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2020年12月に作成された記事

2020年12月31日 (木)

東北新幹線への貨物新幹線(荷物電車)導入は、約50年前に国鉄で決定済だった

 すわ、貨物新幹線の実装か!と一部業界では年末に盛り上がっているようだ。

 また「島技師長発案の世界銀行のためのダミーだった貨物新幹線が!」というコメントをしている方もいるようだ。

 ところで、世界銀行のためのダミーという人もいる貨物新幹線だが、東海道新幹線開通後も国鉄社内では継続して検討され、東北・上越新幹線への貨物新幹線(荷物電車)の導入も決定されていたというネタをご披露したいと思う。

新幹線建設委員会 (1)

新幹線建設委員会 (2)

 その検討舞台は、国鉄社内に設けられた「新幹線建設委員会」だ。詳細は上記の「交通技術」1970年8月号15頁記載文を読んでくれたまえ。

 で、その検討結果が取りまとめられている。

新幹線建設委員会1 (2)

 そこに貨物新幹線の継続検討状況やその結果が取りまとめられている。

 ざくっとした審議結果は下記のとおり。「従来のコンテナよりも荷物電車が有利じゃね?」というものだ。

東北新幹線の貨物新幹線案 (1)

 コンテナと荷物電車のどちらが有利かといった具体の検討経緯は下記のとおりだ。 

東北新幹線の貨物新幹線案 (2)  

東北新幹線の貨物新幹線案 (3)  

東北新幹線の貨物新幹線案 (4)  

東北新幹線の貨物新幹線案 (5)  

 コンテナだとフリークエンシーに劣る一方、荷物電車による高付加価値な荷物に限定すれば投資も少なく、他の輸送モードに対して勝負になるということか。 

東北新幹線の貨物新幹線案 (6)  

 この比較表で興味深いのは、新幹線によるコンテナ輸送では、オンレールでは速いが戸口から戸口までだと在来線の貨物とあまり変わらないという指摘がされている点である。 

山陽新幹線と貨物新幹線  

 山陽新幹線博多開業前の国鉄幹部の対談における泉貨物局長の発言(「国鉄線」1972(昭和47)年3月号8頁)と平仄がとれていることにも注目したい。(泉貨物局長は新幹線建設委員会の委員だったから当然といえば当然なのだけれども。) 

 コンテナによる貨物輸送は在来線に対してさほど有利ではないので、荷物電車方式で航空貨物等とも勝負できる高付加価値の荷物を運搬するという方向で国鉄の貨物新幹線戦略は方向づけられていたということでよいのではないか。 

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 ところで、表題にも係る東北・上越新幹線への荷物電車方式による貨物新幹線の具体案については下記のようになっている。 

東北新幹線の貨物新幹線案 (7)  

東北新幹線の貨物新幹線案 (8)  

東北新幹線の貨物新幹線案 (9)  

東北新幹線の貨物新幹線案 (10)  

東北新幹線の貨物新幹線案 (11)  

 ここでは、東北・上越新幹線には当初開業時から荷物電車方式を実装することとなれている。しかし実際には2020年になってやっと議論されたり、ジェイアール東日本物流によるお試し運行がされたりといった段階である。 

 この間何があったのか?オイルショックによる見直しでもあったのだろうか? 

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 JR東日本の深沢祐二社長は日経新聞のインタビューでこう答えている。


物流ニーズ開拓

 -新幹線の空きスペースを利用した荷物の輸送も話題を呼びました。

 「東北や新潟の海産物や果物を新幹線で運んだところ、『トラックよりはるかに速く首都圏の消費者に届けられる』と評判になった。これまで誰も気付かなかったニーズが眠っていたのだ。荷主の求めに応じて対象列車を増やし、定期輸送を開始した。今後は生鮮品だけでなく、電子部品も運びたい。

 

 月曜経済観測 鉄道の「新常態」 JR東日本社長 深沢祐二氏 日本経済新聞 2020(令和2)年11月2日付

 深沢社長のインタビューを赤ペン先生してみると「これまで誰も気付かなかったニーズが眠っていた」のではなく「50年前に国鉄で気付いたけれども(何らかの理由で)商業ベースに載せられなかったニーズが眠っていた」ということになる。

