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2018年9月18日 (火)

JR東海リニア担当副社長はかつて「リニアができると新幹線は大赤字で、公的資金が必要」と書いていた

 日経ビジネス2018年8月20日号が「「陸のコンコルド」、リニア新幹線の真実」という特集を組み、一つの論点が、「リニアは公的資金抜きで採算が取れるのか?(採算が取れないからこそ第三のモリカケ案件として財投が投入されたのではないのか?)」ということであったかと思う。

 

 (葛西は)88年、常務に昇格し、その秋に関西経済連合会の会合で講演に立ち、こう話している。

 「東海道新幹線とリニアは一元的に経営されなければならない」

 「(リニア計画の)全額を民間資金で行うことは難しい。3分の2は民間資金で行ってもよいが、残る3分の1は国のカネが必要ではないか。つまりナショナルプロジェクトとして推進しなくてはなりません」

日経ビジネス2018年8月20日号が「「陸のコンコルド」、リニア新幹線の真実」

 ところで、この講演については、東京新聞はもうちょっと踏み込んで書いている。

 国鉄民営化から日も浅い1988年10月。JR東海のリニア対策本部長だった葛西敬之名誉会長は、「中央リニアエクスプレスの実現に向けて」と題した大阪市内の財界の講演会で、こう訴えた。

 「リニアができると東海道新幹線は赤字になる。リニアの建設費の3分の1は国の金が必要ではないか。つまりナショナルプロジェクトとして推進しなくてはならない」

 まだ実用化のめどすら立っていなかった時代。国鉄民営化に尽力した葛西氏の頭には、既に国の支援によるリニア建設と言う構想が描かれていた。

(略)

 JR東海の元労組幹部は「自前でスタートを切って、それを呼び水に途中から国策に転換するというのが葛西の口癖だった。葛西の戦略通り、リニアは国策となった」と振り返る。

 

2018(平成30)年3月7日付東京新聞「四強時代 リニア談合の底流 2」

 

 私が気になったのは、この葛西リニア対策本部長が講演したベースがどこかにないかということである。

 で、調べてみるとこのような報文がでてきた。

JR東海副社長のリニア採算性報文 (1)

 JREA(社団法人日本鉄道技術協会)1988年11月号に掲載された「中央リニアの概略と採算性検討」。執筆者は東海旅客鉄道リニア対策本部の宇野護氏である。

 まさに葛西リニア対策本部長が講演した1988年10月と時期は合っているし、部署も同じリニア対策本部である。

 そして宇野護氏は現在、JR東海のリニア担当副社長である。

 報文の要約ベースの箇所に「新幹線の赤字が大きく公的資金の導入等が必要となる。」とあり、葛西リニア対策本部長の講演内容(東京新聞による)の 「リニアができると東海道新幹線は赤字になる。リニアの建設費の3分の1は国の金が必要ではないか。つまりナショナルプロジェクトとして推進しなくてはならない」と平仄があうではないか。

 つまり、この宇野護氏の報文は、葛西氏の講演の(全て一致しているかどうかはともかく)バックデータとしての位置づけを担っているのではないか。

 

 全部をコピペするわけにもいかないのでポイントだけ紹介しよう。全部読みたい方は国会図書館等へどうぞ。

JR東海副社長のリニア採算性報文 (2)

 リニアの東京-大阪間全通時には、東海道新幹線の旅客の55%がリニアに転換するという。(リニアの運賃水準は東京~大阪の航空機往復割引の片道分の9割と設定。)

 この結果、「東海道新幹線単独で見た場合、見掛け上△2.5兆円の大きな赤字を生じることになるともいえ、とても存続できる状況にはない」と宇野護氏は述べる。

 ということは、葛西リニア対策本部長の講演での「東海道新幹線とリニアは一元的に経営されなければならない」という発言は、宇野護氏の「東海道新幹線は単独ではとても存続できる状況にはない」という報文の裏腹であると言えるのではないか。

 

 では、「東海道新幹線とリニアは一元的に経営」された場合の見通しはどうなるのか。

JR東海副社長のリニア採算性報文 (4)

JR東海副社長のリニア採算性報文 (3)

 左側のグラフにあるように、リニア単独であれば初期投資額を現在価値が上回り、採算が見込めるが、右側のグラフによると、大きな赤字を生じる東海道新幹線を加味すると、資本コスト7%はおろか、3%でも現在価値が下回り、不採算となる。

