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2018年7月 3日 (火)

「高速道路」と「自動車道」の違いについて(その1)

「佐々木俊尚氏の「高速道路は基本100kmh制限です」ツイートを整理してみる」http://kakuyodo.cocolog-nifty.com/blog/2018/02/100kmh-4ecd.html

「東京新聞福岡範行記者「首都高は『高速』にあらず?→『自動車専用道路』です」を検証する。」http://kakuyodo.cocolog-nifty.com/blog/2018/02/post-f8a8.html

といった、道路の種別に関係する記事を書くにあたって調べていると

「高速道路」と「自動車道」は違うものであると考えている方が大変多い。

ということが分かった。

 よってこれから整理してみたい。

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 まず、結論から書いときますね。

・道路法及び道路交通法では、「高速道路」と「自動車道」の区別はなく、定義付けした法令上の条文もない。(私が調べた範囲では。あったらごめんなさい。)

・現在使われている実際の道路の名称は、歴史的経緯等が入り混じっており、「高速道路」と「自動車道」の峻別作業をすることは(一般の道路ユーザーにとっては)無意味といって差し支えない。

 ということで

「高速道路の最高速度は100キロで、自動車道の最高速度は80キロ」とかいうやつはデマです。

 あとは、一部のマニアのためだけに、読んでも糞面白くもなんともないし、人にもしゃべりたくならないような細かい歴史的経緯等を踏まえたネタをいつものようにチマチマと書きなぐっていきます。

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 まずは、国土交通省が所管する「道路法」での位置づけから。

 国交省のウェブサイトに「道路行政の簡単解説」というPDFがアップされているので、そこから引用してみよう。http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/dorogyousei/0.pdf

高速道路と自動車道の違い (1)

高速道路と自動車道の違い (2)

 はい、「高速道路」も「自動車道」も出てきませんね。

 道路法には、「高速道路」や「自動車道」という道路の種別は無いのである。

 では、一般的に「高速道路」や「自動車道」と呼ばれる道路名の幾つかを道路法の「道路の種類」にあてはめてみよう。

道路法上の道路の種類 無料 有料
高速自動車国道 鳥取自動車道 東名高速道路
新東名高速道路
(旧)中央高速道路

(現)中央自動車道
(現)沖縄自動車道
一般国道 帯広広尾自動車道(R236)
津軽自動車道(R101)

保土ケ谷バイパス(R16)
(旧)沖縄自動車道(R58)
首都圏中央連絡自動車道(R468)
瀬戸中央自動車道(R30)

富津館山道路(R127)
横浜横須賀道路(R16等)
都道府県道 省略 首都高速道路(都内)
市町村道 省略 首都高速道路(横浜市内)
名古屋都市高速道路

※おまけ 「道路運送法」 東京高速道路(無料)、鋸山登山自動車道(有料)

 見よ。この統制の無さ。もう「高速道路」と「自動車道」の違いなんかどうでもよくなったでしょ。

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■建設省系と運輸省系の争い

 建設省から日本道路公団と高速道路の創成期を歩んできた武部健一氏は、「道路の日本史」のなかでこう述べている

 高速道路推進の二大潮流とその決着

 名神高速道路の着工によって、日本の高速道路はともかくスタートを切った。しかし全国ネットワークの問題は田中精一の運動以来、やや理念が先行するとともに、国会議員の政治活動に巻き込まれていった。昭和三十年(一九五五)六月、超党派の衆議院議員四三〇名によって田中構想を軸に「国土開発縦貫自動車道建設法案」が提案された。中央、東北、北海道、中国、四国、九州の六本の自動車道合計約五〇〇〇キロの建設計画である。

 この法案の「自動車道」という言葉は、「高速道路」と対立する概念を持っていた。「高速道路」が米語の翻訳であると同時に戦前の自動車国道計画を継承し、道路網の一環であることを明確に意識しているのに対して、田中構想の「自動車道」には、自動車による全国的国内交通を作るのであるから、まさに国有鉄道に匹敵するもので、道路法に基づく一般道路とは異なり、道路運送法に基づいて建設されるべきであるという思想が根底にあった。そのため、国会の審議と関連して建設省と運輸省との所管争いともなった。