 当然ご存じだったとは思うけれど、それじゃあニュースバリューがないもんね。

 もちろん、思いつくだけならともかく、日々の商業ベースに載せる方がよほど大変なわけであるが。

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 JTBキャンブックス「幻の国鉄車両」53頁には、1982~85年頃に検討されたという0系先頭車改造の「新幹線物品輸送」「 郵便輸送」について触れられている。このあたりも、上記「新幹線建設委員会」の検討結果と整合がとれたものではないかと思われる。

 しかし、同誌の 福原俊一氏の解説によれば「パレットの積降ろし設備などの問題から実現せず、幻の計画で終わった。」とされている。

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 さて、東北新幹線における貨物新幹線の問題としては、「青函トンネル区間をどうするか?」という課題があるのはご承知のとおりである。 

 元JR東日本会長の松田昌士氏が「1つのトンネルを新幹線と貨物が取り合っているのは愚の骨頂だと思う。やはり、新幹線のスピードアップを最優先でやるべきだ。そのためであれば、貨物は他の手段で北海道と本州をつなぐしかない。船を使うべきだろう。」と語ったのを覚えている方もいらっしゃるだろう。 

https://www.sankei.com/region/news/170101/rgn1701010003-n1.html 

 実は、「青函トンネルは新幹線のみで、貨物は全部連絡船で」という案もこの「新幹線建設委員会」で検討されている。 

 これをやりだすとすごく長くなるのでサワリだけで。 

東北新幹線の貨物新幹線案 (15)  

 最下段の「全貨物航送案」がそれだ。ただし、青函連絡船だけだと将来の輸送量の伸びに対応できないとして、新たに八戸と室蘭を結ぶ貨物専用の国鉄航路を新設すべきだとしている。 

 松田氏が、このときの議論をどの程度念頭に置いていたかはともかくとして、当時からそのような案はあったわけだ。 

 ちなみに現在検討されている青函トンネルを広軌専用として貨物は積み替える場合については下記のような「ポンチ絵」が「新幹線建設委員会」の資料に添付されている。 

東北新幹線の貨物新幹線案 (13)  

東北新幹線の貨物新幹線案 (14)  

 決定稿ではなく、比較検討のためのタタキとしての案であることにご注意を。 

 ところで、青函間の貨物輸送の検討にあたって「青函トンネルの完成する昭和52年度末までに増加する需要に対しては、東京(有明12号地)・室蘭(室蘭国鉄さん橋)間にコンテナ船を就航させ、バイパス輸送を行うのが最適であるとの結論となっている」というのだ。 

東北新幹線の貨物新幹線案 (12)  

 この辺について、ご存じの方がいらっしゃれば、是非ともご教示いただけますと幸いです。 

 

 2020年のブログ更新はこれにて終了。 

 よいお年を。 

 

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2020年12月21日 (月)

「第二東名は公団民営化委員会が始まる前から暫定4車線だった」という経緯を整理しておく(新東名高速道路静岡県内6車線化記念)

 新東名高速道路(第二東名高速道路:第二東海自動車道)の静岡県内が6車線化されるそうである。

 

 ところで、新東名は、なぜ当初は4車線だったのか?

 "道路交通ジャーナリスト"清水草一氏は、下記のように述べている。

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (14)

SPA!「新東名建設を非難した大マスコミは猪瀬氏に土下座せよ!」https://nikkan-spa.jp/207767

 「もともと6車線で設計・建設が進んでいたのに、民営化に伴って、建設費削減のため「4車線とする」と決められ(た)からだ」

 ネットを見ていてもこのようにお考えの方は結構いらっしゃるようだ。

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (166)  

 一方で、下記のような記事もある。

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (7)

「第二東名·名神高速道路の計画」青木博·日本道路公団計画部調査役 著、「土木技術」1995(平成7)年1月号

「第二東名・名神は完成すると6車線の高速道路になるが開通当初の交通量が比較的少ない区間は,初期投資額を最小にするため暫定4車線で建設することとしている。」

  

 ちなみに、道路公団民営化委員会の第1回会合は、2002(平成14)年6月24日である。 その7年前に「第二東名・名神は暫定4車線で建設する」と道路公団の担当者が書いているのである。

 "道路交通ジャーナリスト"清水草一氏と、"日本道路公団計画部調査役" 青木博氏との違いはなぜ生じたのだろうか?

