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2020年5月11日 (月)

名阪国道が無料から有料に変更できなかった理由

 前回の記事「名阪国道の「千日道路」の由来と「非名阪」が未だに国道25号のままの理由」http://kakuyodo.cocolog-nifty.com/blog/2020/05/post-09efaa.htmlが沢山のアクセスをいただいたので、調子にのって名阪国道ネタを。

 

 名阪国道は「無料」であるが、元々は、日本道路公団の有料道路「大四道路」の調査結果が元になっていることについては、前回の記事で述べたところである。

 しかし、建設中に有料道路化の話が出て消えている。それについても建設省中部地方建設局が発行した「名阪国道工事誌」から引用したい。

 (今回は殆どコピペしただけなので、著作権的にはアレだが、50年以上前の公的な文書だから許して。。。)

 

まずは、そもそも論である。名阪国道は当初計画は有料道路だったのか否か?


1962年(昭和37年)3月の計画当初から、名阪国道は「無料の一般道路」として整備される予定であった。

 

wikipedia 名阪国道 

 

 しかし、前述のように、名阪国道を施工した当の建設省の工事誌に、日本道路公団の有料道路計画が元になっている旨記されている。

 では、他に資料はないか?

名阪国道は本来有料道路になるはずだった

「燦々菁々滾々 : 私の県政史」奥田良三・著 ぎょうせい・刊 91頁

 当時の奈良県知事であった奥田氏が「名阪道路は当初全線を有料道路として計画されたのだが、(中略)、少なくとも山間地法だけは県が地元負担をするから公共道路として無料の道にすべきであると主張し、三重県にもこれに同調していただいて天理ー亀山間73キロは通行料金はいらないことになっている。」と語っている。

 他の文献にもあたってみよう。


A こんど開通した区間は無料だが、これにはわけがあったのか。

C 建設省も当初、有料、無料でいろいろ論議があった。早く仕上げるのは有料道路だということで一時は有料に落ち着いたが、その後、早くできても有料なら利用しにくいと地元側の要望が出て、この区間だけは無料となった。

 

「ルポルタージュ 完成した名阪国道 -産業道路としての期待を負ってー」 建設月報 1966(昭和41)年1月号53頁

 この記事は、朝日、毎日、日経の記者の対談という形をとっているのだが、奥田奈良県知事(当時)の記述と矛盾しない。

 では、当該部分のwikipediaが何を根拠に「当初から無料」と言っているのだろうか??

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 ということで、当初の有料道路計画から、「地元側の要望」により天理ー亀山間だけ無料(=全額税金負担)となった名阪国道だが、事業開始後に、「やっぱり有料道路にして」という「地元側の要望」が出てきた。

 

 

名阪国道が無料から有料に変更できなかった理由 (5)

 一旦は「無料」の一般国道として建設開始した名阪国道だが、地元三重県知事が三重県の負担に音を上げて、有料道路化を陳情したというのが切っ掛けというのだ。

 これはまず、国道の建設費用が誰によって支払われているのかを知らなければ理解できない。

道路法

(国道の管理に関する費用負担の特例等)

第五十条 国道の新設又は改築に要する費用は、国土交通大臣が当該新設又は改築を行う場合においては国がその三分の二を、都道府県がその三分の一を負担し、都道府県が当該新設又は改築を行う場合においては国及び当該都道府県がそれぞれその二分の一を負担するものとする。

(第二項以下省略)

 国道は国の道路だから建設費用は全部国が出すと思っている方は結構いらっしゃると思うが実際には違うのだ。

・国土交通大臣が当該新設又は改築を行う場合⇒国がその三分の二を、都道府県がその三分の一を負担

・都道府県が当該新設又は改築を行う場合⇒国及び当該都道府県がそれぞれその二分の一を負担

 国道によっても、国が管理(直轄)する場合と都道府県が管理する場合で費用負担が異なる。

 今回の名阪国道は、文中「直轄」とあるように、国(当時は建設省)が管理しているので、国が2/3を負担する一方で、地元の三重県と奈良県が1/3を負担しなければならない。

 「無料」と言えば聞こえはいいが、実際には税金(ガソリン税や重量税等)で国や県が支払っているというわけだ。

 国は大臣の命令でもあるし、所帯も大きいので、千日で建設するための工事費用は捻出できるが、三重県レベルではそこに付き合うことは財政上大変な負担だったということであろう。

 では、「有料道路」ならよいのか?

