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2021年4月29日 (木)

構想以来65年ぶりに西武新宿駅と新宿駅を結ぶ地下道が実現に向けて動き出した~西武新宿線の国鉄(JR)新宿駅乗り入れを整理してみる。(23)

西武鉄道のプレスリリースにいきなりこんなのが出た。

https://www.seiburailway.jp/news/news-release/2020/20210426_shinjyuku.pdf

西武新宿線 国鉄新宿駅乗り入れ計画 (96)

西武新宿駅の乗換利便性向上による新宿線のさらなる沿線価値向上のため、「西武新宿駅と東京メトロ丸ノ内線新宿駅をつなぐ地下通路」の整備に向けた検討・協議を進めます。

 私のブログでもしつこく記事にしているように、ここらあたりには、計画が二転三転というか頓挫した未成計画ばかり眠っている。

 ざっと経緯を整理するとこんな感じだ。

西武新宿線 国鉄新宿駅乗り入れ計画 (97)

 ネットでは「マイシティ2階の計画がやっと形を変えて復活」みたいなことを書いている方もいらっしゃるが、実際には、その後の地下複々線化の亡霊の復活でもあるし、サブナード地下街の幻の「西武新宿駅-国鉄新宿駅直結2期計画」の復活である。 

  

 ざくっと過去の経緯をおさらいしていこう。 

  

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■ 西武新宿線 新宿駅への二度の乗り入れ断念  

 私のブログを読んでいただいている方なら十分ご存じかとは思うが、「新宿ステーションビル=マイシティ=ルミネエスト」の2階に西武新宿線が接続する計画があった。 

西武鉄道が乗り入れるはずだった新宿ステーションビル (1)  

 現在の新宿駅東口の駅ビル「ルミネエスト新宿」の2階北側には、天井が高い吹き抜け部分があるが、この空間こそが西武新宿駅となるものだった。

 

「なるほど西武 仮駅が本駅となった西武新宿駅」結解義幸・著 トラベルムック「新しい西武鉄道の世界」交通新聞社・刊

 

 ときどきこんなデマをばらまく困ったライターや出版社がいるが、実際には

西武鉄道が乗り入れるはずだった新宿ステーションビル (13)

 こんな感じでホームと吹き抜けは全く関係ないことが分かる。

「新宿ステーションビルの店舗募集資料から西武線のホームと吹き抜けの関係を確認してみる~西武新宿線の国鉄(JR)新宿駅乗り入れを整理してみる。(18) 」

http://kakuyodo.cocolog-nifty.com/blog/2020/01/post-66d29f.html 

 にこの辺は紹介してある。 

  

 なお、西武の社内報には 

「当初新宿への地下鉄乗入線を予想し地下での乗換えの便を考慮して、終点附近は地下に潜ぐる様考えたのであるが、(中略)これを断念」 

 との記載がある。 

 詳細は 

「西武新宿駅は、元々地下鉄乗換えを考慮して地下に設置する構想だった~西武新宿線の国鉄(JR)新宿駅乗り入れを整理してみる。(17)」 

http://kakuyodo.cocolog-nifty.com/blog/2020/01/post-98776e.html 

 を参照されたい。 

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 さて、西武のプレスリリースの末尾に 

【参考】

「新宿駅北東部地下通路線」について(新宿区)

https://www.city.shinjuku.lg.jp/kusei/toshikei01_000001_00016.html

「新宿の拠点再整備方針~新宿グランドターミナルの一体的な再編~」について(東京都都市整備局)

https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/topics/h29/topi063.html

 

 と参考リンク先があげられている。 

 ここに興味深い資料がある。 

西武新宿線 国鉄新宿駅乗り入れ計画 (94)  

「都市計画変更素案について 東京都市計画道路 特殊街路 新宿歩行者専用道第4号線 東京都市計画通路 新宿駅北東部地下通路線」 

https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000309906.pdf 

 今回の地下道は「東京都市計画通路 新宿駅北東部地下通路線」として都計決定されるように手続きが進められているようなのだが、この資料の脚注に興味深い一文が添えられている。 

