東北新幹線への貨物新幹線(荷物電車)導入は、約50年前に国鉄で決定済だった
《独自》JR東、新幹線に貨物車両 コロナで旅客減…導入検討https://t.co/KiwNIG0Dye
— 産経ニュース (@Sankei_news) December 30, 2020
1編成のうち1両の座席を全て取り外し輸送用に特化した車両への改造を検討。400箱程度まで輸送量を拡大する。来年中の導入に向け市場ニーズの調査を進めている。
すわ、貨物新幹線の実装か!と一部業界では年末に盛り上がっているようだ。
また「島技師長発案の世界銀行のためのダミーだった貨物新幹線が!」というコメントをしている方もいるようだ。
ところで、世界銀行のためのダミーという人もいる貨物新幹線だが、東海道新幹線開通後も国鉄社内では継続して検討され、東北・上越新幹線への貨物新幹線(荷物電車)の導入も決定されていたというネタをご披露したいと思う。
その検討舞台は、国鉄社内に設けられた「新幹線建設委員会」だ。詳細は上記の「交通技術」1970年8月号15頁記載文を読んでくれたまえ。
で、その検討結果が取りまとめられている。
そこに貨物新幹線の継続検討状況やその結果が取りまとめられている。
ざくっとした審議結果は下記のとおり。「従来のコンテナよりも荷物電車が有利じゃね?」というものだ。
コンテナと荷物電車のどちらが有利かといった具体の検討経緯は下記のとおりだ。
コンテナだとフリークエンシーに劣る一方、荷物電車による高付加価値な荷物に限定すれば投資も少なく、他の輸送モードに対して勝負になるということか。
この比較表で興味深いのは、新幹線によるコンテナ輸送では、オンレールでは速いが戸口から戸口までだと在来線の貨物とあまり変わらないという指摘がされている点である。
山陽新幹線博多開業前の国鉄幹部の対談における泉貨物局長の発言(「国鉄線」1972(昭和47)年3月号8頁)と平仄がとれていることにも注目したい。(泉貨物局長は新幹線建設委員会の委員だったから当然といえば当然なのだけれども。)
コンテナによる貨物輸送は在来線に対してさほど有利ではないので、荷物電車方式で航空貨物等とも勝負できる高付加価値の荷物を運搬するという方向で国鉄の貨物新幹線戦略は方向づけられていたということでよいのではないか。
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ところで、表題にも係る東北・上越新幹線への荷物電車方式による貨物新幹線の具体案については下記のようになっている。
ここでは、東北・上越新幹線には当初開業時から荷物電車方式を実装することとなれている。しかし実際には2020年になってやっと議論されたり、ジェイアール東日本物流によるお試し運行がされたりといった段階である。
この間何があったのか?オイルショックによる見直しでもあったのだろうか?
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JR東日本の深沢祐二社長は日経新聞のインタビューでこう答えている。
物流ニーズ開拓
-新幹線の空きスペースを利用した荷物の輸送も話題を呼びました。
「東北や新潟の海産物や果物を新幹線で運んだところ、『トラックよりはるかに速く首都圏の消費者に届けられる』と評判になった。これまで誰も気付かなかったニーズが眠っていたのだ。荷主の求めに応じて対象列車を増やし、定期輸送を開始した。今後は生鮮品だけでなく、電子部品も運びたい。
月曜経済観測 鉄道の「新常態」 JR東日本社長 深沢祐二氏 日本経済新聞 2020(令和2)年11月2日付
深沢社長のインタビューを赤ペン先生してみると「これまで誰も気付かなかったニーズが眠っていた」のではなく「50年前に国鉄で気付いたけれども(何らかの理由で)商業ベースに載せられなかったニーズが眠っていた」ということになる。
当然ご存じだったとは思うけれど、それじゃあニュースバリューがないもんね。
もちろん、思いつくだけならともかく、日々の商業ベースに載せる方がよほど大変なわけであるが。
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JTBキャンブックス「幻の国鉄車両」53頁には、1982~85年頃に検討されたという0系先頭車改造の「新幹線物品輸送」「 郵便輸送」について触れられている。このあたりも、上記「新幹線建設委員会」の検討結果と整合がとれたものではないかと思われる。
しかし、同誌の 福原俊一氏の解説によれば「パレットの積降ろし設備などの問題から実現せず、幻の計画で終わった。」とされている。
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さて、東北新幹線における貨物新幹線の問題としては、「青函トンネル区間をどうするか?」という課題があるのはご承知のとおりである。