 この法案は、中央道が赤石山脈を縦貫するという技術的問題と、道路運送法に準拠するという法的問題の二つの問題を抱えていたために、国会で成立するまでに約二年、五国会を要した。結局、原案の「別表」にあった路線通過位置を外し、各自動車道の予定路線は別に法律で定めることと、新たに「高速自動車国道」という概念によって、これを道路法上の道路として、一般国道(昭和四十年(一九六五)四月に統合されるまでは一級国道、二級国道)、都道府県道、市町村道の上位に置き、その建設管理は建設省が所管することにしてようやく決着し、昭和三十二年(一九五七)四月に成立した。

 自動車道と高速道路という二つの考え方は、高速自動車国道という新たな概念に統合され、この縦貫道法成立時には、建設計画としての国土開発縦貫自動車道を含む「高速自動車国道法」も制定された。建設省の作戦勝ちといってよい。

 

道路の日本史」武部健一・著 197-198頁から引用

 このとき定められた国土開発縦貫自動車道の一覧は下記のとおりである。武部氏の文にあるように「高速道路」と対立した概念の「自動車道」であり、「高速道路」という名称は出てこない。

路線名

起点

終点

主たる経過地

中央自動車道

東京都

吹田市

神奈川県津久井郡相模湖町附近 富士吉田市附近 静岡県安倍郡井川村附近 飯田市附近 中津川市附近 小牧市附近 大垣市附近 大津市附近 京都市附近

東北自動車道

東京都

青森市

浦和市附近 館林市附近 宇都宮市附近 福島市附近 仙台市附近 盛岡市附近 秋田県鹿角郡十和田町附近

北海道自動車道

函館市

稚内市

札幌市附近

釧路市

札幌市附近

中国自動車道

吹田市

下関市

兵庫県加東郡滝野町附近 津山市附近 三次市附近 山口市附近

四国自動車道

徳島市

松山市

徳島県三好郡池田町附近 高知市附近

九州自動車道

門司市

鹿児島市

福岡市附近 鳥栖市附近 日田市附近 熊本市附近 小林市附近

 では、なぜこの「中央自動車道」が「名神高速道路」と名付けられたのかは、私は調べきっていないのである。とりあえず、日本道路公団(当時)の道路名称決定の基準は調べがついているのだが。

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■ 日本道路公団では「高速道路」と「自動車道」はどのような基準で名付けられていたのか?

 建設省から日本道路公団において高速道路の計画・建設等に従事した三野定氏が監修(執筆は公団職員)した「高速道路のプランニング」という本にその決定基準等が掲載されている。

高速道路の名称決定基準 (2)

 もともとは「高速道路」だったが、対面交通の「中央高速道路」で事故が多発したので、以後「自動車道」とした旨が記されている。

 その後、「高速道路」という名称を持つ高速自動車国道はなかったが、第二東海自動車道が「新東名高速道路」、近畿自動車道名古屋神戸線が「新名神高速道路」という名称が付与された。

 また、「英文字で自動車道はEXPRESSWAYとする(標識ではEXPWYと略す。)」とあるが、高速道路もEXPWYと表示している。

高速道路と自動車道の違い (3)

 「高速道路」も「自動車道」もどちらもEXPWYで変わらないのだ。

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 さて、この三野氏だが、土木学会誌第四十九巻 第十一号(昭和39年11月発行)http://www.jsce.or.jp/library/open/proc/maglist2/00034/49-11.htmlにおいて「幹線自動車道路網と高速自動車国道」という報文を発表しており、そのなかでも「高速道路」と「自動車道」といった用語を解説している。長文となるが重要であるので必要箇所を引用したい。

 名神高速道路の供用開始, 首都高速道路1号線および 4号線の開通, 阪神高速道路1号線の一部供用開始とこのところ自動車道路の交通開始が相ついで行なわれ,今や高速道路はわが国民大衆の間でも熱病のように口から口へ伝えられている言葉である。しかしながら,名神高速道路と首都高速道路とでは,物理的な差があって一つの概念では必ずしも処理できない面がある。この稿を起こすに当たって,まず自動車道路あるいは自動車専用道路、高速道路あるいは高速自動車国道などの概念を整理する必要を感ずる。

