土浦ニューウェイ(筑波研究学園都市新交通システム)について(その9)
自分が都市と交通の問題に関心を持つようになったきっかけは、約30年前に出会った岡並木氏の「都市と交通」、田村明氏の「都市ヨコハマをつくる」ともう一冊、これが書名も出版社名も全部忘れており探しあぐねていた。
ところがあっさりと歩いていける図書館にあったのだ。おお懐かしい。
大西隆氏の「地域交通をあるく」。大西氏が東大教員になる前にODみたいな形で開銀にいたころの著作だ。全国の様々な交通問題を抱える街を歩いてトヨタ系の雑誌に連載していたものをまとめたものだという。
札幌-地下鉄とバス、マイカーの結合を
沢内・湯田-集落移転と山村生活の改善
仙台-地下鉄は切札たりうるか
郡山-拠点性を高める交通都市
筑波-デュアル・モード・バスの社会実験
高崎・前橋-競い合う双子都市の将来
長岡-ビッグプロジェクトが集中して
金沢-非戦災都市という「災褐」
長野-成功するか「セル方式」
岐阜-計画の自立性と推進力をどう確立するか
掛川-地方の時代の郷土づくり
矢作川-水がとりもつ「共同体」
和歌山-恵まれた交通環境の将来展望
鳥取-過疎の足バスの運命は
岡山・香川(その一)-「本四架橋悲願」の彼方に
岡山・香川(その二)-本四架橋の陰影にも光を
高知-三○万都市への飛躍
北九州-都市の足、モノレール第一号
長崎-突端の町を行く路面電車
宮崎-試練の秋か、パーク・アンド・ライド方式
那覇-ナナサンマルを越えて新しい交通体系を
おお、「筑波-デュアル・モード・バスの社会実験」があったではないか。ということで、いつまでも終わらない『終わる終わる詐欺』「土浦ニューウェイ(筑波研究学園都市新交通システム)について(その9)」をいってみよう。
筑波に新交通は本当に必要なのか
今回のテーマである筑波での新交通システム-デュ アル・モード・バスシステム-の実用化の問題もまた概成期以後の筑波の進むべき道と密接に関連してくる。 すなわち、新交通システムは筑波に本当に必要な都市施設として建設されるのか、それとも研究都市にふさわしい社会実験として試みられるのかである。
筑波研究学園都市は、職住近接の街である。東京への通勤交通は街の生命線ではない。総事業費一兆円を超えるプロジェクトだけあって、道路の整備状態はよく、九〇%を越す保有率のマイカー交通を支えている。これに路線バス、ハイヤー、自転車、徒歩が加わり、筑波の交通体系が構成されている。「地区内交通の現在の課題 は、自転車専用道網の整備」(石黒氏)といわれるように比較的恵まれた交通環境にある。土浦方面への交通に しても、道路(土浦学園線)にまだ余裕があり、公共交通もバスの増便で対応できそうである。
つまり、現状は少なくとも都市交通の必須の手段として新交通システムが他の諸都市に先駆けて優先的に敷設されなければならないという状態ではない。しかし、現状はそうであるにしても将来はどうなのか。そこで概成期以後の筑波の将来が、新交通システムをめぐって重要となってくるのである。
東京のベッドタウンにすれば七万人の不足分ぐらいすぐに埋められる、といった乱暴な声もある。筑波の理想を真っ向から否定するため、さすがに大きな声になり難いが、もしこうなれば、たちまち新交通システムは住宅 地と国鉄ターミナルを結ぶ通勤幹線となる。
「地域交通をあるく」50頁から引用
いきなりであるが、「筑波に新交通は本当に必要なのか」ときた。本来職住接近型の学園研究都市だし道路もしっかりしているので新たな公共交通はいらないのではないかというもの。確かに下図の都市名を見ても多くは既存市街地の路面電車置き換えやニュータウン等のバス・自動車では飽和してしまうような箇所が多そうだ。
「公共事業ガイドシリーズ 都市モノレール・新交通システム事業」公共投資ジャーナル社編集部 編から引用。
しかも「七万人の不足」である。これはどういうことかというと、学園研究都市の計画人口約10万人に対して、当時は約3万人に止まっているということである。