参考

西武新宿駅~東京メトロ丸ノ内線新宿駅間の地下歩行者ネットワークについては、西武鉄道新宿線複々線化計画(地下急行線)の改札外コンコースとして整備される予定であったが、現在、東京都において都市計画変更(廃止)に向けた手続き中。

 

 そして上記図面にも「西武鉄道新宿線複々線化計画(地下急行線)【都市計画廃止手続き中】」との記載があり、緑色で西武新宿線が「メトロプロムナード」まで伸びているのが分かる。

 これが二回目の西武新宿線延伸構想の跡地である。

西武新宿線 国鉄新宿駅乗り入れ計画 (92)

西武新宿線 国鉄新宿駅乗り入れ計画 (93)

 上図は、「西武新宿線 西武新宿-上石神井間複々線化事業 環境影響評価案の概要」15~17頁から 

 新宿アルタ横あたりの地下6階に新宿線のホームが出来て、その上に西武新宿駅と新宿駅を結ぶ地下道が「改札外コンコースとして整備される予定」だったと。 


西武新宿線 新宿―上石神井駅間複々線化計画 無期延期決定 費用の膨張理由に

 

 輸送力の増強を目指し、西武新宿―上石神井駅間の約十二・八キロの地下に、新たに急行線を走らせて複々線化する事業計画を進めていた西武鉄道は、建設費が当初見込み額を大幅に上回る見通しとなったことなどを理由に、事業の無期延期を決定し、十九日までに沿線自治体の中野区に伝えた。

 西武鉄道は八七年十二月、運輸省の特定都市鉄道整備事業計画の認定を受け、複々線化予定区間の運賃に十円上乗せし、工事費を積み立て。九三年に都の都市計画決定が下り、昨夏には建設省に工事施行許可を申請、手続きはほぼ整っていた。

 ところが、ラッシュ時の乗客数は九一年をピークに下降気味。当初は千六百億円と見込んでいた総事業費も、地下水の水位が予想より高かったことや、現在の西武新宿駅をJR新宿駅寄りに移動することにしたことなどから、約二千九百億円に膨れ上がることがわかった。

 このため、同社は複々線化を延期せざるを得ないとし、十九日には、特定都市鉄道整備事業計画の認定取り消しを運輸省に申請。これまで十円を上乗せしてきた区間では、乗客への還元を図るとしている。同社広報課は「計画を無理に進めれば、工事費の負担は運賃にはねかえり、逆にご迷惑をかける」としている。

 

1995(平成7)年1月20日付読売新聞から

 

 といった理由で事業は中断された。 

西武新宿線の国鉄(JR)新宿駅乗り入れを整理してみる。(10)西武新宿線の地下複々線化による新宿駅乗り入れ 

http://kakuyodo.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/jr-dd3c.html 

 西武鉄道新宿線(西武新宿駅~上石神井駅間)の複々線化計画の廃止にあたっての質疑で下記のような記載がある。 

西武新宿線 国鉄新宿駅乗り入れ計画 (98)

https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/kiban/pamphlet/pdf/pamphlet_111.pdf

 「西武新宿駅とJR線や丸ノ内線との乗換経路の改善について(略)当社としても積極的に乗換改善に努めていきたい」

 地下複々線事業計画を廃止して、新たに地下道のみ新設する手続きが東京都や新宿区等による「新宿グランドターミナルの一体的な再編」の一環として行われることになったわけだ。 

西武新宿線 国鉄新宿駅乗り入れ計画 (95)  

https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000309906.pdf 

  

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■ 幻となった新宿駅への地下道直結計画

 現在、西武新宿駅と東京メトロ・JR新宿駅はサブナード地下街とメトロプロムナードによって迂回する形で連絡されている。 

 今回、ここを直結する地下道が実現しようとしている。 

  

 ところで、西武では昭和30年代に、西武新宿線を新宿ステーションビルに乗り入れる計画と並行して、ここを直結する地下道の構想があった。 

 先日までヤマダ電器があった西武新宿駅のトイメンのビルを「西武フロントビル」として地下街と一体開発するものだった。 

 その資料が早稲田大に保存されており、 

「西武新宿線の国鉄(JR)新宿駅乗り入れを整理してみる。(7)地下道による西武新宿駅と営団地下鉄・国鉄新宿駅との連絡」 

http://kakuyodo.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/jr-aa77.html 

