大鳴門橋の四国新幹線関係鉄道資産の簿価は1円だった。
「減損」ってご存知だろうか?
最近経済記事で「買収した会社が予想通りの業績をあげないので、のれんを減損した」というような記事がDeNAとかソフトバンクとかで流れたりするが、鉄道資産も減産したりするというお話。
小学3年生1985(昭和60)年4月号から
きっかけは以下のツイートである。
高速道路機構の平成18事業年度財務諸表(鉄道勘定)にその辺の事情が記されています。https://t.co/JoGmYFHuVh pic.twitter.com/aYJPSFzM1H
— 城市管理 (@zonghezhifa) April 5, 2020
ご存知のように、大鳴門橋には、四国新幹線が走ることを想定した空間があいている。
ここの鉄道資産が、帳簿上どのような扱いになっているかというマニアックなお話である。
本四架橋において道路と鉄道の資産の区分はこんな感じで負担しあっている。
現在、本州四国連絡橋は道路も鉄道も、独立行政法人高速道路保有・債務返済機構というところが持っているのだが、そこの「鉄道勘定」https://www.jehdra.go.jp/pdf/kessan30_press_part1_4.pdfを眺めているとあることに気が付いた。
「資産の部」「Ⅱ 固定資産」「建設仮勘定」において、33,107,794,305円も減損しているのである。331億円ですよ。
「建設仮勘定」というのは、橋の建設工事でいえば、ザクっと言うと「ゼネコンから納品されてお金も払ったけど、まだ使用開始していない建設工事の仕掛品の固定資産がある」ということ。
で、現在は残存価額が1円しかない。
つまり、「331億円使って固定資産を作ったけど、一度も使わないうちに減損して、現在の簿価は1円しか残っていませんよ」ということなんである。
で、Twitterでご教示いただいたのが下記のとおり。
上記建設仮勘定の鉄道施設は、本州四国連絡橋公団において、本四淡路線の一部として着工されました。
平成17年10月の機構設立時に、日本高速道路保有・債務返済機構法第12条第2項に基づき、維持管理することを目的に、本州四国連絡橋公団より建設途中にある鉄道資産(建設仮勘定)として承継致しました。
当年度に適用された、「固定資産の減損に係る独立行政法人会計基準」及び「固定資産の減損に係る独立行政法人会計基準注解」(以下「独法減損会計基準及び同注解」という。)に基づき減損の有無を検討する過程で、当該建設仮勘定に計上された本四淡路線鉄道施設については、昭和60年以来建設が20年余にわたり中断されている状況を鑑み、当初の基本計画から完成が著しく滞っていると認められたため、減損の兆候を認めました。
さらに、現状においてこの状況が大きく変わる状況に無いことから、減損を認識することとし、帳簿価額を備忘価額まで減額しております。
https://web.archive.org/web/20130105141652/http://www.jehdra.go.jp/pdf/244.pdf
で、「減損」とはどういう意味の事かは、監査法人のサイトでもどうぞ。
https://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/commentary/asset-impairment-account/2015-12-11.html
で、本州四国連絡橋の鉄道資産を確認していたら、確かに331億円の建設仮勘定が、大鳴門橋の四国新幹線部分として掲載されている。この絵面は平成13年末現在で、その後平成18年に減損して一気に簿価1円にしてしまったわけだ。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/road/dai19/19siryou1-4.pdf
この大鳴門橋の新幹線施設は、本来は国鉄が鉄道を営業してそこから利用料を本四公団に支払い、本四公団が借金を返すというスキームだったが、結局新幹線は頓挫し、「建設仮勘定」のまま、国鉄は分割民営化されたため、国鉄清算事業団経由で税金で補填することになったものだ。
それが、現在簿価1円なのである。
新幹線としては使うアテはないけど、現実に鉄道施設はあるからメンテナンス費用はそれなりに出てくる。この年は年間34百万円を税金で支払っているのだ。
http://www.mlit.go.jp/common/001252613.pdf
「四国の人が払った税金も使って他の地方では整備新幹線を作ったのだから、今度は四国に全国の人の税金を使って四国新幹線を作る順番ですね」といった主張を目にすることがあるが、実は、この大鳴門橋の新幹線施設部分と瀬戸大橋の新幹線施設部分には、既に全国の国民の税金が、国鉄が支払うはずだった利用料の代わりに使われているのである。