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 では、第二東名の建設経緯をざくっと振り返ってみよう。 

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (8)  

日経コンストラクション1999(平成11)年4月23日号97頁 

 1994(平成6)年9月に 「料金値上げ認可に伴い暫定施工区間が決定」と書いてあるのにお気づきであろうか?

 上記道路公団青木氏の報文の半年前である。 

  ここのところが分かる記事がこちらである。

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (12)  

1994(平成6)年4月16日付日本経済新聞 

 ざくっと言うと「第二東名等の建設費を賄うために高速道路の料金を値上げしようとしたなかで、値上げ幅を物価上昇率に収めるために、第二東名・第二名神を6車線から暫定的に4車線にした」ということである。 

 民営化委員会があろうがなかろうが、1994(平成6)年の段階で暫定4車線であったのだ。 

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (15)   

 上記は、当時日本道路公団から民営化委員会に提出された資料であり、「車線数4/6」とされていることがお分かりであろう。民営化委員会には、「当初から第二東名は4車線の暫定施工ですよ」という資料が提出されていたのである。

 これもそうだ。

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (16)

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/road/dai20/20siryou2-9.pdf

 

 当時は色んな報道があったことから、清水草一氏のように「もともと6車線で設計・建設が進んでいたのに、民営化に伴って、建設費削減のため「4車線とする」と決められ(た)からだ」と思われるのであろうか。

 

 それはそれとして、では「なぜ暫定4車線であそこまで出来上がっていたのか」という話になるのであるが、そこはおって述べる。「4/6」であっても用地買収は当初から6車線分を買収すること自体は間違いではない。 

 

 なお、いわゆる「猪瀬ポール」の妥当性等は、ここでは対象にしない。 

 当事者の猪瀬直樹氏は「全線6車線の新東名を4車線で使っているのはなぜなのか?」https://nikkan-spa.jp/963315というSPA!の記事で清水草一氏との対談のなかで触れているので、それをご紹介しておくにとどめておく。 

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新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (167)  

 ところで、同じ新東名の暫定4車線区間でも引佐を境にして東西で事情が異なる。 

  上記は浜松いなさIC以東の静岡県内の話だ。

 浜松いなさ~豊田東の愛知県内では、下記の「新計画」が該当している。

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (1)  

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/road/dai40/40siryou1.pdf

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (3)  

 国会で答弁しているのは、民営化委員会時に行革担当大臣を務め、のちに国土交通大臣となった石原伸晃氏である。 

 「トンネル、第二名神、第二東名等々を見ていただければわかりますように、六車線で計画されております。これを四車線にいたしますと、これは立方体でございますので、コストはかなりの削減になるわけでございます。」 

2004(平成16)年2月10日衆議院予算委員会https://kokkai.ndl.go.jp/#/detailPDF?minId=115905261X00720040210&page=36&spkNum=158&current=33 

 これを受けて浜松いなさ~豊田東の工事が具体化したのが下記のとおりである。 そういう意味では、こちらの区間は民営化委員会の審議結果を踏まえたものとなっている。

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (4)  

2006(平成18)年3月ということだから、第三次小泉内閣のころだ。

 ときどき「民主党の”事業仕分け”のせいで浜松いなさ~豊田が6車線化が困難になった」という言説をネットで見かけるが、小泉改革の一環である。お間違えなきよう。 

 閑話休題。

 では、なぜ浜松いなさ以西は以東と違うのか?