 この資本コストの差を埋めて採算性を確保するために一定の公的資金等が必要というわけだ。

 葛西リニア対策本部長の 「リニアができると東海道新幹線は赤字になる。リニアの建設費の3分の1は国の金が必要ではないか。」というのはこういうことであろうか。もっとも、宇野護氏の報文には「資本コストが相当小さくならないと採算が取れない」とはあるが「3分の1」を明示したものはない。そこは経営判断レベルということなのだろうか。

 

JR東海副社長のリニア採算性報文 (5)

 

 宇野護氏の報文の結論は、

 (1) 中央リニアと東海道新幹線を別々に運営することは困難である。

 (2) 金利7%の資金をすべて使っての実施は困難であり、一定の公的資金、利子負担の軽減、運賃の値上げ等の施策を組み合わせることが必要といえる。

ということとなっている。

 日経ビジネスの記事へのSNSでの読者の感想には「JR東海は自力で資金を調達できるのだから、そもそも財投等の公的資金はいらないのだ」というものがあったが、金利まで考えると、資金を調達できるだけではダメなのだということか。

 

 尤も、この報文は、30年前に執筆されたもので、現在では金利も旅客需要の想定も大きく異なるし、当時は新幹線はリースのままだ。3~4兆円を見込んでいた建設費は東京~名古屋間で5兆5千億円、東京~大阪で9兆円とも言われる。この段階でのざっくりとした想定の試算をもって直ちに現在のリニアが不採算であると結論づけることは誤りであろう。

 だからこそ、日経ビジネスの金田信一郎記者には、宇野護リニア担当副社長にこの30年前の報文を持っていって「あなたが昔書いたこのペーパーを赤ペンで時点修正してくれ」と要求してほしかったなーなんて思ったりする。それで採算が大丈夫というデータが分かるのならそれはそれでいいことではないか。

 「のぞみプラス1000円という破格の料金で大丈夫なのか?」という聞き方よりも「あなたは30年前に運賃の値上げ等の施策の組み合わせが必要と書いていたではないか?」と聞けばもっと掘り下げられたんじゃないかなあとかね。

 

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 鉄道をこよなく愛する方からは、「JR東海が公的支援を受けるのは、当初の計画よりも前倒しで大阪延伸するためであって、おかしいことではない」という声もあったような気がする。

 それに対して「当初の名古屋までの計画の自己資金だって口だけで、担保がなかったんじゃね?」と指摘するのが「ZAITEN」2017年4月号 「特集:わが国の大動脈に居座る「安倍政権の後見人」の正体とは― JR東海「葛西敬之名誉会長」の研究」である。

 

 加えて、関係者が「27年開通は無理」と推定していたのは、名古屋までの5兆5000億円という建設費が調達できないのではと見ていたからだ。

(略)

 国交省鉄道局は、5兆5000億円のうち2兆5000億円は、東海道新幹線の収益で充てることができると説明する。それでも3兆円足りない。これをどう工面するのか。

 同社の純資産額は2兆2199億円しかない(16年3月期決算、単体)。3兆円分の担保がない以上、市中銀行は貸し渋るから、社債の大量発行で乗り切るのかと予想する関係者もいた。

 ところが驚いたことに、昨年6月1日、安倍晋三首相が「リニアや整備新幹線などに財政投融資を活用する」と表明したのだ。

 

「ZAITEN」2017年4月号 31~32頁

 「所詮財界誌じゃねえか」と言われると身も蓋もないのだが、この特集には財界誌らしく、葛西氏の「女性スキャンダル」が写真週刊誌に掲載された顛末等も載っているのでそういうゲスな方面がお好きな方は是非。

 

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 日経ビジネス2018年8月20日号「「陸のコンコルド」、リニア新幹線の真実」では、用地買収に係る地元とのトラブルを取材して、「第二の成田」なんて書き方もしていた。

 静岡県等の地元自治体ともめつつも土地収用法の手続きは進めたいようである。

 個人的には「地元自治体とうまく足並みがそろっていないと、横浜貨物線のときもそうだったけど、土地収用はうまくいきませんぜ」等とも思ってしまう。

 

 日経ビジネスの記事では市役所への用地交渉委託を何か「自治体を金で買った」ように書いているように見えるが、公共事業で地方自治体に用地交渉を委託すること自体は決して珍しくない。