 に紹介してある。 

 ザクっというと「国鉄新宿駅に西武新宿線を乗り入れても西武として今更東口に活用の余地はなく、地下街と西武フロントビル等で一体として開発する方が投資としては有効ではないか」というものであり、この計画が実現していえば、ヤマダ電器ではなく、西武百貨店新宿店がそこに建っていたかもしれない。 

  

 その後、サブナード地下街計画が具体化し、 

 「昭和37年2月20日には有志が会合」「まず最初は、西武プラス歌舞伎町振興会で動き出した」と「新宿サブナード30年のあゆみ」29~30頁にある。 

  西武は、「西武新宿線のステーションビル乗り入れ」と「サブナード地下街による西武新宿駅と新宿駅の直結」の二本立ての計画を推進していたのである。

 しかし、西武線乗り入れ断念後の1967(昭和42)年に西武百貨店社長だった堤清二は、「会社としては地下街会社に出資しない」旨を創立事務所に伝えている。(「新宿サブナード30年のあゆみ」から) 

  

 ご存じのように1965(昭和40)年に、西武新宿線は新宿ステーションビルへの乗り入れを断念している。 

 鉄道と地下街の二本立て計画の両方を止めたわけだ。なぜだろうか? 

 そのヒントとなるのが、1964(昭和39)年の堤康次郎の死去かもしれない。 

 堤康次郎亡き後の西武の事業について、このような記述がある。


 事業の世界では義明はまだ赤子同然で、このような巨大な組織を継ぐには未熟かつ経験不足であった。父親は彼に、10年間は何もするなという遺言を残した。

(略)

 義明はグループの事業内容を隅々まで掌握するまで、しっかりと満を持して学ぶべきである、というのが康次郎の意向だった。とりわけ、新規事業は固く禁じられた。10年経てば状況も変化する。その時こそきちんとどう動くかを決める時なのだ。

 

「血脈 西武王国・堤兄弟の真実」レズリー・ダウナー・著 常岡千恵子・訳 徳間書店・刊 242頁から

 

 ひょっとしたら、この一環で両事業がストップした可能性もあるんじゃないかなあなんて夢想している。

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 ところで、西武の資本参加はなくとも、サブナード地下街は、西武新宿駅と国鉄新宿駅を直結する構想を実現しようとしていた。1964(昭和39)年に策定された地下街の「基本構想」には第二期計画として盛り込まれている。

西武新宿線 国鉄新宿駅乗り入れ計画 (17)  

 しかしこの計画は実現しなかった。


「道路幅は全体で25m(国鉄寄り歩道4.4m、民地側歩道3.8mを含む)。16.80mのみが車線である。地下建物の地表への階段出入口(幅員3m)をとるためには、歩道を両側7mにしなければならない。すると残りの車道は11m幅になる。これだと、車線確保はギリギリであり、しかもS形にカーブしていて、車輌運行上の危険がある。しかもこれは地下駐車場から地表へのランプ設置場所が確保できない」。

 「協議会(※引用者注 新宿地下駐車場第2期計画国鉄寄り協議会)」はこの案を断念するしかなかった。ただし将来構想としては、残されているのである。

 

「新宿サブナード30年のあゆみ」 新宿地下駐車場株式会社・発行 55~56頁から引用

 このように1970(昭和45)年に、地下道による直結の道も閉ざされてしまった。

 

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 これは余り知られていないが、都営大江戸線と西武新宿駅を地下道で直結する構想もあった。

西武新宿駅地下鉄大江戸線直結計画 (3)  

新宿区「新宿駅周辺にかかわる諸問題について」答申付属資料 1982(昭和57)年 から 

 都営地下鉄12号線(大江戸線)のルートや駅の配置が現在とは異なるが、これは現在のリニアメトロが導入される前のルートである。 

  今や新宿西口駅の場所も変わっており、実現は不可能だったということか。

 ただし、上記答申附属資料には、今回の「東京都市計画通路 新宿駅北東部地下通路線」にあたるような地下道の構想も見られる。 

西武新宿駅地下鉄大江戸線直結計画 (5)  

