夜行新幹線と兵庫県内の新幹線駅の関係が2頁読めばすぐ分かる国鉄課長の報文
「山陽新幹線に当初は夜行新幹線の計画があって、兵庫県内に幾つもの駅がある」というのは、割と知られているが、具体にどの駅がどうだというのは、ググってみると色々出てくる。
※写真キャプション
山陽新幹線の姫路駅は「単線運転」に対応するため列車待避用の線路を増やして建設された
乗りものニュース「新幹線で夜行列車が走っていないのはなぜ? かつては運転の計画もあったが…」 草町義和・著
その計画とは「夜行新幹線」。新大阪~岡山間の新幹線開通を前に国鉄が検討を開始し、昭和41年(1966年)の「山陽新幹線技術基準調査委員会報告」では、東京~博多間を一晩に計24本運行するダイヤ案や、片道平均5,000~7,000人台の利用客見込みなど具体的なデータがそろえられていた。
計画では、新大阪~岡山間は線路の保守点検作業などの関係で、博多方面、東京方面いずれか一方の線路を使う単線運転を想定。この区間は東京と博多の中間に位置するため、単線運行するには一方が通るのをやり過ごす(すれ違わせる)待避場所として4~5カ所の駅が必要となった。
しかも、当時は中国・四国縦断新幹線の計画もあり、山陽新幹線と中国・四国新幹線が交差する駅として想定されていた岡山駅よりも手前で、この退避用駅を置く必要があり、これが兵庫県内に4つの新幹線駅が設置される一因となったわけだ。
マイナビニュース「なぜ兵庫県に新幹線の駅が4つもある!? 秘められた幻の計画とは 」OFFICE-SANGA・著
東海道・山陽新幹線では「夜行新幹線」を走らせる計画もありました。夜間に行わねばならない線路の保守作業は、上下線2本の線路のうち1本を使って夜行列車を走らせ、片方の線路で保守作業をするという形で解決。列車の行き違いは駅で行う、というものです。行き違いは東京駅と博多駅の中間付近に位置する兵庫県内の西明石、姫路、相生駅で行うことが想定されていました。
乗りものニュース「夜行新幹線、ギネス 山陽新幹線40周年の歴史」 恵知仁・著
新幹線計画段階では夜行新幹線も検討されており、夜間運行の際は片側1線を日によって交互に単線で運用して残りの1線は保守点検作業を行う計画であった。山陽新幹線では、夜間の単線運行で上下列車を離合させるための待避線として姫路駅の下り線に13番ホームが追加され、予備の待避駅として西明石駅・相生駅が建設された[43]。
[43]^ 兵庫に4駅集中なぜ?幻の「夜行新幹線」計画(『神戸新聞』 2012年3月15日)
Wikipedia「夜行列車」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9C%E8%A1%8C%E5%88%97%E8%BB%8A
こんな話もあるようだ。
なんかみんな言っていることがビミョーに違うぞ。誰かが嘘をついているのだろうか?
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で、タイトルにある「夜行新幹線と兵庫県内の新幹線駅の関係が2頁読めばすぐ分かる国鉄課長の報文」である。
表題は「山陽新幹線の計画概要と施工上の問題点」
著者は斉藤徹・国鉄本社山陽新幹線建設部工事課長である。
掲載されていたのは「土木施工」という土木業界誌であり、私が参照したのは、「土木工事施工例集 1道路・鉄道編」1967年 山海堂・刊の258頁以降に転載されたものである。
さっそく(1)新大阪ー岡山間の駅設置について という章があり、駅の設置についての考え方について触れている。
「山陽新幹線の計画概要と施工上の問題点」斉藤徹 「土木工事施工例集 1道路・鉄道編」258頁から
まず、新神戸、姫路、岡山が決定されたと。これは順当であろう。
そして、夜行新幹線の運行上必要な駅の話に入る。
「山陽新幹線の計画概要と施工上の問題点」斉藤徹 「土木工事施工例集 1道路・鉄道編」258頁から
新神戸、姫路、岡山の3つの駅以外に「待避線をもつ駅が別に2駅必要」としている。
なぜ2駅必要なのかは下記の4案の運転方式から導きだされている。
「山陽新幹線の計画概要と施工上の問題点」斉藤徹 「土木工事施工例集 1道路・鉄道編」259頁から
4つの案から「第1案」が採用された。
第1案では「下り列車が新大阪等4個所で上り列車群と行き違いをする」とある。
一方、「(新)神戸については、地形上退避設備をとることが非常に困難なため神戸以外の場所を選定する必要がある」
そこで、「山陽新幹線が現在の山陽本線と交るか、相接するかした旅客の乗換が便利な地点で、かつかなりの乗降客が予想される地点」として西明石・相生に山陽新幹線の駅を設けることに決定した。
極めて明快である。
相生駅は、姫路には至近だわ、自民党の派閥の領袖である故・河本敏夫氏の地元だわで「政治駅」と言われることがあるが、国鉄の運行上の必要性が改めて明らかにされたということでよいのかもしれない。
※ 夜行新幹線がすれ違う駅は「新大阪」「西明石」「姫路」「相生」の4箇所
実は先に上げたWikipediaの記事や各鉄道ライター氏の中でこれと同じことを書いた人は一人もいないのであった。
これはどうしたことか。
「姫路以外は予備」どころか4駅ともがっつり停まっているではないか。
Wikipediaの元ネタとなっている神戸新聞の記事はリンク切れだし、各ライターの人がそう書いた根拠には一切触れられていないので突き合せの仕様がないのだが、いずれにせよ全員斉藤課長とは違うことを書いている。
