階段国道339号にまつわる謎にチャレンジしてみた
道路マニアなら、松波成行氏の「国道の謎」を持って、国道339号の階段国道を訪れるのは、「やってみたいこと」の一つではないか?
私も過日その夢を実現してきたところである。
ところで、松波氏の著書中、階段国道にまつわる謎が幾つかあげられている。松波氏でも解けなかった「謎」である。
現地に立ってみて、その謎解きにチャレンジしてみたくなった。
ただし、今回はいつもと違って資料から潰していく形ではなく、私のエビデンス無しの妄想ベースであることをお断りしておきたい。
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松波氏の著書中、国道339号にまつわる謎がある。
その一つが、国道339号が階段国道となる手前に、小泊方面に伸びる339号との間をショートカットする立派な道(著書では「軍道」)があるのに、そちらを国道にしていないのは何故か?というものである。
龍飛崎砲台へとつながる唯一の車道は「木落」という集落にあたる陸軍繋留場から延びる道となりますが、それは地図(※引用者注:昭和15年当時の1:25000地形図「龍飛崎」)上では「軍道」と示されています。今でも「階段」で不通となっているため、その迂回路としてこの旧軍道が使われています。この道が国道339号とはならずに階段国道となったことは、階段国道を語る上での謎となっていますが、推定されるには戦後になってからの「軍道」の管轄とその引き継ぎで、何か公道となりえなかった可能性があります。
「国道の謎」松波成行・著 祥伝社・刊 62頁から
松波氏の文中の「木落」は、上図の地理院地図では「三厩木落」となっている。
図中「三厩木落」の字の上を左右に走って国道339号をショートカットしているのが文中の「軍道」である。
実際に現地の標識では、ここの木落の分岐では直進も左折も国道339号として案内しているし、「何か公道となりえなかった可能性」がありそうな雰囲気ではなさそうだ。
で階段国道と通常の国道の境界で周りを見回してみた。
そこには漁港がある。
なるほどと思った。
松波氏の著書にも触れているように、国道339号のこのあたりの前身は青森県道中里今別蟹田線であり、現在の階段国道のルートを定めたのも県道認定のとき(松波氏の著書によると1965(昭和40)年)である。
ぶっちゃけそのころは国道であっても、山道の点線国道等は珍しくなく、まして県道認定の段階では、現状では階段部分があろうと、将来改築予定があればさして問題になったとは思いづらい。
むしろ、「ここまで青森県道として伸ばしたい。県の金で整備・管理してもらいたい」という明確な意思があったのではないか。
昭和42年撮影の動画というから、県道昇格から約2年後である。
この動画の0分50秒過ぎに、当時の龍飛漁港付近の未舗装の道路の状況が出てくる。こんな道路を改良する部分を1メートルでも漁港まで伸ばしたかったのではないだろうか?
木落で分岐して龍飛灯台まで上がってしまえば、木落から龍飛漁港までは、三厩村道として村の金で整備・管理しなければならない。
また、龍飛漁港程度では、県道認定基準の起終点の基準を満たしづらかったのだろうか?。
そこで、龍飛漁港まで青森県道を整備する方便として、当時村道だった階段部分を(将来改築予定部分みたいな扱いにして)活用して龍飛灯台まで路線を繋いだのではないだろうか?
「なぜ階段が国道(県道)なのか」は正直二の次であって、「なぜ木落から先まで国道(県道)を引き延ばす目的があったか」の視点である。
「階段」に積極的な理屈は全くなくて、あくまでも「龍飛漁港までの道路を村道よりも格上の道路として管理できるようにできるだけ北まで引っ張りたい」という方便に使われただけではないか?
現在では観光資源として活用されているが、実態は夢もロマンも何もないかと。
当地は冬の積雪も波浪も大変厳しいところなので、財政的にも実際の現場力としても厳しい村ではなく「県の力で龍飛漁港まで道普請して除雪してもらいたい」「木落から龍飛灯台まで旧・軍道を県道認定してしまうと、その先の漁港までは村単独で管理するのは厳しい」という切なる気持ちを反映した結果という方が適切なのかもしれない。
階段国道から見下ろす龍飛漁港。国道としての終点から先は漁港内の施設として農水省からの金が入っているのではないだろうか?