 高速道路は,もちろん近代になって造られた語であるが,その背景には expressway という米語がある。辞書には expres tratic(高速交通)用に設計されたハイウェイだとある。具体的に高速交通用の設計ということは AASHO によれば,「出入制限を全面的または部分的に行ない,一般的には交差点を立体交差とした, 通過交通のための,往復分離した幹線道路」と定義されている。さて,この出入制限 (access control)とは,沿道の所有者あるいは居住者,その他の者が,その道路に近接 し,乗下車する権利,空中権あるいは眺望権を,公共の力で全面的に,または部分的に制限することだと定義されている。AASHO はさらに,完全な出入制限においては,選ばれた公共道路との接続路を設け,かつ平面交差や私設の出入路の取付けを禁ずることによって, 通過交通に都合がよいようにするものであり,また,部分的な出入制限においては,選ばれた公共道路との接続路のほかに,若干の平面交差や私設の出入路の取付けもあり得る程度で,通過交通に優先権を与えたものだと説明している。完全な出入制限をした場合に freeway という語を用いることがあるが,この例は多く,有名なものでは,ニュージャージー, ペンシルバァニアなど数多くのアメリカのターンパイク, ドイツのアウトバーン, イギリスのモーターウェイなどもあるし,わが国の名神, 東名などの高速道路もみんなフリーウェイである。しかし,部分的な出入制限というのは,上述のような有名な道路がないので,わが国では理解されにくいが, テレビで知られているルート 66 のイリノイ州の部分などで は,かなりこの手法が使われている。わが道路法においては,自動車専用道路に関して,この部分的な出入制限が認められている。現在までに自動車専用道路に指定さ れたものには,京葉道路, 箱根新道,東伊豆道路の一部などがあるが,京葉道路は部分的な出入制限を行なっている。

 以上の記述のなかでわかることは,イギリスの motorway, ドイツの Autobahn などの語で示されるように欧州諸国では高速道路と呼ばずに自動車道路と呼んでいる点である。フランスの auto route, イタリーの auto strade なども同様であり,これらで示されるようにわれわれが高速道路といい,自動車道路と称しているものは,全く同じ概念なのである。

 わが国で法的に高速道路または自動車道路になるのは,高速自動車国道と自動車専用道路である前者は, 独立の道路の種類となっており,後者は一般国道あるいは地方道の区間の一部または全部に対する指定措置によって自動車道路の実効を達成するものである。ただ,後者においては部分的な出入制限を採用することが行なわれているに対し,前者では完全な出入制限だけしかない。出入制限の差は,車両の運行速度に影響し制限が完 全であれば高い運行速度が保証されることになるが構造上高い工費を要する。しかし,制限が部分的であれば, 一般には,その逆の傾向となる。したがって出入制限を完全にすべきかどうかは,対象とする自動車交通需要の質と,自動車道路建設に許される工事費の限度とを勘案して決定さるべきである。しかし、完全出入制限を必要とする場合に,高速自動車国道あるいは自動車専用道路のいずれによるかの基準は,その道路がかなりの延長に およぶ場合には明確でなく, ケースバイケースに検討されている。首都高速道路は法律的には自動車専用道路であり,出入制限の点だけでは完全制限であるが,利用し得る用地の制限から設計速度が低く取られているのが問題を起こしている。街路の一部と考えるべきであり, 本稿の扱う都市間高速道路とは全く別に取り扱うべきである。.

 三野氏は、この報文を執筆したときは建設省道路局から日本道路公団第三部長に出向している。「われわれが高速道路といい,自動車道路と称しているものは,全く同じ概念なのである。」と明確に言い切っている。

 武部氏と三野氏の言を整理してみるならば、歴史的、地理的、政治的な経緯から「高速道路」と「自動車道」という別種類の言葉が用いられるが、道路の機能としては同一ということができるということであろうか。

 かなり長くなったので、その2以降に分割して更に解説を加えていきたい。

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