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2016年5月 7日 (土)

道路収入の1割を稼ぐ「路下室」とは何か~東急ターンパイクの考察(その4)

 東京江之島間有料専用道路申請書が出て来た~東急ターンパイクの考察(その1)において

「収入の約1割を「路下室賃貸料」つまり高架下建築による賃貸料を見込んでいることも注目すべきだ。」

と書いた。

東急ターンパイク免許申請書 (20)

 ではいったい「路下室」とは何か?

 当時の報文に図面が示されている。

東急ターンパイク路下室

「道路」1957年5月号「東急ターンパイクについて(その1)」(東急電鉄KK道路課・著)から引用

(東急に「道路課」という組織があったのだな)

 住宅の兼営

 東急ターンパイクの寄与に就ては交通効果の外に、路下室の提供を掲げなければならない。即ち渋谷-多摩川間8粁を主とする既成市街地区域では、ノンクロスを確保する関係上、道路は高架構造となり、路下に空間ができる。この空間をガレーヂ、倉庫、商店、事務所、住宅として利用するために約8億円の造室費が計上されている。

 その面積は約26,000坪であるから、平均二層構造に造るならば52,000坪。一戸当り15坪として約3,500戸の永久不燃家屋が提供されるわけである。一戸平均4人として収用人口は14,000人となる。実に一都市の全家屋に平均する膨大な造営である。一面に於て支障となる既成家屋の取りこわしが起るのは止むを得ないが、その個数は約500戸内外におさまる。

 東急ターンパイクは勿論交通を主眼とするものではあるが、以上の見地から眺めるならば、一定線上に計画的の不燃家屋を建てて、僅かにその屋上を道路として借用するものであるという事ができる。

 路下室の提供が7億円の特別造室費の支出と同時に年3億円の室料収入が既に見込まれている。

 併し現内閣が住宅問題を道路整備事業とともにその重要政策として取り上げている今日、3,500戸の家屋が都内に、而も自らの築き上げる交通の至便と共に実現することは、極めて大きく評価されねばならない。

 

道路総覧 昭和32年版466頁から引用

 

 類似計画

 東急ターンパイクの道路・住宅・バスの3事業兼営計画は、住宅金融公庫法の29年改正にもられた都心における既存建築物上部の遊休空間の利用法としての多層家屋建設の構想を、若干発展せしめたものであって、必ずしも新規のものではない。従ってこの類似計画としては、民間では、銀座-新橋間の屋上道路、屋下事務室、商店等の計画が既に着工しており、官公庁においては、九州北部に海上橋梁を建設して、路下遊休空間を共同住宅に使用する案、或は関門道路トンネル両端における路下住宅建設計画がある。尚外国では、フランスのコルビジエーがこれと同様の着想をもって幾多の参考とすべき設計を発表している。

道路総覧 昭和32年版468頁から引用

 流石「総合デベロッパーとしての東急」としての書きっぷりである。

 「銀座-新橋間の屋上道路、屋下事務室、商店等の計画」については、言わずと知れた東京高速道路と西銀座デパート、コリドー街等の商店である。

東京高速道路

 「九州北部に海上橋梁を建設して、路下遊休空間を共同住宅に使用する案」は、北九州市内の若戸大橋のことであろうか?(実際には共同住宅は建築されていない。)

若戸大橋

 また、「外国では、フランスのコルビジエーがこれと同様の着想をもって幾多の参考とすべき設計を発表している」については

 道路と建築が一体化された「ロードタウン」の系譜についていえば、チャンプレスの計画のほかには少ないが、ル・コルビジェがレザミ・ダルジェ主催の展覧会に出展した「オビュ計画」(1930年)と(中略)が代表的であろう。

 チャンプレスとル・コルビジェの計画では、屋上に配置された道路が建築と等しい断面を持つ矩形断面が採用された(略)。

 

自動車と建築」堀田典裕・著  84頁から引用

なんだそうだ。

 

 尤も、日本も戦前から高架下に住宅等を建築した例はある。

中津高架下 (8)

 私がいくつか記事を書いた中津の高架下建築群である。

大阪の中津高架下建築に係る現状のまとめ(その1)

大阪の中津高架下建築に係る現状のまとめ(その2)

大阪の中津高架下建築に係る現状のまとめ(その3)

 

 フランスまで飛んだりと、高架下建築の世界は奥が深いな。

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東京江之島間有料専用道路申請書が出て来た~東急ターンパイクの考察(その1)

東急五島慶太の自動車道計画の全貌~東急ターンパイクの考察(その2)

何故に東急ターンパイクの免許は認可されなかったのか~東急ターンパイクの考察(その3)

(参考)

箱根ターンパイクがNEXCO中日本に買収されて子会社になっていた

東急プラザは東急ターンパイクのバスターミナルになるはずだった

「トトロの住む家」が本社だった高速道路会社があった

第三京浜道路調査報告書を読む~玉川ICは、何故そこにあるのか?~

清水草一氏の「中途半端な目黒線と第三京浜、実は渋滞解消の特効薬? ヒントはパリに」に係る考察(2)

東急ターンパイクに係る東京都庁議書類

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