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ちなみに、階段国道の横に龍飛灯台へ続く階段があるが、そこには「階段村道」の標識が建っている。なんかやり過ぎ感が。。。
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松波氏の著書中、国道339号にまつわる謎がもう一つある。
国道339号に並行する「青函トンネルのための材料運搬専用道」であった県道:通称「あじさいロード」が、国道339号に昇格してしかるべきなのに、そうなっていないのは何故か?というものである。
あじさいロードは国道と並行して造られた道で、国道よりも山側に沿って龍飛崎へと伸びています。路線の流れから見ても明らかなように、この青函トンネル工事専用道路は、工事終了後には国道339号の新道(バイパス)として予定されていたものでした。
このように、竜泊ラインが竣工した昭和59(1984)年10月の段階で、三厩村側の「青函トンネル工事専用道路」=国道339号の新道(バイパス)予定ルートも併せて、龍飛崎は自動車による通行ができる周回道路の目途は立っていました。あとは、青函トンネル工事完了の知らせを待つだけでした。暫定として指定しておいた階段国道も、これで抹消される準備は整ったと地元関係者は考えていたことでしょう。
しかし、今でもこの道は路線変更はなされていません。(以下略)
「国道の謎」松波成行・著 祥伝社・刊 67~68頁から
松波氏はその理由として「階段国道が観光資源として全国的に認知されたため、そのまま国道に残しておいたのではないか」としている。
下記の地理院地図で、国道の山側(地図の左側)を走る灰色の道路が当該県道(あじさいロード)である。
で、私も現地でその理由を色々考えてみた。
今昔マップ等で見ても分かるように、今でも国道339号は部分的にではあれ、改築工事が進められているようだ。
その例の一つが梹榔バイパスである。
https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kendo/doro/files/070515hyoro.pdf
国道339号は海に面した厳しい線形の道路が続いており、あじさいロード開通後も改築が必要なのだろう。現地には他にも従前の隧道を改築した箇所等が見られた。
ところで、道路の改築費用を誰が負担するかについては、道路法に定めがある。
細かい条文はさておき、国交省のウェブサイトによると下記のような感じだ。
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/dorogyousei/2.pdf
国道339号は、青森県が管理する国道なので、ここでいう「補助国道」であり、改築の際には、国が1/2を負担する。
一方、県道は、国は1/2「以内」の補助となっている。常に1/2を国が負担してくれるとは限らないわけだ。
松波氏も「国道昇格を受けることでの最大のメリットは、建設費にかかる国庫の負担率が高まることにあります。(「国道の謎」65頁)としている。
地元は、不通区間の開通後も「改築費にかかる国庫の負担率が高まること」のメリットを受けることを選択して、現道を国道339号としたままなのではないだろうか?
あじさいロードは、青函トンネル建設用の重機が走っても大丈夫な道だから、当面そんなに大規模な改築需要はないだろうし。
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ということで、松波氏が解き残した二つの「国道339号の謎」にチャレンジしてみた。
金の話に終始して、夢もロマンもないような気がするが、世の中そんなもんじゃないかなあと。
繰り返すが、これはエビデンスなしの、個人的な「国道の謎読書感想文」にすぎないし、松波氏の著書が間違っているというわけでもない。
県の公文書等をひっくり返せばこの駄文にダメ出しする資料は何か出てくるかもしれない。
というか、これを読んでいる貴兄が是非ひっくり返す公文書を見つけてきていただきたい。
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せっかくなので、いつもの私のブログらしいネタも書いておこう。
国道339号が国道として指定されたのは、1969(昭和44)年である。
この追加指定では、佐渡島、対馬、宮古島等の離島の国道(いわゆる海上国道部分を含む)が多く指定されたものとして有名である。
この際の追加指定路線の主な特徴は下記のとおりである。
(イ)今日まで殆んど国道指定の行なわれて いない離島(離島振興法、奄美群島振興特別措置法、沖縄振興開発特別措置法に規定された離島及び島しょ)について、 国道の指定を積極的に拡大したこと。
(ロ) 地域的にみて、国道の網間隔が大きく、前回までの国道指定率の小さな東北地方等の格差の是正に努めたこと。
(ハ) 路線の位置的な関係からみると、従来の路線が海岸線や平野部の中央及びすそ野に位置しているものが多いのに対し、 今回の追加指定では山岳部を積極的に活用し、中央縦貫道、横断道などの大動脈を形成するものが多くとり入れたこと。
例えば国道340号は八戸市から陸前高田市に至る、実延長247kmの路線で あるが、これは岩手県域の中央縦貫道として位置づけられている。
(ニ)新設の国道として、302号と357号を指定したこと。
302号は、既存の国道であるが前回の国道昇格時に都市計画決定等の関係で、次回送りになった区間を今回追加指定することにより、全区間を完成させたものである。
357号は通称東京湾岸道路であって、新たに今回国道に指定したものである。
「一般国道の追加指定について」建設省道路局企画課長補佐 藤井治芳・著 「道路セミナー」1974年12月号68頁から
「国道の網間隔」については、過去の記事
国道昇格はどのようにして決められるのか?~「ふしぎな国道(佐藤健太郎著)」の不思議(その5)
http://kakuyodo.cocolog-nifty.com/blog/2016/03/post-b7f8.html
をあわせてお読みいただきたい。
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余談だが、階段国道どころか、三厩まで高速道路を作る構想があった。
1966(昭和41)年4月1日付毎日新聞から
詳細はこちらを。
http://kakuyodo.cocolog-nifty.com/blog/2021/01/post-73aac0.html
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