JR30周年記念:国鉄改革で本四備讃線(瀬戸大橋線)は建設中止になるはずだった!?
時流に乗って国鉄分割民営化ネタで書こうと思っていたら、すっかり遅くなってしまった。神宮球場に横浜大洋の開幕シリーズを2回応援に行って2回とも負けたりしていたからだ。
というわけで超今更感があるのだが、一応準備していたので。
お題は、表題の如く、瀬戸大橋線の建設中止勧告である。例の如く当時の新聞記事を引用してみる。
国鉄再建監理委員会(亀井正夫委員長)は二十日、本州四国連絡橋三ルートのうち唯一の道路・鉄道併用橋である児島・坂出ルートの鉄道敷設工事をとりやめるよう中曽根首相に提言する方針を固めた。八月初めに打ち出す「緊急提言」に盛り込む。これは、財政が悪化している国鉄は年間五百億円にものぼる連絡橋利用料を負担する能力がないので、このまま敷設計画を進めれば、将来国鉄を分割・民営化する際の大きな障害になると判断したもの。首 相はこの提言を尊重する義務があるが、同ルートから鉄道がなくなれば、連絡橋の工費約七千六百億円はすべて道路部門でまかなわれ、地元自治体の負担が二倍近くに増えるだけに影響は大きい。
国鉄再建監理委員会は現在、緊急提言をとりまとめている。提言のねらいは「六十二年以降、円滑に分割・民営化するための対策」を打ち出すこと。同監理委員会は五十七年度末で十八兆円に達した借入金をこれ以上増やさない施策が最も重要と判断、設備投資の抑制に重点を置いており、本四連絡橋児島・坂出ルートの鉄道敷設中止は緊急提言の目玉になる。
(中略)
このため、同監理委員会は、このまま計画を進めれば、四国などの国鉄分割会社が 当初から膨大な赤字を背負うことになり、分割・民営化の大きな障害になるとして、敷設中止を求める方針を固めた。しかし、現在、地元自治体は連絡橋の道路部分の工事約四千二百億円のうち三分の一を負担しており、鉄道部分がなくなれば、この負担は二倍近くになる計算。また、五十八年度末までに同ルート連絡橋 (鉄道と道路)工事の契約率は六三%に達する見込みだったので、鉄道敷設工事が中止されると、関係業界は大きな影響を受けるため反発は必至である。
1983(昭和58)年7月21日付 日本経済新聞から引用
国鉄再建監理委員会の「緊急提言」の目玉としてJRに負担を増やさないために中止を求める考えだったという。
多額の赤字を抱えている国鉄の立て直し策を検討している国鉄再建監理委員会が、建設中の瀬戸大橋(本四架橋児島―坂出ルート)の鉄道建設を中止する方針を固めたことについて、四国四県、岡山県など関係行政機関や経済界の首脳は大きなショックを受けている。今のところまだ正式に決まったわけではなく、「あり得ないこと」という見方もあるが、関係筋に問い合わせる動きも。こうした方向が出たことに対して多く
は「瀬戸大橋は道路・鉄道併用橋というのが既定路線。新幹線は将来の問題にしても万一、在来線までたな上げされては架橋の意味がない」と戸惑いをみせながら衝撃を受けている様子。今後同委員会の動向に注目、関係機関一致して“巻き返し策”を進める動きも出ている。しかし青函トンネルの鉄道敷設計画中断の動きが表面化しているだけに、四年後の完成を前にした瀬戸大橋計画変更を危ぶむ声も少なくない。
(略)
1983(昭和58)7月22日付 日本経済新聞から引用
私の記憶には残っていないのだが、青函トンネルも建設中止が議論になっていたのか。
六十二年度完成をめざして順調に進んでいる瀬戸大橋(本四架橋児島―坂出ルート)の鉄道部門を中止する問題がクローズアップされている。国鉄再建監理委員会(亀井正夫委員長)が国鉄の財政立て直し策を検討している中で出てきたものである。八月二日に予定される同委の“緊急提言”でどう取り扱われるのだろうか。
