首都高と河川利用と景観
先日、首都高初期のパンフ「首都高速道路公団のあらまし」と首都高初期のパンフ「伸びゆく首都高速道路」をUPしたところであるが、「日本橋の景観が(ry」という点について再度整理してみたい。
首都高が設立され、その「事業のあらまし」を紹介するパンフに「日本橋を高架橋が乗り越えていく箇所」を持ってきたところに、首都高側の「これこそ首都高の象徴となるシーン」とする意向、姿勢が伺い知れる。
@FanTaiyo あいかわらずすばらしい資料発掘してきますね。それにしてもいい絵だなこれ! HEIBON 気になる。
— 大山顕 (@sohsai) 2016年11月23日
大山総裁にもお喜びいただけた。
「完成時にはそのダイナミックなスケールと、そのメカニックな美しさのため東京の新名所となることでしょう。」というあたり、「これこそ新時代の美しさなのだ」という提起をしており、後付けで「オリンピックのために景観を無視した」という批判はあたらないのではないだろうか?
当時の報道等も気にして見ているのだが、河川上(若しくは干拓)の利用による道路整備を批判したものには(私の探索努力不足もあろうが)あまり目立たない。むしろ下記のような論調のものを見つけたりした。
(読売新聞 1962(昭和37)年1月25日付夕刊から引用)
読売新聞の主張をざくっとまとめてみると
・新しくできる阪神高速は河川敷を上手く使うことになっているが、首都高の場合は、東京で戦災の残土処理のために多くの河川を埋め立ててしまったので大きな阻害になっている。
・首都高の河川敷利用が少ないため用地買収等に必要以上の経費がかかっているうえ、住民の反対で工事が遅れている。交通事故が多発する交通事情を改善するために一日も早い道路整備が必要だ。
・河川が不要になったら干拓して掘割式の自動車道路を建設したり、河川を廃止できなくても高架の自動車道路を建設したりするのが世界各国の大都市における実情だ。
・戦災復興の埋め立ては景観上問題ありとしながら、高速道路による河川利用についてはそのような指摘がないことからすると、当時の読売新聞としては、高速道路による河川利用は景観上はセーフだったのだろうか?
最近のマスコミ等の論調では「都心の高架の高速道路や水辺を潰す高速道路は世界的に珍しく、考えられない」といった趣旨がよく見受けられるが、当時のマスコミは、それこそ世界の大都市の実情だとして河川敷を活用した一日も早い道路整備を主張しているのである。その背景には交通事故等の事情が逼迫していたことも記事から読み取れる。
マスコミが勝手なところは、自社のこういった過去の主張は無視して、その時々でええかっこするし、「世界の実情」も自分の都合のいい断面で切り取って持ってくるあたりかなと。
読売新聞が「首都高の景観が~」と言い出したら、この記事についての感想をまず語っていただきたいものだ。
私も価値観が時代によって変化することを否定するわけではないが、まあ自社の主張についても一定の整理をしたうえでマスコミさんにも偉そうなことを言ってほしいなと。
ちなみに、毎日新聞1965(昭和40)年8月3日付の記事では、「高速道路建設にあたって京橋をどうするかをめぐって地元町会と話し合ったが、予想に反して反対意見が少なかったため取り壊した」とある。地元の意識も当時はそんなものだったのだろう。
この記事もノスタルジーの面ではとらえているが、景観の面には一切触れていない。
この他にも、「首都高の高架下にドブ川を残すより、この際埋めて活用しよう」という地元の意向もあった旨の記事も見た記憶がある。
とはいっても、6号線の隅田川沿いに高架橋を立てるにあたって「セーヌ河畔にも河川敷を利用したモーター・ウェイがあります」とするのは悪ノリのような気がする。いくら私でもあれとこれは違いすぎるだろうと思うぞ。
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記事の趣旨とは異なるが、首都高速の河川利用にあたって河川管理者側の経緯をまとめた報文がなかなか興味深いので、この機会にぜひお目通しいただきたい。
「日本橋における首都高速道路の上空占用に至る経緯」
http://www.kensetsu.metro.tokyo.jp/content/000021817.pdf
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コメント
この人にはぜひCities:Skylinesをやってほしい
投稿: あのにます | 2016年12月18日 (日) 17時14分
あのにます様
情報ありがとうございます。
ぐぐってみました。
シムシティ(ただしwin95)とかThe Towerあたりのシミュレーションゲームなら当時結構やっていたのですが、これはそれをさらにグレードアップしたようなものなんですかね。
おっさんなのでwin95レベルより細かいシミュレーションゲームにはついていけそうにないです。。。
投稿: 革洋同 | 2016年12月24日 (土) 22時56分