【TX開業10周年記念】20億の補償を要求し、常磐新線に法廷闘争を仕掛けた総武流山電鉄
つくばエクスプレスが8月24日に開業10周年を迎えたそうである。
ところで、以前、東海道新幹線建設にあたり近江鉄道がいわゆる「景観補償」を要求した件について記事を書いた。
また、小川裕夫氏が「封印された鉄道史」において「滋賀県では新幹線と高宮駅-五個荘駅間で併走する近江鉄道が国鉄相手に訴訟を起こしている。」などというデタラメを書いていることも指摘した。
しかし、つくばエクスプレス建設においては、本当に補償を要求して法廷闘争に持ち込んだ鉄道会社があったのである。
(3)鉄道事業者との協議
該当鉄道事業者との交差協議については、当初から首都圏新都市鉄道株式会社が行っていたが、つくばエクスプレス(常磐新線)の開業後における当該鉄道事業の経営への影響は多大であるとの流山市が実施した調査結果等により協議は難航した。しかしながら、未解決者が少数になったこと、同じ鉄道事業者として収用対象者になること等を考慮すれば交渉を引き延ばすことは得策ではないとの判断から、平成15年1月に起工承諾を得ることができ、工事に着手した。その後、交差・経営支援策等の協議を千葉県・首都圏新鉄道が中心になり進めた結果、平成15年7月に土地賃貸借契約を締結し解決した。
「つくばエクスプレス(常磐新線)工事誌」鉄道建設・運輸施設整備支援機構鉄道建設本部東京支社 から引用
社名こそ書いていないが、これは総武流山電鉄(現・流鉄)のことである。しかし、ここには法廷闘争になったとは書いていない。当時の新聞を見てみよう。
客奪うだけなら常磐新線通せぬ 総武流山電鉄、営業補償を要求
東京・秋葉原―茨城・つくば間58.3キロを結ぶ計画の常磐新線が、千葉県で交差するローカル線・総武流山電鉄(流鉄)の合意が得られず1.3キロ分の工事申請が出来ない状況になっている。流鉄は「新線に乗客を奪われる」と営業補償を求め、両者の交渉は中断している。このままだと2005年開業予定の新線は、秋葉原―千葉・南流山の「部分開通」になる可能性も出て来た。
(中略)
92年に鉄道事業の免許申請をする際、MIR社は流鉄側に事業への協力を打診した。この時、流鉄側は「申請はやむを得ないが、支援を願いたい」と回答した。正式な交差協議には「経営に大きな影響が予想され、会社の存亡にかかわる」と慎重な姿勢をみせた。
というのは、97年度も利用客減で収益は1200万円減の6億5千万円。流山市の調査で、新線開通により利用客は4割減とのデータもある。
流鉄は「窮状を理解した具体的な対応策の提案がなければ協議に入らない」とし、MIR社に経営維持の30億円融資、20億円の営業補償などを求めた。
MIR社は「交差協議は、交差の構造、技術について話し合う場。営業への影響は別の場で協議したい」との立場を取り、昨年5月の社長同士によるトップ会談は決裂した。事務レベルでの接触も今年6月の電話を最後に中断した。
(中略)
一方、流鉄の小宮山英一社長は「要求は出してあるが、相手は全く交渉する気がない。既成事実でことを進めようとしている。少子化で21世紀は人口も減り必要がない。無駄な公共事業の典型だ」と態度を硬化させている。
(後略)
朝日新聞 1998年10月12日夕刊
事件の現場はここだ。
流鉄の小宮山英一社長とは、下記のような方である。
いずれも「流山電鉄七十八年。」山本文男・著 流山新聞社・刊(1994年) から引用
「平和相互銀行」「小宮山英蔵亡きあとの小宮山グループの若き総帥」とのフレーズがしびれる。政商の血筋をひいた小宮山社長にはこんな駆け引きは朝飯前なのだろうか。
ちなみに、私がしつこく記事を書いている三原橋地下街のオーナーである新東京観光株式会社も小宮山グループである。http://kakuyodo.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-8445.html
小宮山一族については、下記のサイトも参考にされたい。
http://kingendaikeizu.net/seizi/komiyamayasuko.htm
http://judiciary.asahi.com/jiken/2014102600002.html
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumona.nsf/html/shitsumon/a104009.htm
(平和相互銀行の検査をした大蔵省の検査官が流鉄の顧問に就任したりしてたのかw)
こいつがグループ企業というわけ。つーか、新東京観光が流鉄の株主らしい。
常磐新線と流山電鉄の「交差協議」、司法の場へ
「客を奪うだけの新線は通せない」と常磐新線のルートと交差する総武流山電鉄(流鉄)が工事を拒んできた問題は13日、調停の申し立てという形で司法の場に持ち込まれた。流鉄側は、交差部分を除く区間の新線の工事が申請されたことを危ぐし、「既成事実で優勢な形を作ろうとしている」と批判。一方、新線を運営する新都市首都圏鉄道(MIR社)は「流鉄には協議に応じてもらうよう呼びかけていたのに」と、突然の調停申し立てに驚いている。
流鉄の小宮山英一社長は13日に都内で記者会見し、「流鉄の調査によると新線が開通すると乗客が4割減り、経営が成り立たなくなる。新線は(流鉄の路線を)迂回してもらえればいい」と話した。代理人の河合弘之弁護士は「(MIR社に)誠意ある交渉が見られず、既成事実ばかりが作られている。きちんとした話し合いの土俵づくりのために申し立てをした」と話した。
(中略)