瀬戸大橋は道路、鉄道併用橋で四国の離島性脱却の第一歩になる大事業。このうちの鉄道部門が宙に浮くことは大変なこと。今のところ国鉄監理委の提言では「瀬戸大橋の鉄道建設中止」とはっきり明記しないが、“抑制”することを求めるニュアンスの表現になるといわれる。
国鉄財政は膨大な赤字で“満身創痍(まんしんそうい)”。大半の路線が赤字で走ればそれだけ損する状態だ。四国総局管内の年間赤字額も五百二十億円を超える。瀬戸大橋の鉄道も赤字路線になるのは確実。それどころか年間約五百億円の連絡橋使用料を負担しなければならない。こういう事実を突きつけられると、瀬戸大橋も国鉄にとっては“お荷物”。監理委は「いくら経営立て直しのために知恵を絞っても、新しく赤字を生み出す事業を見逃していては……」というわけだろう。
ただ国鉄経営という立場からだけではなく、「日本の国づくりの一環」「地域整備の重要なプロジェクト」という位置づけで瀬戸大橋をとらえたい。前川香川県知事も「国鉄を救って四国を見殺しにするのか」と鉄道部門切り捨て論に反対したのも当然である。山口・四国経済連合会会長も「第二次臨時行政調査会をクリアーした事業で鉄道中止なんてあり得ないこと」と語っているし、まず鉄道部門がたな上げされることはないだろう。
しかし国の財政も国鉄同様、厳しい状態が続いている。一度決まったことであってもどんな情勢の変化が起こるかもしれない。四国約四百万人の住民すべてがこの問題の行方に鋭い目を向け続けたい。
1983(昭和58)7月31日付 日本経済新聞から引用
実際には「緊急提言」には瀬戸大橋線の建設中止は明記されなかったようだ。
国鉄再建監理委員会(亀井正夫委員長)が今月初め中曽根首相に提出した緊急提言が各方面に波紋を広げている。もっとも論議を呼んでいるのは「今後の設備投資は緊急度の高いものを除き原則停止」という“投資抑制命令”。「東北新幹線の東京駅乗り入れ工事は本当に中止されるのか」「本州四国連絡橋の工事はこれからどうなるのか」――など関係の地方自治体に不安が広がっている。緊急提言の読み方をめぐり、我田引水や“ひがみ”などが交錯し、これに政治家の動きもからんで、関係者は疑心暗鬼。「監理委員会にわからないように、工事をこっそりやってしまえ……」という勇敢な逆提言? も飛び出す始末。今月末には運輸省、国鉄が来年度予算の概算要求を大蔵省に提出するが、どの工事を継続してどの工事を中止するか、国鉄“秋の陣”は政府、地元、国鉄の思惑がからんだ複雑な展開になりそうだ。
「東北新幹線の東京駅乗り入れ工事がだめで、なぜ本四架橋は良いのか」。監理委員会が緊急提言を提出した直後、ある東北出身の代議士は運輸省の幹部にこうかみついてきたという。
東京駅乗り入れというのは東北新幹線上野駅―東京駅間四キロで進められている工事のことだが、実はこの工事どころか本四架橋の工事も緊急提言の本文では直接的には一言も触れていない。にもかかわらずこのふたつの大工事が問題になるというのは、緊急提言を読むと、このふたつの工事の先行きがどうしても気になってくるからだ。
緊急提言は、国鉄の投資全般について「緊急度の高いものを除き原則として停止すべきである」とうたい、続いて「なお書き」がある。それは「東北新幹線上野乗り入れ及びこれに関連する通勤別線についてはその特殊事情を考慮し、工事の継続もやむを得ないものとする」という文章だ。
これをすなおに読めば、東北新幹線は上野駅乗り入れまでは工事を進めても良いが、上野駅から東京駅間の工事は「原則停止」の対象というわけだ。