一旦事業化されながら、採算性が合わなくて事業中止になったのはここにポイントがあるのかもしれない。10万人を見込んで事業化したが実際にはその3分の1しか住民がいないので採算がとれないと。。。
デュアル・モード・バスシステムの特性
こうした中での新交通システムの登場である。計画は研究学園地区の中心部から、常磐線土浦駅まで約一五キロメートル。このうち、研究学園地区内の大学病院-ターミナル間一・五キロメートルが事業決定され、総工費四二億円をかけて着工されようとしている。
筑波の新交通システムは、デュアル・モード・バスシステムと呼ばれ、専用軌道(ガイドウェイ)と一般道路 を同一車両が走り分ける。ガイドウェイ上ではコンピュータのコントロールで無人走行し、一般道路では通常のバスと同様の有人走行となる。ガイドウェイを走行する新交通システムの試みは大阪の南港や神戸のポートアイ ランド等で工事が進められているから、筑波での試みは、デュアル・モード・システムとして初めてのものとなる。
実は、このデュアル・モード・バスシステムと研究学園都市とはとりわけ縁が深い。学園都市内に移転した建設省土木研究所で、実験コースが設けられ、技術開発が進められてきたからである。「昭和五十三年度末で必要な研究はすべて終わり、あとは実用の段階に入った」(神崎紋郎·建設省土木研究所新交通研究室長)。
その第一弾が、研究学園都市となったというわけである。
しかし、建て前は研究学園都市のデュアル・モード・バスシステムが実用化第一号であっても、内実は土木研究所内での実験から、一般市街地での社会実験という性格を持つことは否定できない。「無人運転のガイドウェイ上での客扱いがどうなるか」 (神崎室長)など、研究開発陣も社会実験に強い関心を寄せている。
事業決定された筑波でのデュアル・モード・バスシステムが、実験的性格を持つといわれるのは技術的領域についてだけではない。デュアル・モード・バスシステム は、どのような都市にどのような目的で適用されるべきか、というソフトウェアの核心に、何らかの解答を引き出すことも社会実験の重要なねらいに違いない。実際今度事業決定された一・五キロメートルは広幅員の街路や歩行車専用道が既設され、ガイドウェイを敷設する必要性は最も少ない地区である。また土浦駅までの延伸計画にしても、職住近接、低密度の研究学園都市を前提とすれば、交通計画的にどれほどの緊張性があるか疑問であろう。そこでの事業化はあくまでも今後の全国的適用のためのパイロット事業的性格を持つのは当然であろう。
「地域交通をあるく」51~53頁から引用
既存の交通手段では飽和していないにもかかわらず、新交通システムを事業化した理由は、筑波にある建設省機関が従前から研究していた「デュアル・モード・バス」が使い物になるかどうかの「パイロット事業的性格を持つ」のだという。
ところで、筑波での「社会実験」を前にしたデュアル・モード・バスシステムは、どのような特性を持っているのだろうか。
第一に、電車の定時性とバスの利便性を兼ねる点で画期的なシステムである。ガイドウェイ上は専用軌道であるから最小ヘッド間隔一○秒間で、時速四○キロメート ルの定速走行が可能である。一般路上では、通常のバスとほぼ同じ機能を発揮。ダイヤ走行やデマンド走行で、住宅地や業務地できめ細かいサービスが可能である。
第二に、地下鉄に比べ三分の一か四分の一のコストで建設できる。しかも、インフラ部分-つまりガイドウェイと支柱-は街路事業とされ、高率の国庫補助制度が適用されるため、施設者、利用者の負担軽減が図れ る。
第三に、省力化である。ガイドウェイ上の完全無人走行システムが開発されている。運転者はモードインターチェンジと呼ばれる一般道路とガイドウェイの接合点までバスを入れればよい。あとはコンピュータに管理されながら誘導装置に従ってガイドウェイ上を無人走行す る。
第四に、電気バス方式による無公害化である。バスはガイドウェイ上で送電のほか、バッテリーへの充電を受け、一般道路ではバッテリー走行する。
こうした特性のデュアル・モード・バスシステム。その適用地として、土木研究所では、①住宅団地と鉄道駅 ②空港や港湾と都心、③鉄道駅とレクリエーション地域などをあげている。つまり、二地点間にある程度まとまった量の交通需要があり、かつ各端末では最終目的地が分散しているケースである。