しかもそのうち、大鳴門橋の新幹線施設の建設費にあてられた331億円は、現在は簿価1円になってしまっているという。。。
これは余談だが、国鉄清算事業団には、鉄道省→国鉄→事業団と引き継がれた樺太鉄道局の資産があったそうだが、それも簿価1円である。大鳴門橋の新幹線資産はそんな扱いなのである。
※当方会計の専門家ではないので、誤り等ありましたらご指摘ください。
ご教示いただいた@zonghezhifa様ありがとうございました。
| 固定リンク | 0
« JR瀬戸大橋線は、国鉄民営化の際には、工事中止が議論されたくらいなのに、どうして今は黒字なのか? | トップページ | 1974(昭和49)年の大新宿駅構想の元となる運輸省調査報告書と上越新幹線新宿駅や国鉄東北・東海道開発線ホームなどなど »
「道路」カテゴリの記事
- 上越新幹線燕三条駅と北陸自動車道三条燕ICの命名経緯を検証する(2023.06.24)
- 毎日新聞【⿊川晋史記者】「五輪が来たニッポン︓1964→2021 都市の姿、環境優先へ」とプロジェクトX「空中作戦」(2021.08.08)
- 階段国道339号に公共交通機関(JR津軽線と路線バス)で行く方法(2021.05.03)
- 階段国道339号にまつわる謎にチャレンジしてみた(2021.05.02)
「鉄道」カテゴリの記事
- 上越新幹線燕三条駅と北陸自動車道三条燕ICの命名経緯を検証する(2023.06.24)
- JR瀬戸大橋線(本四備讃線)の計画と実績及びその破綻処理(2022.08.28)
- 1980年代に計画された東海道・山陽新幹線の夜行列車とは?~神戸新聞・小川晶記者の記事を読んで~(2022.03.27)
- 交通新聞社「新しい西武鉄道の世界」結解喜幸氏の新宿駅乗り入れ記事がひどい~西武新宿線の国鉄(JR)新宿駅乗り入れを整理してみる。(26)(2021.09.24)
- 「ステイション新宿」をそのまま一次資料として丸呑みしては危険~西武新宿線の国鉄(JR)新宿駅乗り入れを整理してみる。(25)(2021.09.24)
「未成道・未成線」カテゴリの記事
- 1980年代に計画された東海道・山陽新幹線の夜行列車とは?~神戸新聞・小川晶記者の記事を読んで~(2022.03.27)
- 川島令三が「奥羽新幹線用地と確信する」と述べる福島市の森合緑地の登記簿を取ってみた。(2021.09.26)
- 交通新聞社「新しい西武鉄道の世界」結解喜幸氏の新宿駅乗り入れ記事がひどい~西武新宿線の国鉄(JR)新宿駅乗り入れを整理してみる。(26)(2021.09.24)
- 「ステイション新宿」をそのまま一次資料として丸呑みしては危険~西武新宿線の国鉄(JR)新宿駅乗り入れを整理してみる。(25)(2021.09.24)
- 西武新宿線の国鉄(JR)新宿駅乗り入れ撤退の理由が書かれた公文書~西武新宿線の国鉄(JR)新宿駅乗り入れを整理してみる。(24)(2021.09.20)
「本州四国連絡橋/四国新幹線」カテゴリの記事
- JR瀬戸大橋線(本四備讃線)の計画と実績及びその破綻処理(2022.08.28)
- 明石海峡大橋・大鳴門橋よりも瀬戸大橋への鉄道建設が先行した理由を、国鉄の検討資料から探る(2021.03.13)
- 昭和22年に田中清一が作成した初期縦貫道案~日本の戦後高速道路ネットワークの推移(4)~(2020.05.20)
- 昭和24年に田中清一が昭和天皇に説明した縦貫道計画のルート案~日本の戦後高速道路ネットワークの推移(3)~(2020.05.19)
- 1957年国土開発縦貫自動車道建設法のルート思想とは? ~日本の戦後高速道路ネットワークの推移(1)~(2020.05.17)
コメント
上記の内容を拝見しましたが、簿価1円についてはおかしなことはないかと。というのも、減損というものを一言で言うと「価値が無いものを価値が有るものと同じように評価することは止めましょうね」ということなので、本件で稼働の見込みが無く0円とするのは適切かと。むしろ、こうした資産を適正に評価するのが減損会計が導入された目的だったりするので、これがあるべき姿です。だって使ってもいない、使えるかどうかも分からないものを300億円の価値が有ると評価する方がおかしいですから。
投稿: 通りすがりの経理マン | 2023年1月 3日 (火) 00時05分
通りすがりの経理マン様
コメントありがとうございます。
私も減損するのがおかしいというつもりはございません(私の作文能力が低くてそのように伝わったのであれば申し訳ありません)
こんなに税金を投入したのに1円になっちゃったことの説明責任等を関係当局からしっかり行っていただけたらと思っております。
よろしくお願いします。
投稿: 革洋同 | 2023年1月15日 (日) 16時55分