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2014年12月23日 (火)

新幹線と近江鉄道にまつわる「景観補償」の検証(その2)

新幹線と近江鉄道にまつわる「景観補償」の検証(その1)では、路線選定の経緯等を述べてきた。

いよいよ、国鉄と近江鉄道(西武鉄道:堤康次郎)との交渉の経緯に入っていく。

国鉄から近江鉄道への土地収用関係照会文書 (3)

日本国有鉄道 大幹工子第1788号

昭和35年11月8日

 

彦根市 近江鉄道株式会社

代表取締役社長 山本 広治殿

 日本国有鉄道大阪幹線工事局

 局長 五味 信

 

 土地境界確認のため現地立会の依頼について

 

 東海道広軌新幹線の建設につきましては、格別の御配慮をいただき厚く御礼申し上げます。

 さて、当局管内新幹線ルートのうち、末尾記載の貴社所有地との境界確認のため、御多忙中誠に恐縮に存じますが、御担当係員の現地立会方お取計い下さるようお願い申し上げます。

 

 (以下略)

 

これに対する近江鉄道の反応を「交通経済情報」から引用してみる。

△国鉄計画に難色示した近江鉄道

 この時、近江鉄道が示した態度について、西武側を代表して折捗に当った小島西武鉄道社長は次のように説明している。

 「国鉄の計画をみて驚ろきました。とにかくうちの線路にぴったりくっついて新幹線の築堤が敷かれるようになっているんです。これではうち、交通革命の谷間で自滅の一途を迎えるだけですからね。だから、うちの沿線を走るのは仕方ないけど、なんとか五百米くらい離してほしい、ということを云ったんですよ」

 ここで参考までに付け加えると、近江鉄道の路線に沿って走る新幹線の築堤の高さは約6メートル平均である。しかも国鉄の計画では、その築堤が近江の路線にほとんどくっついて走ることになっていたのだ。国鉄新幹線土木課の話によれば、その間はゼロメートルということになるが、ゼロメートルといえば、電信柱一本がようやく立つぐらいのものである。

 「新幹線の築堤が出来ると、その下が道路になりますから、自動車などはそれがうちの踏切を横切るということになりますからね。これは列車の運転士もオロオロしていられないし、第一危険ですよ」と小島社長の話は続く。

近江鉄道は国鉄からの文書に対して下記のように回答した。

近江鉄道から国鉄への土地収用関係回答文書 (2)

甲1,085号 昭和35年12月14日

近江鉄道株式会社 代表取締役 山本 広治

日本国有鉄道大阪幹線工事局

 局長 五味 信殿

 

昭和35年11月8日附大幹工子第1788号を以て当社土地境界の立会方のご依頼状を頂きましたが貴計画路線について平面図によりますと既設の当社線路に対し著しく不利の影響を与えること又旅客の立場になって考えましても全く展望を遮へいする高い壁を以って遮断されて窓外の眺めも不可能となり観光価値と交通の快適性を奪い去る状況にしてこれは旅客輸送機関として堪える処ではありません。殊に最近は著しくバスの進出により鉄道旅客が減少の傾向にある際鉄道沿線の環境と風致を著しく害する施設はサービスに逆行し旅客の減少を来たす事は明かであります。更に当社は観光開発をもって旅客誘致の主目的とする趣旨に対しても相反する結果となり而も経営本体である鉄道を利用する旅行者に不愉快の念を起させる様では何の観光ぞやと世論の批判を受けることは必至であり、当社の最も忍び難き処であります。のみならず洪水の場合或は無数の踏切の安全確保より見て事故防止は期し難くその他種々雑多の困難なる障害事項が予想されるので、国の交通幹線建設に対する御熱意は了解しますが現在の御企画を以って強行せらるる事は当社社業の遂行上致命的の障害となる事を憂慮するものであります。これ等を容易に解決する為には数百米当社線より間隔を置く様に御考慮下さいますか、又抜本的方策としては国鉄に於かれ当社線を買収された上適当に処理される事も一案かと思料しております。

従って御申越しの境界の立会は尚早と存じますのでこの際御遠慮申し、右述の如き根本的の諸問題につき再考を御願いする次第であります。

 

 林常彦近江鉄道取締役(当時)は鉄道雑誌『鉄道ピクトリアル』で

新幹線については景観料のことばかり有名になってしまいましたが、これは新聞がおもしろく書いただけのことで、当社としては新幹線建設により被る影響の最後の一項目として挙げたにすぎません