ひょっとしたら斉藤課長が間違っているかもしれない。国鉄本社山陽新幹線建設部工事課長なんてどこまでホントのこと書いているか疑わしいしな。
別の文献にもあたってみよう。
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国鉄が毎年開催していた「停車場技術講演会記録」の第18回に佐藤康・国鉄山陽新幹線建設部企画課長が「山陽新幹線の計画について」という報告をしている。
これを見れば「のりものニュース」が正しいことが証明されるかもしれない。工事課長より企画課長の方がなんか偉そうだし。
「山陽新幹線の計画について」佐藤康 「停車場技術講演会記録」第18回316頁から
やはり、がっつりと「新大阪、西明石、姫路、相生」の4駅でがっつり行き違いをしているのであった。
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ところで、姫路駅の新幹線ホームは、上りは11番線のみだが、下りは12番線と13番線の2線がある。
参照 JRおでかけネット「姫路駅」https://www.jr-odekake.net/eki/premises?id=0610619
上記のWikipediaにも「山陽新幹線では、夜間の単線運行で上下列車を離合させるための待避線として姫路駅の下り線に13番ホームが追加され」とあるし、草町義和氏も「姫路駅は「単線運転」に対応するため列車待避用の線路を増やして建設された」としている。ネット上でも多くの方が「これは夜行新幹線の名残!」としている。
これについても資料にあたってみよう。
国鉄が「山陽新幹線停車場関係資料集」という資料集を刊行している。
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002797328-00
「山陽新幹線停車場関係資料集」76頁から
姫路駅は上り線も下り線同様の待避線の絵があるが破線になっている=つまり当初から計画はあるが今は実装されていないということだ。
ではなぜ下り線の待避線だけ施工されたのか?
「山陽新幹線停車場関係資料集」77頁から
「姫路、相生駅には着発線6線可能」としてある。
ではそのうちなぜ姫路駅下りの13番線だけ施工されているのか?
「なお、東海道新幹線の実績にもとづき、事故時における運転整理などのため、姫路駅には開業当初より下り待避2番線を設置することにしている。」
はい。夜行関係ありませんでした。
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(余談)
話は夜行新幹線から逸れるので恐縮なのだが、しれっと
「新大阪駅の将来計画としては、着発線6線(旅客)通過線2線(貨物)、島ホーム3本になるよう考慮されている。」
と書かれている。
貨物新幹線は「世界銀行向けのダミー」どころか、当時着々と準備されていたのである。
(余談終わり)
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これも「山陽新幹線の計画について」佐藤康・国鉄山陽新幹線建設部企画課長 著で、裏取りをしてみよう。
「山陽新幹線の計画について」佐藤康 「停車場技術講演会記録」第18回318頁から
「1.姫路駅が5線になっているのは下り退避2番線を事故時の留置線としているため。」
はい。夜行関係ありませんでした。
正確に書くと「姫路駅の下り13番線は、夜行新幹線運行の際の退避として計画されたが、それは姫路駅の上り線や相生駅にも同様の計画があった。姫路駅の13番線だけ完成しているのは、夜行新幹線の運行のためではなく、事故時における運転整理などのためである。」といったところか。
国鉄の両課長の報文からすると、夜行新幹線計画がなくても、運行上の必要性から、姫路駅13番線は作られていた可能性が高い。
であれば「姫路駅13番線は、夜行新幹線計画のために作られたが、夜行新幹線計画が頓挫したため、通常の運行に転用されている」というような言いぶりは誤りであろうし、「姫路駅13番線こそが夜行新幹線計画があった証拠」とまでも言い切れないのではないか。
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ところで、相生駅は夜行新幹線の上下線の退避のために運行上必要な駅であって、政治駅ではないと書いてみたが、「相生駅がない夜行新幹線の運行図」もあるので、次はそれを紹介したい。
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<余談 その2>
マイナビニュース「なぜ兵庫県に新幹線の駅が4つもある!? 秘められた幻の計画とは 」OFFICE-SANGA・著 では
「「山陽新幹線技術基準調査委員会報告」では、(略)待避場所として4~5カ所の駅が必要となった。」
と書いてあるが、
では、
「4ヵ所」と書いているのであって「4~5カ所の駅」とは書いていない。
「山陽新幹線技術調査委員会の成果」立松俊彦・著「交通技術」1966(昭和41)年10月号452~453頁から
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