 これは6車区間の4車線化というものでございます。整備計画上6車となっている部分で、当面、暫定4車供用ということを目指して、整備をしているわけでございますが、橋梁につきましては、将来の手戻りをなくすということで、6車相当の断面で施工している部分がございますか、そこは最初から4車の、上り下り2車線の橋梁にする。

(略)

 トンネルの部分につきましては、将来的に6車ということを前提にいたしまして、当面4車であっても、断面しては大きく掘っているというのが実態でございました。そこをまだ未着手のところ、発注していないところにつきまして、このように小さな断面にする。これは片側3車線でございますが、これを2車線のものにいたしますと、大体面積にして半分くらいになる。事業費もそれに応じて半分くらいになるということでございまして、先ほどの2ページで括弧書きで1兆3,260 億と書いてございました。そのプラスαされた部分は特にこのトンネルを見直すことによって、かなりのボリュームが出てくるというものでございます。

 

第ニ十六回道路関係四公団民営化推進委員会議事録 2002(平成14)年10月29日

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/road/dai26/26gijiroku.html

 同じ暫定4車線でも、浜松いなさ以東は「将来の手戻りをなくすということで、6車相当の断面で施工」していたが、「まだ未着手のところ、発注していないところにつきまして、このように小さな断面にする」ということであり、後者に浜松いなさ~豊田が含まれる。

 

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 同じ暫定4車線でどうして異なるのか?

 この間にこんな経緯があった。

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (17)

2001(平成13)年11月9日付日本経済新聞

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (18)

2001(平成13)年11月20日付日本経済新聞

 小泉首相が、道路公団の高速道路事業には国費=税金は投入しないとしたため、今後投資できる額が縮小するという報道である。

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (19)

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/road/dai21/21siryou8.pdf

 で、このような形で「閣議決定」されている。

 このような政府の動きのなかで浜松いなさ以西の規格が決められたというわけである。

 先にも触れたように、道路公団民営化委員会の第1回会合は、2002(平成14)年6月24日である。

 「猪瀬のせいで」「緊縮のせいで」と単純に決めつけるのは如何なものかとは思うわけですよ。民営化委員会以前に猪瀬氏が小泉首相と組んで動いていたのは事実であるが、そんなに単純なものではないんじゃないでしょうかと。猪瀬氏を擁護するつもりでもありませんですよ。

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (20)

 「9兆円の無駄遣い 第二東名の完成で民営化会社は破綻?」「進も地獄、退くも地獄 東名との共倒れは必至」と報ずるのは、週刊東洋経済2002(平成14)年8月31日号であるが、冒頭で「仕掛かり中の高速道路の建設は一時ストップすべきだ」と述べているのは、JR東日本会長(当時)の松田昌士氏である。

 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/road/dai12/12siryou_t2.pdfでも同様のことを述べている。

 国鉄の分割民営化の際には新線建設工事はストップし、大赤字必至の瀬戸大橋線の建設を中止することも議論されたのだから、松田氏の発言はそれを踏まえたものなのであろう。 

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (22)  

 上記は、週刊東洋経済2002(平成14)年9月14日号に掲載された松田氏のインタビューから第二東名について触れた部分を抜粋したものだ。 

 清水草一氏の「マスコミと国民の集団ヒステリーが引き起こした喜劇だ」との言と比較するのもよいだろう。

 

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 上記のような経緯で、当初から4車線として工事し、後に6車線化していることはお分かりいただけたであろうか。 

 ところで、これに対して「何回かに分けて工事するから余計な金がかかっており、不経済だ。」「コストダウンのために4車線にしても結局高くついたではないか」という言説をネットで見かける。 

 

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (6)  

「高速道路に関する行政監察結果に基づく勧告」https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/koukikaku-001.htm 


 道路公団では、「本線幾何構造設計要領」(昭和61年12月26日付け技交第23号担当理事通達)により、事業主体として暫定施工方式による建設を効率的に進めるため、段階的な建設が建設費の面から経済的に成立する条件を検証するための試みとして、独自に検証の方法を定めている。同要領においては、i )暫定車線で施工する場合と当初から完成車線の工事を行う場合との建設費の差額及びその差額に対し完成車線への拡幅工事のための追加投資までにかかる利息の合計額と完成車線への拡幅工事を行うための建設費とを比較し、前者が後者を上回り、暫定施工したことによる経済的効果が発現するまでの期間である「経済年数」と「暫定施工区間の完成車線建設後の総建設費」との間の関係式を示し、ii )暫定施工による当初建設費をできるだけ小さくし、その後に暫定施工区間を拡幅する場合、道路施設の付替工事等の付加工程を少なくするなど完成車線建設後の総建設費をできるだけ小さくするという暫定施工を行う上で考慮すべき設計思想を定めている。 