元JR東日本会長の松田昌士氏が「1つのトンネルを新幹線と貨物が取り合っているのは愚の骨頂だと思う。やはり、新幹線のスピードアップを最優先でやるべきだ。そのためであれば、貨物は他の手段で北海道と本州をつなぐしかない。船を使うべきだろう。」と語ったのを覚えている方もいらっしゃるだろう。
https://www.sankei.com/region/news/170101/rgn1701010003-n1.html
実は、「青函トンネルは新幹線のみで、貨物は全部連絡船で」という案もこの「新幹線建設委員会」で検討されている。
これをやりだすとすごく長くなるのでサワリだけで。
最下段の「全貨物航送案」がそれだ。ただし、青函連絡船だけだと将来の輸送量の伸びに対応できないとして、新たに八戸と室蘭を結ぶ貨物専用の国鉄航路を新設すべきだとしている。
松田氏が、このときの議論をどの程度念頭に置いていたかはともかくとして、当時からそのような案はあったわけだ。
ちなみに現在検討されている青函トンネルを広軌専用として貨物は積み替える場合については下記のような「ポンチ絵」が「新幹線建設委員会」の資料に添付されている。
決定稿ではなく、比較検討のためのタタキとしての案であることにご注意を。
ところで、青函間の貨物輸送の検討にあたって「青函トンネルの完成する昭和52年度末までに増加する需要に対しては、東京(有明12号地)・室蘭(室蘭国鉄さん橋)間にコンテナ船を就航させ、バイパス輸送を行うのが最適であるとの結論となっている」というのだ。
この辺について、ご存じの方がいらっしゃれば、是非ともご教示いただけますと幸いです。
2020年のブログ更新はこれにて終了。
よいお年を。
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コメント
お久しぶりです。貴重な情報ありがとうございます。
「東京(有明12号地)・室蘭(室蘭国鉄さん橋)間にコンテナ船を就航させ、バイパス輸送を行うのが最適であるとの結論と」
青函連絡船末期の船(空知丸・檜山丸・石狩丸)が、コンテナ搭載準備してあったことと整合性ありそうですね。
1980年ころと見越してた青函トンネル開業後は、東京~室蘭の国鉄航路に使うつもりだったのでしょうか……。
有明12号地へのコンテナの集積はどうするつもりだったのか気になります。
現実的にはトラック輸送でしょうけども、しかし京葉線から(今のりんかい線から)、何らかの支線を出したとか妄想したくなります。
新幹線荷物電車は、この投稿のあとに出た本「先を見過ぎた鉄道車両たち」に記載・図の掲載があります。
(全体にやや「薄い」本なので、「幻の国鉄車両」ほど無条件にお薦めはできないですが)
961-5の「本質」も長く伏せられておりましたね。近年になってやっと荷物輸送との関連性が語られるようになってきた車でした。
(ただ「交通技術」は部外者でも読めたはずなので、隠してたとかというのは言いすぎなのでしょうが)
投稿: 関山 | 2021年4月 2日 (金) 11時33分
関山様 コメントありがとうございます
https://www.ikaros.jp/sales/list.php?srhm=0&tidx=21&Page=1&ID=4924
ご紹介の本はこれですね。
イカロスの本であれば期待できそうです。
紹介した資料には、国鉄の青函航路の各船舶ごとの減価償却も一覧になっていました。
「トンネルをいつまでに作らないと、船舶の新規投資がこれだけ必要になる」
といったことを検討するものかもしれません。
また、この資料が検討された昭和40年代には、まだ京葉線から各埠頭への貨物線の案も生きていたのではないかと。
投稿: | 2021年4月 3日 (土) 21時07分
ご返答ありがとうございます。
本の方は、何かしら発見あるかもしれません。
(私も初めてきくような話が幾つも有りました)
>京葉線から各埠頭への貨物線の案も生きていた
案外、青函トンネルは新幹線専用で割り切り(高額運賃の急送品は新幹線貨物電車・新幹線荷物電車で輸送)、
急がない貨物(運賃負担力低いもの)は晴海から室蘭への航路(コンテナ及び貨車)で分担する気だったのかなぁと想像したくなります。
ただ、船と新幹線の間くらいの要求速度や運賃負担力の貨物の問題は残りますね。
投稿: | 2021年4月14日 (水) 13時28分
これを見てみると
北海道と本州の間の運搬は
言うほどJR貨物じゃなきゃいけないかな?
という感じですね。
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/stk/H29_2_so_si2.pdf
ご存じのように青函トンネルの維持には旧鉄建公団の鉄道運輸機構を通して
結構な税金が今でも入っていますが、あれをまともに運賃に転嫁したら
本当に鉄道貨物が商売として成り立つのか気になるところです
投稿: 革洋同 | 2021年4月14日 (水) 20時45分