これに対し、MIR社は「開業に間に合わせるため、条件が整った個所から工事申請するのは当たり前。流鉄を追い詰めているのではない」と反論。「交渉を遅らせたのではなく、流鉄が求めている営業補償などどんな対応ができるかを検討している」と言う。小宮山社長の「迂回」発言には「鉄道の免許申請時には応じてくれたのに。できることとできないことがある」と不快感を示した。
流鉄は合意の条件に新線開通に伴う乗客減の営業補償を挙げている。これが交差協議が合意できなかった要因の一つだ。
(中略)
しかし、MIR社は「我が社は株式会社であり、民間の世界では自由競争が原則と考える」と否定的だ。
<これまでの経緯> 鉄道事業法の施行規則は、新たに鉄道の工事認可を申請する際に既存の鉄道と交差する場合は、協定・承認を必要としている。
新都市首都圏鉄道(MIR社)は昨年2月、総武流山電鉄(流鉄)に交差協議を申し入れた。しかし、流鉄は「経営に大きな影響が予想される」と慎重な姿勢を見せた。5月に「新線が開通すると利用客は4割減る」との流山市の調査をもとに、協議に入る前提として30億円融資、20億円の営業補償を求めた。
これに対し、MIR社は「交差協議は、交差の構造、技術について話し合う場だ」と主張。両者の意見はかみ合わず、その後1年以上にわたり、交渉は中断した。
その間、MIR社は流鉄との交差部分1.3キロを除く区間の流山市域の工事申請をし、運輸省から認可を受けた。
朝日新聞 1998年11月4日朝刊
「新線は(流鉄の路線を)迂回してもらえればいい」と流鉄の社長が言い切っているあたりがなかなかしびれるところである。
私が以前書いた、近江鉄道・西武鉄道・堤康次郎の言い分を聞いているようだ。しかし小宮山英一社長は、堤康次郎(←本当は訴訟や刑事告訴大好き)ですらやらなかった法廷闘争をつくばエクスプレス側に仕掛けたのである。さすが平和相互銀行。代理人が数々の修羅場を潜り抜けて来た河合弘之弁護士というのも。。
電車が西武のお古だけかと思いきや、やりくちも西武そっくりだ。
常磐新線の用地問題、ほぼ解決 MIR社と流鉄が合意
05年開業を目指す常磐新線(つくばエクスプレス)の建設に関連して、新線を運営する第三セクター首都圏新都市鉄道(MIR社)と流山市内の総武流山電鉄の間で用地使用問題が話し合われてきたが、MIR社側が流鉄側に経営安定のために融資をする代わりに、流鉄が土地使用を認めることでこのほど合意した。今回の合意で東京・秋葉原―茨城県つくば市間を結ぶ動線の鉄道用地問題は事実上、解決する。
新線開通で利用客減を心配する流鉄が、自社の線路と交差する新線の工事を拒む状況が続いていた。
(中略)
流鉄側は、新線が開業すれば利要客数が4割減少するとして、交差部分の自社の土地を使って新線がトンネルで通る代わりに、MIR社に営業補償約20億円を求め、98年に東京簡裁に調停を申し立てた。しかし、両者の意見は平行線のまま、調停は今年6月に不調に終わっていた。
MIR社や流鉄によると、11月に入って県を交えた交渉の中で、MIR社側が経営安定策として流鉄に融資を行うことで合意した。今後具体的な融資額などを詰める。
(後略)
朝日新聞 2002年12月4日朝刊
新聞には具体の金額は書いていないし、上述のように工事誌にも「経営支援策等の協議」としか書いていないのだが、何がしかの金が流鉄に渡って開通にこぎつけたようである。
一枚くらいはTXの電車の写真でも貼っておくか。。
TXの「10年のあゆみ」には当然こんな経緯は出てこないのである。
(追記)もともと常磐新線は、国鉄が建設するという話もあったと記憶するが(そもそもは通勤新幹線構想の一つだった)、国鉄の場合は収益減を補償できる規定があったのだ。
(補償)
第二十四条 日本国有鉄道が地方鉄道に接近し、又は並行して鉄道線路を敷設して運輸を開始したため、地方鉄道業者がこれと線路が接近し、又は並行する区間の営業を継続することができなくなつてこれを廃止したとき、又は当該地方鉄道業の収益を著しく減少することとなつたときは、日本国有鉄道は、その廃止又は収益の減少による損失を補償するものとする。当該地方鉄道業者が、日本国有鉄道の当該鉄道線路と接近しない、又は並行しない区間につき地方鉄道業を継読することができなくなつてこれを廃止したときも、同様とする。
(第2項以下略)
「交通技術」1968年1月号「東京周辺の改良工事施工上の諸問題」菅原操著35頁から引用
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コメント
誤字や脱字があります。
朝日新聞 1998年10月12日夕刊の記事
×このままだと2005年開業予定の新線は、秋原場―千葉・南流山の...
○このままだと2005年開業予定の新線は、秋葉原―千葉・南流山の...
朝日新聞 1998年11月4日朝刊の記事
×一方、新線を運営する新都市首都圏鉄道(MR社)は...
○一方、新線を運営する新都市首都圏鉄道(MIR社)は...
×新都市首都圏鉄道(MR社)は昨年2月...
○新都市首都圏鉄道(MIR社)は昨年2月...
×これに対し、MR社は「交差協議は...
○これに対し、MIR社は「交差協議は...
×その間、MR社は流鉄との交差部分...
○その間、MIR社は流鉄との交差部分...
投稿: 沿線住民 | 2016年2月21日 (日) 13時52分
「沿線住民」様
ご丁寧にご指摘を頂戴いたしまして有難うございました。
修正させていただきました。
取り急ぎご報告と御礼まで。
投稿: 革洋同 | 2016年2月21日 (日) 20時17分
つくばエクスプレスとの交点に乗換駅を建設してあげよう。
投稿: ガーゴイル | 2021年12月14日 (火) 15時00分