 これだけいきなり出されてもわかりづらいと思うが、ざくっとまとめると

 「暫定車線で施工+拡幅工事のための追加投資した場合の建設費」+「段階的に資金を調達した利息当初から完成車線の工事を行う場合の建設費」+「当初から完成工事分の資金を調達した利息

ということで、段階的に工事をすることで余計に建設費がかかっても、資金調達するための利息は逆に段階的になることで安くてすめば、「建設費+利息」の合計が安ければ経済的であるということなのである。 

 現在は、アベノミクスやらなにやらで超低金利であるが、「長・短期プライムレート(主要行)の推移 1989年~2000年」https://www.boj.or.jp/statistics/dl/loan/prime/primeold2.htm/ では、第二東名の基本計画から施行命令の頃は5%から7%前後で推移しており、今とはケタが違う。高速道路は当時財政投融資を主として資金調達したので、当然金利がかかるわけである。(「小泉改革」はこの財投の出口(道路公団民営化)と入り口(郵政民営化)の「改革」とされていた。)

 先に紹介した道路公団・青木氏も「第二東名・名神は完成すると6車線の高速道路になるが開通当初の交通量が比較的少ない区間は,初期投資額を最小にするため暫定4車線で建設することとしている。」としている。初期投資額が少なくなれば、利息負担も少なくなる。御殿場以東が繋がろうとするこの段階で6車線化することは青木氏の言と矛盾しない(ただし、その経緯は想定通りにはいかなかっただろうが)。 

 

 ということで、追加建設費の多寡だけをもって、「結局コスト高になった」とは必ずしも言えないことがお分かりであろうか。(これは一般論を示しただけであって、すべての暫定区間が経済的に合理的であると結論付けているわけではないし、新東名の当該区間の工事が最終的に経済合理性があったと断定するものでもない。) 

  

 あわせて上記で紹介した新聞記事のように、「当初から新東名・新名神を6車線化工事をするために必要な資金を確保するための料金値上げはできなかった」という事情もあったのである。 

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 今回の記事は、「だから新東名の暫定施工は正しいのだ」という結論を押し付けるものではなくて、「納税者、道路利用者としていろいろ議論するにあたっては、もうちょっと経緯を掘り下げた方がよろしいんじゃないんでしょうか」という趣旨の「判断材料のご提供」ということでご理解いただけると幸いである。 

 マスコミも下記のように、たとえば同じ日経グループの中でも「金の成る木」と言ってみたり「無駄な投資という誤りを示すモニュメント」と言ってみたり振れ幅が大きかったのも事実であるし。

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (10)  

1989(平成元)年2月3日付日本経済新聞社説 

新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (9)  

2001(平成13)年11月26日付日経ビジネス13頁

 

 「また、おまえは自分の都合のいい記事だけを切り貼りして物量攻めにしているんだろう」とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれないが、お示しした議論の時系列とネタ元を踏まえて、みなさんの都合のよくなるようなエビデンスを各自が揃えてみればよろしいのではないかと。

 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/road/kaisai.htmlに、道路公団民営化委員会の資料と議事録が残されている。当然ここに出てこない裏の話もあるわけだが、表の話がひととおり残っているのは、今の政権と大違いである。是非、私の切り貼りブログなんかよりも現物を見たうえでご自分なりに整理していただきたい。

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新東名高速道路(第二東名)の暫定4車線から6車線化の経緯 (165)

(余談)

 当時、第二東名・名神の「140km/h」の規格がどう受け止められていたか分かりやすい記事があるのでおまけに紹介しておこう。


第2東名・名神高速道路 「時速140キロ設計」空転 警察合意抜きで建設続行

 

