「国鉄は独立採算で税金が入っていなかったのに、道路公団は税金じゃぶじゃぶで不公平だ」という公共交通マニアの方の言を検証してみる
JR西日本 ローカル線廃止も含めて見直し進める 新型コロナ影響 #nhk_news https://t.co/4Be4mj1Yfz
— NHKニュース (@nhk_news) February 18, 2021
このニュースを切っ掛けに、また公共交通をこよなく愛する方々から「国鉄は独立採算で(原則的に)税金が入っていなかったのに、道路公団(高速道路)は税金じゃぶじゃぶで不公平だ!!けしからん!!」という声がツイッター等で流れてきた。
そこでとても意地悪な革洋同さんは、実際にそれぞれ税金が幾ら入っているか調べてみた。
結果はこちら、ドン!
実は、国鉄に入っている税金の方がはるかに巨額でしたというオチである。
(※2021年9月に、日本鉄道建設公団のグラフを追記しました。)
出典等は下記のとおり。
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「昭和60年 国鉄監査報告書」からの引用である。
1981(昭和56)年から1983(昭和58)年は、7,000億円/年を超えているが、これがどれくらいの額かというと、上越新幹線の新宿ルートを建設するのに約7,000億円かかる(そしてあまりに巨額なのでJR東日本では建設できない)のに匹敵するわけだ。
この他に「無利子貸付金」がある。
これは、利子を払わなくていい借金を国鉄が国から借りているということ。本来であれば、国に利子が入るところが入ってこないのだから、その分は収入欄には見えてこない税金からの補填である。
こういった具合に多額の税金からの補助が国から国鉄には入っていたのである。
「財政再建利子補給金」という課目で毎年数千億円を国からもらっているわけだが、これは何かというと上記のとおり、過去債務の利子がそのままだとどんどんふくらんでいくので、そこを税金で補填してやって歯止めをかけるといったものであろう。「国鉄の赤字は税金で穴埋めしていない」という方がいらっしゃるが、少なくとも赤字の利息については税金で一部支払っていたわけだ。
それでも多額の赤字の前には焼け石に水だったわけだが。
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一方、日本道路公団の方はこちら。
「平成15年 日本道路公団年報」
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/236639/www.jhnet.go.jp/format/index2_05.html からの引用である。
日本道路公団に投入されていた国費=税金の性格は下記のようなものである。
そして、これらの出資金は、無料開放にあたって料金から返済されることになっている。
「高速道路の債務返済に関する一考察」国土交通委員会調査室 山越 伸浩
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h22pdf/20108102.pdf
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/road/dai20/20siryou2.pdf
ただし、「小泉改革」で日本道路公団への国費支出はなくなった。グラフで2002年がゼロになっているのはこれを反映させたものだ。
2001(平成13)年11月9日付日本経済新聞
尤も事業規模や国費の目的が異なるから単純な比較はできないのは承知のうえ。
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/236639/www.jhnet.go.jp/format/index2_05.html には、下記のような表もあるる。
有料道路事業のうち、10~20%くらいが国費=税金であるということだ。
では、日本鉄道建設公団ではどのくらいだったのか?
「日本鉄道建設公団の事業概要」横山章・日本鉄道建設公団計画部計画課長 「建設の機械化」1975年6月号
https://jcmanet.or.jp/bunken/wp-content/uploads/1975/jcma-1975_06.pdf
国鉄のローカル線や青函トンネル、上越新幹線等をガンガン作っていた1975(昭和50)年の予算では、3,647億円の事業費中政府出資金が549億円と約15%である。 この時点では額は日本道路公団の331億円よりも巨額であり道路関係4公団の国費率約10%よりも多い。
制度等も違うだろうから単純比較はできないが、少なくともこの段階では鉄道建設公団と道路関係公団では、税金の入る額も国費率も鉄道建設公団の方が上である。
少なくとも鉄道建設公団が建設した新規路線については、高速道路に比べて税金が少ないとかいったことはないのではなかろうか?
(※2021年9月追記)
「日本鉄道建設公団30年史」から政府出資金、国庫補助金及び補給金の額を合計した額をグラフに追記した。
1986年から鉄道建設公団への国費助成額が激減しているが、これは上越新幹線や青函トンネルといったビッグプロジェクトの完成や国鉄民営化に伴う新規路線建設の凍結が影響しているのであろう。
(追記終了)
なお、鉄道建設公団が建設した青函トンネルや本州四国連絡橋公団が建設した本四備讃線については、国鉄が利用料を払って建設費を償還するはずだったが、国鉄民営化にあたって国民負担(税金)となっている。
道路公団民営化にあたっても。いわゆる「新直轄」とか本四連絡橋に対する国費投入等があった。
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ところで、鉄道と道路については、上記のような有料道路に対する不平不満だけでなく、一般道路に対する不平不満も「公共交通をこよなく愛する方」からも聞こえてくるところである。
ただ、これは40年以上前に決着していると言っていいのではないか?
