盤について述べてきた。

 この後、更につっこんだ交渉となる。

近江鉄道から国鉄大阪幹線工事局長への文書1

近江鉄道から国鉄大阪幹線工事局長への文書2

近江鉄道から国鉄大阪幹線工事局長への文書3

近江鉄道から国鉄大阪幹線工事局長への文書4

近江鉄道から国鉄大阪幹線工事局長への文書5

甲丑第533号

昭和36年6月19日

日本国有鉄道

 大阪幹線工事局長

 高橋 好郎 殿

 

滋賀県彦根市古沢町50番地

 近江鉄道株式会社

 代表取締役 山本 広治

東海道新幹線の当社線路と並行建設について

 

昭和36年4月4日附大幹工丑第818号を以て標記の件について御回答に接しましたが、当社と致しましては尚納得の致しかねる点が御座いますので更に別紙の通り事情を具申し貴局の御配慮を賜り度く存じますから何卒よろしく御願い申し上げます。

 

貴東海道新幹線を当社鉄道貴生川~米原線に膚接並行して敷設せらるる件につき当社土地境界の立会方、去る昭和35年11月8日附大幹工子第1788号を以って御申入れありましたに対し、当社より昭和35年12月14日附貴局長宛の別添文書を以って御再考方申し進めました処、昭和36年4月4日附大幹工丑第818号を以って殆んど全面拒否に等しき御回答に接しましたのは、当社の甚だ遺憾とする処であります。

大幹工丑第818号の御回答によれば(1)路線の変更は殆んど不可能であり、(2)路線平行に伴う保安上の問題は監督官庁の指示に従う、(3)近江鉄道路線の買収は実現不可能である。との事でありますが、具体的な解決案のお示しもなき斯かる形式的の御回答では新幹線敷設で致命的打撃を蒙る当社は不安解消の根拠となる何物をも認め得る事ができません。当社は常に国の交通幹線を担当せらるる国鉄に経緯を表し民業の分に応じ御協力申し上げる事にやぶさかなるものではありませんが、新幹線の建設工事をこの尽御遂行相成に於いては一般通行者の安全には勿論のこと当社自体の存亡にも関し、今回の御回答を以ってしては、遺憾乍ら貴御当局に対し具体的問題に御協力申し上げるべき基礎となり得ないのであります。 即ち(1)新幹線を現計画に依り敷設せらるるに於ては、当社鉄道は全く展望を遮蔽する高い壁を以って遮断され、当社乗客は窓外の眺めも不可能となり、斯くては交通の快適性と観光価値を奪い去られる結果となり、これは旅客輸送機関として堪えうる処に非ざる点訴えたのでありますが、今回御回答には之に対し一顧も与えられず、何らの解決策もお示しになっておりません。また(2)無数の踏切の安全確保より見て、新幹線の現計画を遂行されるならば、事故防止の万全を期し難くその他種々の困難なる障害事項が予想される点を訴えましたのに対し今回御回答は陸運局の指示に従うとのみで、当社の真剣な心配に対し顧慮しようとの御意向は全然示されておりません。然るに(3)当社が問題と致しますのは単に監督官庁の指示される規定や寸法の範囲の事を申すのではなく、当社電車の進行中に新幹線の築堤内を通り抜けて出てくる人や車は踏切の直前に差しかからねば判明出来ない状況と相成るべく、斯ゝる状況が電車進行中次から次へと出てくる状態で電車線を運営せねばならぬ事となりましては、四六時中踏切事故に「おびやかされ、瞬時も非常体制を解き得ない事と相成るべく、運転従事員は常時最高度の緊張を要求され不安感にさらされる事となるのは必然で異常の疲労を伴うべく、これでは人間の運転する旅客輸送事業は成立し得るものではありません。斯ゝる状況の出現は必至と考えられますので、当社は之が回避予防の策を求めたのでありますが、貴局の御回答は全く当社の信頼と期待に反し何等具体的意志の御表示もなく、且つまた今日までの御回答に関する限り新幹線の平行敷設により全く死活の岐路に立たされる地方民業当社に対する暖かい思いやりのお気持ちすら伺えなかった事は、誠に心外で衷心遺憾に堪えません。若し万一斯ゝる現況の下に貴局の御計画が強行されますならば、現況さらでだに赤字経営の当社鉄道は益々斜陽化に拍車をかけられ多年困難なる条件に堪えて来た当社2000人の従業員は全く退勢挽回の希望を失い遂に企業は壊滅の一途をたどらなねばならなくなるのは必至であります。