コスト5倍 事故9%増

 日本道路公団が建設中の第二東名・名神高速道路(神奈川県海老名市―神戸市、456キロ)は、国内で初めて時速百四十キロで走行出来るように設計されているが、国土交通省(旧建設省)と同公団は実際の規制速度を決める警察側との合意を経ずに建設を進めていることがわかった。警察庁と国交省などが今春まで六年間かけて議論した委員会の最終報告書には、最高時速が百四十キロだと現行の百キロより事故率が9%増えることなどが明記され、百四十キロ走行の実現は厳しい情勢だ。同高速は総事業費十兆七千六百億円で、一キロ当たりの建設コストは通常の五倍以上かかっているが、開通しても豪華な造りが無駄になる可能性が高い。

 旧建設省は一九九〇年に第二東名・名神の構造基準を定めて、都市部を除く全体の75%を百四十キロで走行できるように設計することにした。全線六車線で、各車線の幅は三・七五メートル(東名・名神は三・六メートル)、路肩幅も三・二五メートル(同三メートル)と広く、カーブや高低差も少なくした。

 ところが、設計速度の基準を定めた政令である「道路構造令」には時速百二十キロまでしか規定がないため、旧建設省は警察庁と非公式に協議し、構造令を改正して百四十キロの項目を加えようとしたが、合意が得られなかったという。このため構造令はそのままにして、九三年に当初計画通りで事業に着手した。

 国交省高速国道課は「百四十キロ想定の設計なら安全性が高まるので、構造令を改正しなくても問題はないと判断した」と説明している。

 この結果、第二東名・名神はカーブが少なく直線部分が多いことから、トンネルと高架・橋部分が全体の63%(東名・名神は20%)を占め、一キロ当たりの建設コストは二百三十六億円で、一般高速道(過去五年平均)の五・一倍もかかっている。

 一方、着工から三年後の九六年、百キロを超える速度が可能かどうか検討するため、警察庁、旧建設省、同公団と学者などから成る「高速交通の運用に関する調査検討委員会」が設置された。委員会は今春解散したが、実験などの結果、最終報告書は「上限速度を百二十キロ、百四十キロにした場合、事故率は各4%、9%上昇する」「車線間の速度差は四十キロを超えると事故発生率が高くなる」などとしただけにとどまり、結論を出さずじまいだった。

 元委員の一人は「百キロを超える速度については事故防止の面から警察庁の反対が非常に強かった」とした上で、「百四十キロ想定で工事を次々に進めておきながら、一方で上限速度をどうするかを議論するのは、順序が逆だと感じた」と語る。

 これに対し、国交省高速国道課は「たとえ規制速度が百四十キロを下回っても、安全性は高まっているので、一概に無駄になるとは言えない」としている。

 

2002(平成13)年11月5日付読売新聞

 今や120km/hの走行も認められる等、当時と情勢は変わっているが、それはそれとして、当時の世論の空気を思い出していただくために引用した次第である。

 一方、下記は道路公団民営化委員会に提出された田中一昭委員による資料である。


第二東名の設計が 140km/h 走行を前提としていることについて


1.問題意識
 道路関係四公団民営化推進委員会は、平成 15 年 2 月 25 日に、第二東名の現地視察を行った。
 その際、第二東名長泉沼津インターチェンジにおいて、日本道路公団から、「第二東名は設計速度 140km/h で設計している」旨の説明を受けた。
 その後、日本道路公団提出の資料により、第二東名の工事設計書に設計速度 140km/h と記載されていることを確認した。
 道路を新設又は改築する場合における道路の構造の一般的技術的基準を定める道路構造令(昭和 45・10・29・政令320号)には、設計速度は第 1 種第1級で 120km/hとあって、140km/h の規定は無い。
 第二東名の設計に当たっては、どのような手続きで設計速度 140km/h とされたのか、その手続きは適法なものなのか、さらに、そもそも設計速度140km/h による設計が妥当なものなのか、過大な建設コストとなっているのではないか、こういった問題意識から、これまで国土交通省及び日本道路公団に対し、所要の資料要求を行ってきた。