「地域交通をあるく」53~55頁から引用
「デュアルモードの導入促進に関する調査業務報告書」によると、 「2001年 3 月 23 日、国内初の実用路線として名古屋ガイドウェイバス志段味線(ゆとりーとライン)が開業。」
こんな感じのものが筑波にできる目論みだったということだ。
「地下鉄に比べ三分の一か四分の一のコストで建設できる。しかも、インフラ部分-つまりガイドウェイと支柱-は街路事業とされ、高率の国庫補助制度が適用されるため、施設者、利用者の負担軽減が図れ る。」というメリットがあるものの、これは建設に係るコストが削減されるだけである。日々の運用の赤字を補填してくれるわけではない。そもそも「筑波に新交通は本当に必要なのか」というような情勢のなかで、新交通システムを運用するに値する需要が疑問視されるような状態では「収支見通しがつかない」として事業中止になるのもむべなるかなといったところだ。
なにせ、10万人住む計画が3万人しかいなかったのだから。
そうなると、土浦ニューウェイが想定している「4両編成分の新交通システム」というのは遥かにオーバースペックのような気がする。バス1台でも採算が取れなかったのに。
日本交通計画協会機関誌「都市と交通」1985年6号「土浦高架街路」(茨城県土木部都市施設課長 田沢 大・著)から引用。
そして、筑波でのデュアル・モード・バスシステムの実用化の最も大きな役割は、こうした既存の、あるいは開発途上にある他のシステムや対策との比較に十分耐えられるような生きたデータを社会実験の中から得ることである。将来の適用を考えてデュアル・モード・システムに関心を寄せる人々が欲するデータは、例えば次のような事項であろう。
道路上に高架建設されるガイドウェイの景観への影響。ガイドウェイの設置可能な道路幅員の目安。ガイド ウェイ上の走行システムの維持管理の容易さ。デュアル・モード・バスの普及によるガイドウェイへの自由乗入れ方式の可能性。片端末、両端末で一般道路走行する場合での運転者の必要数、等々・・・・・・。
「地域交通をあるく」56頁から引用
ところで、都市形成の点からも、新交通システムの点からも、概成期という転機を迎えている筑波研究学園都市には、いま科学技術博覧会待望論が起こっている。昭和六十年に科学技術博(万国博)を誘致し、五、〇〇〇億円とも一兆円ともいわれる関連公共投資により、懸案を一気に片付けようというわけである。そうなれば土浦駅から会場までの足として新交通システムも整備されようし、周辺の開発ピッチが上がる。確かに研究学園都市 を中心とする茨城県南部に大きな変化をもたらすだろう。しかし、科学技術博待望論から生まれる帰結は、東京への時間距離の短縮によるベッドタウン化ではないのか。もしそうであるならば、かつては東京一〇〇キロメートル圏を断念し、五○キロメートル圏の筑波に立地決定したとき、当時のプランナーたちの胸をかすめた「過密助長につながりはしないか」という危惧は、はからずも適中することになる。この道は避けなければならない。
「地域交通をあるく」56~57頁から引用
ネット上では「科学万博の足として新交通システムの導入が検討された」という話が散見されるが、この部分を見ても「新交通システムの事業化が先、万博の誘致が後」ということが分かる。
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土浦ニューウェイ(筑波研究学園都市新交通システム)について(その2)
土浦ニューウェイ(筑波研究学園都市新交通システム)について(その3)
土浦ニューウェイ(筑波研究学園都市新交通システム)について(その4)
土浦ニューウェイ(筑波研究学園都市新交通システム)について(その5)
土浦ニューウェイ(筑波研究学園都市新交通システム)について(その6)
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