 日本道路公団が郵便貯金等の財政投融資により借金して道路建設費にあてて、その借金を利用客が払った料金で長期返済していくので、三重県の財政上の負担はないのである。(いわゆる「合併施行方式」はこの際目をつぶるとして。)

  しかし、それを後出しで用地買収に入る直前に(関町は三重県内)、そんな話を持ち出したので、「話が違う」と事業がストップしたというわけだ。

名阪国道が無料から有料に変更できなかった理由 (6)  

 「道路計画課」によるメモとあるが、これはこの工事誌を発行した「建設省中部地方建設局道路建設課」であろう。

  上野地区は側道だけで開通させようかといった案も出たようだ。

名阪国道が無料から有料に変更できなかった理由 (1)  

 インターチェンジは無料前提で計画しちゃったためか、トンネルだけ有料にしようかといった案も出たようである。 

  後半は実際に現場で工事を担当した建設省名阪国道工事事務所による有料道路化検討メモである。

 名阪国道が無料から有料に変更できなかった理由 (3)

  インターチェンジの型式について触れているので補足しておく。

  例えば、これが名阪国道山添インターチェンジ(ダイヤモンド型)である。料金所を設置しなくてよいので上下線それぞれの出入り口が一般道に接続しており、土地等が比較的小さくてすんでいる。

 

 一方、こちらは名神高速道路の竜王インターチェンジである。料金所を一箇所に集約するためにランプウェイの土地等が比較的大きくなっている。 

 

 「この変更の重大さは歴然」というわけだ。 

  また、地元民に対しては公共道路(無料)であることを説明し、(略)相互信頼の念を確立するまでに達した」ものが、「白紙にもどすという通告まで受けている」ということで、「用地の取得が非常に困難となる」というのだ。

名阪国道が無料から有料に変更できなかった理由 (3)

 有料道路化の代替として、酷道区間の「旧名阪」を一級国道として整備することの困難さも指摘されている。 

名阪国道が無料から有料に変更できなかった理由 (4)  

  まとめにあたって「1級および2級国道の昇格に運動し、昇格したら早期完成をうたいながら、分担能力がないから全額国庫或いは有料道路とは言語道断といわざるを得ない。」と三重県知事を激しく糾弾しているあたりが興味深い。

 まあ、そういったところで結局は「無料=建設費を国と県で分担」という形で当初の予定通り名阪国道は建設が進んだのである。 

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 ところで、名阪国道開通後の1966(昭和41)年に、「国土開発縦貫自動車道建設法の一部を改正する法律」が成立し、名阪国道に高速自動車国道近畿自動車道名古屋大阪線がかぶってきた。 

 昭和41年高速道路網図

  

 想定問答

  その想定問答が国立公文書館のアーカイブに残っており、名阪国道の位置付けについても触れられている。

名阪国道の高速化想定問答  前述の工事誌にもあるように「千日道路」として開通させる際には、片側1車線、往復2車線で開通している。

 これを片側2車線、往復4車線に拡巾したいのだが、「支障がなければ幹線自動車道(つまり高速道路)として実施」し、「有料、無料制については慎重に検討したい」とされている。

 実際には「支障があった」のだろうか、高速自動車国道となることはなく、無料の一般国道まま往復4車線に拡幅されているのはご承知のとおりだ。

 なお、一般国道25号の有料道路として開通した「西名阪道路」及び一般国道1号の有料道路として開通した「東名阪道路」は、1973(昭和48)年に、高速自動車国道「西名阪自動車道」及び「東名阪自動車道」に切り替えられている。

高速切り替え

 

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 さて、昨今、奈良県が名阪国道の有料化の提言をしていることが話題になっている。 

http://www.pref.nara.jp/44056.htm 

http://www.pref.nara.jp/secure/124436/11kousokudouro.pdf 

 過去の経緯を踏まえ、沿線自治体から反対の声もあがっているようだ。 

https://www.vill.yamazoe.nara.jp/life/wp-content/uploads/2014/09/c82d80e6e0eacf9226e1f41a63533640.pdf 

 これは、当初の「建設費を賄う財源としての有料道路制度の活用」ではなく、「交通需要をマネジメントするための有料道路制度の活用」である。 

 リンク先の奈良県知事の記者会見でも述べられた「TDM」とは「Transportation Demand Management」の略で、「交通需要マネジメント」等と訳される。 

  詳細は、ぐぐっていただければよいのだが、東京オリンピック2020で実施されようとした「首都高速道路の料金をあげることで利用を減らす」といった取り組みが一例である。

 

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