 これが都市計画決定するまで40年かかった(途中地下急行線がらみの動きはあったが)ということか。 

(参考) 

「西武新宿駅を大江戸線新宿西口駅に直結させる計画が1982年にあった~西武新宿線の国鉄(JR)新宿駅乗り入れを整理してみる。(16)」 

http://kakuyodo.cocolog-nifty.com/blog/2020/01/post-727461.html 

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  鉄道マニヤ、未成線マニヤの一部には、今回の動きを受けて

「次は、西武新宿線の東京メトロ東西線への乗り入れだ!」

 と期待している方もいらっしゃるようだ。 

 しかし、地下急行線廃止計画手続きにおける質疑では下記のような回答が出ている。 

西武新宿線 国鉄新宿駅乗り入れ計画 (99)  

https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/kiban/pamphlet/pdf/pamphlet_111.pdf 

 「交通政策審議会の答申に位置付けていない」「東京都としても具体的な計画はない」 

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 ところで、今回の記者発表を受けて、こんなツイートがあった。

 そう、今回記者発表あった4月26日は堤康次郎氏の命日なのである。

西武新宿線 国鉄新宿駅乗り入れ計画 (98)  

 実に堤会長没後57年を経た命日でのプレスリリースであった。

 冒頭のプレスリリースにはこう書いてある。

この度、新宿区により「新宿駅北東部地下通路線」の都市計画手続きが開始されたことを受け、当社は本通路の事業予定者として、都市計画決定後の本通路の早期実現に向け、具体的な検討および関係者との協議を進めてまいります。

https://www.seiburailway.jp/news/news-release/2020/20210426_shinjyuku.pdf

 西武グループの新宿駅東口進出は、まだ始まったばかりだぜ!!

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(1)プロローグ

(2)戦前の新宿駅乗り入れ構想

(3)戦後新宿駅乗り入れの具体化へ

(4) 魑魅魍魎うずまく新宿ステーションビル

(5)新宿ステーションビルへの西武線乗り入れ

(6)新宿ステーションビルへの乗り入れ中止

(7)地下道による西武新宿駅と営団地下鉄・国鉄新宿駅との連絡

(8)西武新宿線の営団地下鉄東西線・有楽町線乗り入れ構想

(9)西武新宿駅の開発

(10)西武新宿線の地下複々線化による新宿駅乗り入れ

(11)西武百貨店堤清二による新宿ステーションビル乗っ取り失敗

(12)高島屋、西武に競り勝ち、新宿へ悲願の進出

(13)新宿駅東口2階の吹き抜けに西武新宿線が乗り入れるはずだったのか?

(14)新宿ステーションビルとベルクと井野家

(15・終)エピローグ

 一旦終わった後に、その後ネタを追記

(番外編)「東京 消えた! 鉄道計画」中村建治(著)が怪しい

(16)西武新宿駅を大江戸線新宿西口駅に直結させる計画が1982年にあった

(17) 西武新宿駅は、元々地下鉄乗換えを考慮して地下に設置する構想だった

(18) 新宿ステーションビルの店舗募集資料から西武線のホームと吹き抜けの関係を確認してみる

(19)西武新宿線の新宿駅ビル乗り入れの図面を国鉄の内部資料から確認してみる。

(20)西武新宿線の新宿駅ビル乗り入れの図面を国鉄の内部資料から確認してみる。(その2)

(21)思いもつかないところから西武線新宿駅乗入れのカラー想像図が

(22)都庁幹部が語る西武乗り入れ中止の背景

(23)構想以来65年ぶりに西武新宿駅と新宿駅を結ぶ地下道が実現に向けて動き出した

(24)西武新宿線の国鉄(JR)新宿駅乗り入れ撤退の理由が書かれた公文書

(25)「ステイション新宿」をそのまま一次資料として丸呑みしては危険

(26)交通新聞社「新しい西武鉄道の世界」結解喜幸氏の新宿駅乗り入れ記事がひどい

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