と述べているが、上記文書の一発目に「全く展望を遮へいする高い壁を以って遮断されて窓外の眺めも不可能となり観光価値と交通の快適性を奪い去る状況にしてこれは旅客輸送機関として堪える処ではありません。」と国鉄に通知しているではないか。

 また、回答の順序は逆になるが、先に国鉄から照会のあった土地収用法関係の照会文に対して下記のとおり回答している。

近江鉄道から国鉄への土地収用関係回答文書 (1)

甲丑第19号

昭和36年1月13日

近江鉄道株式会社

 代表取締役 山本 広治

日本国有鉄道

 大阪幹線工事局長

 五味 信殿

土地収用法第18条第2項第3号の規定に基く意見について回答

昭和35年8月1日附大幹工子第1、121号の1を以て御照会の件左記の通り御回答いたします。

1、彦根市鳥居本町、同市高宮町、神埼郡五個荘町大字小幡、近江八幡市西宿町の鉄道用地については跨線橋建設の場合と考えられますが当社線路軌条面上と貴橋桁下面との間隔及当社の要望等の協定成立如何により築堤高も変更を来し従って土地面積も変りますし更に第2項の状況により位置も異なりますので協定如何によって意見を述べたいと思います。

2、犬上郡豊郷村字石畑、愛知郡愛知川町字市の鉄道用地については貴計画が既設当社線路に隣接して計画されているので当社としては種々の支障ありと考え、之れについて別途善処方を要望する書類を提出している関係上只今の処では諾否の意見を述べることは出来ません。

 以上

これらの近江鉄道の要望に対する国鉄の回答は、ゼロ回答に等しいものであった。

国鉄から近江鉄道への回答文書1

 

国鉄から近江鉄道への回答文書2

日本国有鉄道 大幹工丑第818号

昭和36年4月4日

近江鉄道株式会社

代表取締役 山本 広治殿

 日本国有鉄道

 大阪幹線工事局長 五味 信

 

東海道新幹線を近江鉄道貴生川~米原線に平行して敷設することについて。

 

 陽春の候、貴社ますます御隆昌の御こととお喜び申し上げます。

さて、昭和35年12月14日付甲第1085号でお申し越しの標記については、種々検討いたしましたが、下記のような事情で貴意に副いかねますので、悪しからず御了承下さるようお願い申し上げます。

  記

1.路線の変更について

 近江鉄道と平行する区間の前後の関係と現在までの経緯(関係官公庁及び関係市町村ならびに関係者との協議その他)等より見て、甚だ遺憾ながら路線を変更することは殆んど不可能であります。

2.路線平行に伴う保安上の問題について

 監督官庁である大阪陸運局のご意見もあることと思いますので、監督官庁の御指示に従いたいと存じます。

3.貴社路線の買収について

 現状に於ける諸種の条件より実現不可能と考えられます。

4.以上のような実情でありますのでできるだけ速かに御協議を戴き、具体的な問題の円滑なる解決を計りたいと考えておりますから、まげて御協力を賜りたく御依頼申し上げます。

 ところで、近江鉄道からは国鉄による同線の買収の要望が出ているわけだが、この根拠は何かというと地方鉄道軌道整備法第24条に基づく補償の一環として求めているものと思われる。

 (補償)

第24条 日本国有鉄道が地方鉄道に接近し、又は並行して鉄道線路を敷設して運輸を開始したため、地方鉄道業者がこれと線路が接近し、又は並行する区間の営業を継続することができなくなつてこれを廃止したとき、又は当該地方鉄道業の収益を著しく減少することとなつたときは、日本国有鉄道は、その廃止又は収益の減少による損失を補償するものとする。当該地方鉄道業者が、日本国有鉄道の当該鉄道線路と接近しない、又は並行しない区間につき地方鉄道業を継読することができなくなつてこれを廃止したときも、同様とする。

(第2項以下は省略)

同じ滋賀県内でいえば、江若鉄道が湖西線の建設にあたり同条に基づき補償を受けているようだ。

 

このあたりの交渉経緯を東海道新幹線工事誌は下記のように述べる。

東海道新幹線工事誌の近江鉄道関連部分2

東海道新幹線工事誌の近江鉄道関連部分3

上記要望事項の一部は、この後に出てくる。

新幹線と近江鉄道にまつわる「景観補償」の検証(その3)

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