(4)尚また貴国鉄自動車部門に於かれましては名神間高速自動車道の敷設に伴いこの程17系統にも及ぶ路線免許を出願されましたが、これとても当社既設バス木の本-彦根間33粁9系統に重複し、而も仝大垣-大津間101粁10系統の現行路線に完全並行する競合申請で、前叙鉄道部門の赤字を補いつゝ当社の事業基礎を一応安定して来た当社自動車部門いもその死命を制するが如き影響を与える重大案件ではあります。

さり乍ら当社は貴国有鉄道の立場を尊重申し上げて、他同業が挙げて貴国鉄自動車の申請に協力反対をなしているにもかゝわらず、にわかに之に同調することなく貴国鉄自動車に依る幹線輸送網の造成には賛同して話し合いたいとの方針を打ち出し、御協力申上げているのであります。勿論、貴国鉄自動車当局ではこの大方針実現のためには関係民業と十分協調する用意ある旨言明されてはおりますが、さればとて貴国鉄自動車御当局よりは現状之に対する何等の具体的保証を得ているものではありません。若し万一、一方的に何の話合いもなくして高速自動車道に依る国鉄自動車の路線設定を強行されるならば当社自動車部門もこれ亦新幹線により大影響をうける鉄道部門同様に恐らくは崩壊の運命をたどらねばなりません。斯くては自動車部門の黒字によりかろうじて余喘を保持し得ている当社鉄道部門は、この面よりも更に壊滅的な圧迫を受け、益々窮地に追い込まれるは火を見るよりも明らかであります。

(5)前叙の次第にて貴新幹線の建設といい名神間高速自動車道上に於ける貴国鉄自動車の路線選定といい悉くが当社の事業基盤を根底よりゆさぶり、当社企業を不安のどん底につき落とさんとする謂わば会社の存亡にもかゝわる重大な問題を包蔵するものでありますだけに、当社経営者は申すに及ばず2000人従業員とその家族10,000人の一員に至るまでが挙げて最大の関心を寄せ、貴御当局の深き御良識と御誠意の発動をかたずをのんで凝視し、御善処を切望している次第であります。

重ねて申し上げますが、当社は貴国鉄が幹線輸送動脈網を造成されるに対し御協力申上げるには聊かもやぶさかなるものではなく、この御計画を御強行相成る場合当社の受ける深刻なる影響に対し真摯なる関心をもたれ具体的の対応策を示されん事を要請する以外に何等他意はありません。何卒前叙の事情御賢察賜り誠意ある御配慮に接したく玆に重ねて御再考を御願い申し上げる次第であります。

鉛筆で加筆されているのは、この大阪幹線工事局長への文書をもとに後に紹介する国鉄総裁への文書が作られたことを意味しているのだろう。また、このような経緯が残った文書が堤康次郎の手元に保管されているということは、近江鉄道と国鉄との交渉に堤康次郎が途中経過も含めて深い関心を持っていたことを示すのではないかと思われる。

ところで、この加筆は中嶋弁護士なのだろうか?交渉窓口は西武鉄道の小島社長になったというから西武本体の顧問弁護士が担当している可能性が高いが。。。

国鉄から近江鉄道への回答文書3

国鉄から近江鉄道への回答文書4

日本国有鉄道 大幹工丑第1570号

昭和36年7月12日

 

滋賀県彦根市古沢町50

近江鉄道株式会社

代表取締役 山本 広治殿

 

 日本国有鉄道

 大阪幹線工事局長

 高橋 好郎

 

東海道新幹線を貴社と並行し建設することについて。

 

 東海道新幹線建設につきましては種々御高配を賜り厚く御礼申し上げます。

 さて、本年6月19日付甲丑第533号で再度御要望のありました標記のことにつきましては、当局としても一方的に処理いたすつもりは毛頭なく、十分協議の上円滑に工事をすすめたいと存じております。