一方、本四架橋については緊急提言の中にこういう文言がある。「国鉄以外の事業主体が行う国鉄関係の設備投資についても徹底した見直しを行い、さらに工事規模の抑制及び工事費の節減に努めるべきである」。「国鉄以外の事業主体」というのは本州四国連絡橋公団(高橋弘篤総裁)と日本鉄道建設公団(仁杉巌総裁)のことだが、両公団の工事についてははっきりダメとは言っておらず、「徹底した見直し」とか「抑制」の意味をどう解釈するかで、工事続行を認めているようにも読める。
緊急提言がこんなに含みのある文章になったのは、政治的な配慮からだ。国鉄大手術に挑む監理委員会のメンバーにすれば、「これから新しい線路を敷くなどは論外」。東京駅乗り入れも、本四架橋の鉄道敷設も、国鉄再建にメドがつくまではいずれも工事中止を命令したいのが本音。ところが、監理委員会でこのふたつの大工事をめぐる論議が表面化するや、地元の自治体や関連業界から政治家などを通して猛烈な陳情攻勢が続いた。このため監理委員会としては、緊急提言の文章は中曽根首相に政治的な判断をゆだねるため含みのある表現にせざるを得なかったわけだ。
首相に裁量の余地を残しながらも、このふたつの工事の取り扱いに差ができたのは、本四架橋問題が東北新幹線よりもはるかに難しい側面を持っているからだ。
本四架橋の児島―坂出ルートの工費七千六百億円のうち四五%は鉄道部門が、五五%は道路部門が負担することになっており、鉄道敷設の中止は架橋そのものの中止という大きな政治問題にまで発展しかねない。そこでいきなり「中止」を提言するのではなく、国鉄にとって大問題のこの橋をどうするか、国民的な合意を形成するために「まずは計画の見直しを」と慎重な提言をしたわけ。
(中略)
しかし、“天下の国鉄”が政府や監理委員会の目を盗んで、こっそり工事をやるわけにもいくまい。国鉄の設備投資について「原則停止」や「徹底した見直し」を迫られた政府は、年末にかけての来年度予算編成の過程で、どの工事にストップやブレーキをかけ、どの工事を進めるかなどを決断せねばならない。東京駅乗り入れ、本四架橋以外にも、鉄建公団が建設している青函トンネルの問題など、国鉄にからむ工事はたくさんある。そのなかで下手をすると大きな政治問題になりかねないのが東京駅乗り入れと本四架橋の工事の行方だ。総選挙がらみの秋の政局を控え、中曽根首相は“行革内閣”の看板があせないようにこの工事をどう処理すべきか頭の痛いところだろう。
1983(昭和58)年8月19日付 日本経済新聞から引用
政治的配慮の玉虫色で生き残ったというわけか。その辺のかけひきは、下記の記事でも読み取ることができるのでこちらも是非。
http://www.iatss.or.jp/common/pdf/publication/iatss-review/14-1-02.pdf
ついでなので、明石海峡大橋に鉄道がかかるはずだったころのポンチ絵を貼っておく。
なお、明石海峡大橋への鉄道の架設については、井上孝氏が
まあ、克服できないものではないと思いますがね。あそこしかないとなったらやるでしょうけれどもね。鉄道もあそこはあきらめるということで、割とすんなりといきました。
土木史研究におけるオーラル・ヒストリー手法の活用 -高速道路に焦点をあてて--実践編 井上孝氏- 191頁 から引用
と語っている。
ところで、よく見ると、児島・坂出ルートのうち一部の橋が現在と形式は違う。
櫃石島橋と岩黒島橋は、イギリスのフォース鉄道橋のような形式(正確にはちょっと違う)になるはずだったのだ。
※橋の科学館展示物から
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