いわゆる「イコールフッティング」論争とでもいうやつだ。
「現代自動車交通論」 今野源八郎・岡野行秀 編著 東京大学出版会・刊 217~218頁から引用
今でも「鉄道は自前で整備しているのに、道路は税金で整備している。トラックやバスは不公平だ。」という御仁はいらっしゃるが、「この主張は誤解」で「有料道路料金や自動車関係税によってまかなわれている」で以上終わりである。
経済学者の主張だけでは不公平かもしれないので、当時この辺の政策を担当した運輸官僚の回顧についても紹介しておこう。
「総合交通政策の登場」高橋寿夫 290~293頁から引用 「 証言・高度成長期の日本(上)」毎日新聞社・刊 所収
「公共交通をこよなく愛する方」からは、「飛行機も飛行場を税金で整備していて鉄道に対して不公平だ」と言いがち(ただし、旧・運輸省の中の話なので、旧建設省所掌の道路に対してよりも声は小さい。)なのだが、高橋寿夫氏は、鉄道側の主張も紹介しつつ、実際には道路も飛行機もほぼ100%受益者負担なので不公平とまでは言えないと決着している。
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「総合交通政策論」が一段落した後に、運輸大臣が興味深い答弁をしている。
「道路の場合あるいは空港の場合、これは非常に利用者負担が高いにもかかわらず、その利用者負担が目的税特定財源として構成されておりますから、何となく利用者負担率の小さい国鉄の方が利用者負担率が高いように見られて、そこに大きな錯覚が起こるわけでございます。」
1977(昭和52)年4月27日参議院決算委員会における田村元運輸大臣の答弁
道路=83.4%、空港=99.6%、国鉄=58.7%というのだから興味深い。
惜しむらくは、データの出元が分からない。運輸省系のどこかの統計にあるのか。当時の「運輸と経済」あたりを調べれば出てくるのだろうか。
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話を鉄道と道路の財源争奪戦に戻そう。
その代わりにゲットしたのが、自動車重量税からの鉄道への支出である。
同上 292頁から引用
自動車ユーザーが支払う自動車重量税のうち1/4は鉄道整備に回されることとなった。
ときどき「鉄道が整備されれば、道路の渋滞削減に寄与するから、その分は自動車・道路側に払わせばいいんじゃね!俺頭いい!」的なアイデアをご披露される方がいらっしゃるが、既にその理屈は消費済なんである。それも40年以上前に。
で、それをやったのは田中角栄である。
「土木史研究におけるオーラルヒストリー手法の活用とその意義 : 高速道路に焦点をあてて・高橋国一郎編」149頁から引用
昨今の鉄道ファンからは「道路族」としてしか認識されていないかもしれないが、「鉄道族」のドンとしての田中角栄が、道路から鉄道へ金をぶんどっていったのであった。
実は、同様に政治の力で、鉄道整備費用をドライバーに負担させているものがあって、都市モノレール・新交通システムなんかがそうである。
「インタビュー 都市モノレール建設時代の10年」熊谷次郎 38頁から引用「社団法人日本モノレール協会20年の歩み」所収
ちなみに、この熊谷次郎氏は、八田嘉明一派で、モノレール協会(初代会長は八田)の前には日本縦貫高速道路協会(ここも八田が会長を務めた)にもいた。鉄道・道路の両方に顔が効くのである。
都市モノレールのインフラ部分は道路そのものとして建設されるので、道路から鉄道への支出という形では見えてこない。
都市モノレールや新交通システムが、鉄道事業法でなく、軌道法が適用されているのは、路面電車同様「道路の上を走っているので旧建設省と旧運輸省が共管」という形をとって道路から金を出しているからである。(おそらく廃止されたピーチライナーの軌道を撤去する金もドライバーが負担したことになっているのではないだろうか?)
同じく、道路から鉄道への支出という形では見えてこないものの一つに道路占用料の支払いを地下鉄等が免除されていることがあげられる。
本来道路が鉄道から徴収すべき金額を免除しているために、これも道路から鉄道への支払いとしては見えてこない。
というわけで、「公共交通をこよなく愛する方」にはあまり知られていないが、道路・ドライバーは鉄道の金を結構負担していて(このほかには駅前広場の整備費用とか)、しかも数字には見えてこなかったりするわけだ。
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<関連文献>
公益社団法人日本交通政策研究会 「日本の交通政策を振り返る ―政策志向経済学研究者の視点から― 」レジュメ
http://www.nikkoken.or.jp/pdf/symposium/150925b.pdf
同上 結果報告
http://www.nikkoken.or.jp/pdf/symposium/150925c.pdf
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<余談>
参考文献としてあげた「現代自動車交通論」 今野源八郎・岡野行秀 編著 東京大学出版会・刊 の209頁に下記のような文が載っていた。
東大出版から出ている学術書にしては異例なことに、合理的な交通の見解については、鉄道ファンといった交通の好き嫌いや酔いやすさといったことが判断に影響すると述べているのだ。
わざわざ東大の教授が特記すべき重要なバイアスなんだろうw
JR東海の須田寛氏が「私の鉄道人生“半世紀"」において、「・公私の判断がつかない・中途半端な知識はかえって業務の妨げになる・視野が狭くマクロ思考ができない・偏食的な趣味嗜好に陥りがち」といった理由をあげて延々4頁にわたって、「鉄道マニアはどうして鉄道人に不向きか」を書いているのだが、鉄道マニアというのはそこまで偏ったバイアスということで各種専門家に捉えられているということなのであろうか。
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<超余談>
https://jcmanet.or.jp/bunken/wp-content/uploads/1975/jcma-1975_06.pdfの22頁に載っている「国鉄新線線路図」。北陸新幹線が当初の「亀岡経由」だ。亀岡といえば、山田木材。ドドン!!
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