 つきましては、展望遮蔽並びに運転事故防止など貴社の具体的対策についての細部にわたる協議を戴きたく当局といたしましては、本社の指示もうけ出来得る限り御要望に副えますよう善処いたす所存でありますので、是非貴社の具体的御意見を至急御提示願えれば幸甚に存じます。

又、自動車路線関係のことにつきましては、早速関西支社長へ連絡しておきましたので何卒御了承下されたくお願い申し上げます。

 なお、今後は、一層密なる御連絡をさせて戴き円滑に工事の推進を図りたい所存でありますので何卒一層の御教示り絶大なる御協力を得たく重ねてお願い申し上げます。

 今までのゼロ回答から急に国鉄の回答が低姿勢になっている。何故??工期上厳しくなってきたからなのか??

 また、「自動車路線関係」については、名神高速バス参入にあたり、名鉄、近鉄等の大手私鉄ですら合弁会社を設立しての参入しかできなかったにもかかわらず、中小では近江鉄道のみが単独で参入できたことに関係があるのかもしれない。

 6月の大阪幹線工事局長あて文書にあった高速バス関連のくだりが7月の総裁あて文書からは一切削除されているあたり何かここで決着していることを推測させるものである。関西支社長へは「何を」連絡したのだろうか?

 

 ここで、近江鉄道側は、国鉄の今までの交渉相手であった大阪幹線工事局を飛び越えて国鉄総裁等あてに文書を発送する。

近江鉄道から国鉄総裁等への陳情書 (2)

近江鉄道から国鉄総裁等への陳情書 (3)

近江鉄道から国鉄総裁等への陳情書 (4)

近江鉄道から国鉄総裁等への陳情書 (5)

近江鉄道から国鉄総裁等への陳情書 (6)

近江鉄道から国鉄総裁等への陳情書 (1)

陳情書

近江鉄道株式会社

 

甲丑第621号

昭和36年7月17日

 

日本国有鉄道

 総裁 十河 信二 殿

(同一の内容を、新幹線総局長 大石 重成へも発送)

 

滋賀県彦根市古沢町50番地

 近江鉄道株式会社

 代表取締役 山本 広治

 

東海道新幹線を当社鉄道線に膚接並行して建設されるに対し御再考方陳情の件

 

貴東海道新幹線を当社鉄道貴生川~米原線に膚接並行して敷設せらるる件につきましては貴国鉄大阪幹線工事局長殿に対し再三再四御再考方申し進めておりますが、殆んど全面拒否に等しき御回答に終始しており、当社の立場を顧慮された誠意ある御回答に今以って接し得ませんことは甚だ遺憾に堪えません。

大幹工丑第818号に依る貴大阪幹線工事局長殿の御回答によれば(1)路線の変更は殆んど不可能であり、(2)路線平行に伴う保安上の問題は監督官庁の指示に従う、(3)近江鉄道路線の買収は実現不可能である。との事でありますが、具体的な解決案のお示しもなき斯かる形式的の御回答では新幹線敷設で致命的打撃を蒙る当社は不安解消の根拠となる何物をも認め得ないというのが当社の切なる申し入れの主眼であります。当社は常に国の交通幹線を担当せらるる国鉄に経緯を表し民業の分に応じ御協力申し上げる事にやぶさかなるものではありませんが、新幹線の建設工事をこの尽御遂行相成るに於ては一般通行者の安全には勿論のこと当社自体の存亡にも関し、今日迄の御回答を以ってしては、遺憾乍ら貴御当局に対し具体的問題に御協力申し上げるべき基礎となり得ないのであります。

即ち(1)新幹線を現計画に依り敷設せらるるに於ては、当社鉄道は全く展望を遮蔽する高い壁を以って遮断され、当社乗客は窓外の眺めも不可能となり、斯くては交通の快適性と観光価値を奪い去られる結果となり、これは旅客輸送機関として堪えうる処に非ざる点を再三再四訴えている次第でありますが、貴国鉄当局に於かれては之に対し一顧も与えられず、未だ何らの解決策もお示しになっておりません。