2.国土交通省及び日本道路公団に対する資料要求と回答
 まず、日本道路公団に対し、「第二東名を設計速度 140km/h で設計している根拠を明らかにすること」を求めた。(15 年 3 月 7 日)
 これに対し日本道路公団の回答は、「平成 2 年 8 月 6 日付道路局長通達『第二東海自動車道及び近畿自動車道名古屋神戸線に係る構造基準について』による」というものであった。(15 年 3 月 14 日)
 また,同通達に関し国土交通省は、「平成 2 年 8 月 3 日道路審議会基本政策部会とりまとめ『第二東名・名神高速道路計画の基本的なありかたについて』を踏まえ、140km/h の走行可能性に配慮した設計とした」旨説明した。(15年 4 月 11 日)
 この二つの回答から第二東名は、道路構造令の改正を行うことなく、道路局長通達により、事実上設計速度 140km/h で設計されたことになる。
 そこで改めて国土交通省に対し、「道路構造令の改正によらず、道路局長通達により道路構造令の内容を事実上変更した例の有無」及び「道路構造令の改正によらず、道路局長通達による措置を講じた法的根拠」について回答を求めた。(15 年 5 月 7 日)
 前者に対する国土交通省の回答は、「道路構造令は、一般的技術的基準としての必要最低限の基準を規定しており、さらに通達により、運用の際の望ましい値を規定する場合がある」というものであった。(15 年 5 月 16 日)
 この回答は、過去の事例の有無に関する照会に全く答えていないばかりか、一般的な回答としても、運用の際の望ましい値を規定する場合の具体的な明示を欠く、極めて不充分なものと言わざるをえない。
 また、後者に対する国土交通省の回答は、「道路局長通達は道路構造令の規定を逸脱しているものではなく、道路構造令に定められた規定値の範囲内で、望ましい値を定めたものである。したがって、道路構造令を改正する必要は無く、通達による運用としたもの」というものであった。(15 年 5 月 16 日)
 この回答もまた、規定値とは何か、その範囲内の望ましい値とは何かについて、第二東名のケースを基に具体的に説明しているものではなく、そもそも道路構造令が想定していない 140km/h 走行を前提とした道路構造を、道路局長通達によって規定しうることについて、納得しうる説明となっていない。


3.国土交通省及び日本道路公団の見解に対する評価
 国土交通省及び日本道路公団の説明によれば、第二東名は、道路局長通達による道路構造令の運用により、設計速度 120km/h のまま、事実上 140km/h 走行が可能な構造となっている。
 この手法によれば、道路局長通達による道路構造令の運用により、例えば200km/h 走行が可能な設計とすることすらできることとなる。これは、事実上、道路構造令の改正である。
 現に第二東名の施行主体である日本道路公団は、現地説明においてもまた工事設計書の内容においても、第二東名を設計速度 140km/h と認識している。
 しかしながら、道路の構造の一般的技術的基準を定める道路構造令には、設計速度 140km/h の規定は無い。
 これは明かに、道路局長通達という方法を濫用した道路構造令の実質的な改正(設計速度 140km/h の道路構造の創設)にほかならない。
 更に言えば、第二東名を 140km/h 走行を前提とする構造としても、これに相応する走行が実現するか否かは、交通警察に委ねられている。
 仮にこれが実現しない場合には、140km/h 走行を前提とする構造とするための増加コスト分は、全く無駄な投資となる。
 その場合の責任は、一体誰がどのように負うのか。
 国土交通省か、それとも日本道路公団か。あるいは民営化によって発足する新会社に負担を負わせるのか。 

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/road/dai43/43tanaka.pdf

 なお、こういった行政的な手続きの落ち度を問う議論に対して


 藤井氏は、警察庁との調整なしに、独断でこの通達を出し、新東名・新名神の設計に適用させた。それは恐らく、道路屋の夢。新幹線が鉄道屋の夢だったのと同じだ。

https://bestcarweb.jp/news/228884

ベストカーWeb「新東名「120キロ」今日から開始 なぜ日本の高速は長年100キロのままだったのか」

 でまとめてしまうのが、清水草一氏であった。。。

 そもそも「政令を正当な手続きで改正すべきではないのか」と問われているところを「独断で通達を出した道路屋の夢」で納得してしまっている。

 

  まあ、東海道新幹線の手続きもヤンチャした部分は多少はあるが、一緒にされたくはないんじゃないかな。

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