 ただし、リニアでは興味深い委託がなされている。

 

リニア新幹線/JR東海、大深度地下使用で近く認可申請へ/用地取得業務支援体制構築  [2016年6月16日4面]

 

 用地取得の取り組みについて、後藤部長は「土地の取得面積は350万平方メートル、土地所有者数は約5000人に上り、ノウハウを持つ方々の支援・協力を得ながら事業を進める体制を構築した」と説明。ほとんどの区間の用地取得事務を自治体(相模原市、神奈川県、山梨県、長野県、同県飯田市、岐阜県、愛知県、名古屋市)に委託し、補償説明などを進めている。

 自治体とは別に、用地取得支援・補助業務を首都高速、中日本高速、阪神高速の3高速道路会社のほか、土木工事の一部発注業務を担当する鉄道建設・運輸施設整備支援機構に委託している。

 

日刊建設工業新聞

https://www.decn.co.jp/?p=70372

 

 首都高速道路、阪神高速道路、NEXCO中日本に「用地取得支援・補助業務」という業務を委託しているという報道だ。自治体と違って阪神高速は土地勘もない仕事だ。NEXCO中日本はライバルだ。支援・補助って何をやっているのかこの記事では分からないが。

 

 SNSでは、「JR東海は民営化した後に大規模な新線建設工事をやっていないから委託したんじゃないか」との声もあったような記憶がある。

 用地買収経験がないからトラブルを起こして、ゼネコンから「道路会社ではこんなことは。。」なんてことを言われてしまうのだろうか?

 

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(余談)

JR東海副社長のリニア採算性報文 (7)

 これは、同じ日経BP社でも日経ビジネスではなく、日経コンストラクションという建設業界向けの専門誌で2018年2月26日号「特集 リニア談合 悪いのは誰か」の冒頭の記事に掲載された建設業界アンケートの回答である。

 SNSの鉄道マニアの書き込みでは「リニア談合ではJR東海は被害者なのに。。。」という声が多く見られたが、業界向けアンケートでは、JR東海は「加害者 48%」「被害者 26%」とダブルスコア近くのポイントでJR東海が加害者と思われているとのデータである。

 アンケートのコメントには「JR東海の調達行為は不透明で、官製談合のような加害者側にあると言える。」「発注・入札に限らずJR東海は全体的に説明が足りない。」といったことが太字で載っている。

 他の発注者と比べてみないとこれだけでは何とも言えないが。

 まあ、日経BP社とJR東海はこの辺から既にチャンバラやっていて、今回は第2弾ということになるんですかね。

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コメント

88年というと新幹線保有機構が存在しており,東海道新幹線を所有している形でしたし,
その後の経営改善が未知数な段階でしたから,国に対して降参した犬のように腹を見せて
弱いフリをしてアレコレ言ってるだけだった,というのが正解だったかもしれません.
山梨実験線もこのころ運輸大臣石原慎太郎の発言から建設の動きが出てきた程度です.

それから10年,JR本州三社の業績が予想を上回り,新幹線もJRの買取となり,株式上場を
果たし,山梨実験線が開業したころの分析に次のようなものがあります.

「東海道新幹線の需要予測に関する事後的分析」
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00037/1997/562-0121.pdf

本文書で中盤以後の分析の価値が下がることを恐れて意図的に隠していると思われるのが,
図-2の増減比のベースとなった,実質GDPと輸送実績の推移を比較したグラフです.
国交省で輸送量が公開されているので自主的に作ってみれば良いのですが,
基本的に実質GDPと輸送実績は高い相関性を持っています.つまり景気の良しあしや
人口の推移と新幹線の稼ぎは直結しない.

このへん,直結するという前提でものを言う人が多すぎるのが面倒なところです.

このため,2000年前後には自社の稼ぎが硬いことに確信を持ち,このさき新幹線の
買い取り代金や,利益の見通しが出来て,さらに実験線自社でリニアを建設できるかもしれない
という見通しができつつあることから,JR東海が一気に強気な動きを見せてきています.
朝日新聞にJR東日本と具体的なプロジェクト進行について少し揉めてから和解した話が
載ったのもこのころです.
また金利も大きく変化しました.貸し剥しを経て銀行が下手に出るようにもなりました.

状況や見通しが変化すれば,会社としても態度や発信する情報が変化するのは当然のことでしょう.

投稿: 田舎社長 | 2018年9月19日 (水) 01時44分

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