また(2)無数の踏切の安全確保より見て、新幹線の現計画を遂行されるならば、事故防止の万全を期し難くその他種々の困難なる障害事項が予想される点を訴えましたのに対しては陸運局の指示に従うとのみで、当社挙げての真剣な心配に対し顧慮しようとの御意向は全然示されておりません。

(3)監督官庁の指示命令を順守して施工されるのは当然の事で、当社は斯ゝる規定や寸法の範囲について申し立てを致しているのでは決してなく当社電車の運転者は進行中に新幹線の築堤内を通り抜けて出てくる人や車を踏切の直前に差しかからねば判明出来ない状況と相成るべく、かかる状況が電車進行中次から次えと続出する状態で電車線を運営せねばならぬという極めて危険な事態の出現であります。これは恰かも盲人と盲人の衝突が何時起るかもしれないという極めて危険な状態に踏切が四六時中さらされる結果、瞬時も非常体制を解き得ない事と相成るべく、当社電車の運転従事員は申すに及ばず踏切を横断する人や車も常時最高度の緊張を要求され不安感にさらされる事となるのは必然で斯かる危険きわまる事態の出現は貴重な人命と財産を預かる鉄道運送事業にとって断じて許されるべき事ではありません。当社は深く思いを玆に致し之が回避予防の策を求めたのでありますが、貴局の御回答は全く当社の信頼と期待に反し何等具体的意志の御表示もなく、且つまた今日までの御回答に関する限り新幹線の並行敷設により全く死活の岐路に立たされる地方民業当社に対する暖かい思いやりのお気持ちはおろか人命の危険が明らかに予知される由々しき問題であるに拘らずこれが対策について寸分の御配慮すら伺えなかった事は誠に心外で衷心遺憾に堪えません。若し万一斯かる現況の下に貴局の御計画が強行されますならば、現況さらでだに赤字経営の当社鉄道は益々斜陽化に拍車をかけられ多年困難なる条件に堪えて来た当社2千人の従業員は全く退勢挽回の希望を失い遂に企業は壊滅への一途をたどらなねばならなくなるのは必至であります。

(4)前叙の次第にて現御計画による貴新幹線の建設は当社の事業基盤を根底よりゆさぶり、当社企業を壊滅状況につき落とさんとする謂わば会社の存亡にもかかわる重大な問題を包蔵するものでありますだけに、当社経営者は申すに及ばず2千人従業員とその家族1萬人の一員に至るまでが挙げて最大の関心を寄せ、貴御当局の深き御良識と御誠意の発動をかたずをのんで凝視し、御善処を切望している次第であります。

(5)就面、貴幹線の現計画御強行に依り誘発される前叙の重大事態を回避するには今日まで貴御当局あて送達の文書でも具陳しました通り、貴幹線ルートを当社線より300米以上間隔を置いて新設する事に現計画を変更されることであり、これが最良の方式であることは論を待たない次第でありますから、斯様に計画変更される様改めて強く要望申し上げます。今日までの貴幹線工事局長名御回答では関係手続き或は諸般の対外交渉経過等より殆んど不可能との事でありますが、一地方民業の当社に壊滅的不利益を及ぼすのみならず、関係地方民をして極端なる交通不安に陥入れ、人名の危険を誘発する虞れあることが明確に予見せられるにも拘らず一切変更不可能との頑迷とも思はれる態度に終始されていることは国民の国鉄たる御立場として甚だ了解に苦しまざるを得ません。

 何卒前叙の次第を再検討相成り利用者地方民のため当社の重大視する運転上の不安除去と踏切事故の絶滅を期せられまして右300米以上の間隔を置くことに計画御変更かた重ねて御再考を求める次第であります。

重ねて申し上げますが、当社は貴国鉄が幹線輸送動脈網を造成されるに対し御協力申上げるには聊かもやぶさかなるものではなく、この御計画を御強行相成る場合当社並びに当社線利用者の受ける深刻なる影響に対し真摯なる関心をもたれ具体的の対応策を示されん事を要請する以外に何等他意はありません。何卒前叙の事情御賢察賜り速やかに誠意ある御配慮に接したく玆に重大決意を以って重ねて要望申し上げる次第であります。

新幹線と近江鉄道にまつわる「景観補償」の検証(その4)へ続く

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