川島令三が「奥羽新幹線用地と確信する」と述べる福島市の森合緑地の登記簿を取ってみた。
福島市内の、東北新幹線が福島駅を出て北上するとすぐの市街地に「森合緑地」という緑地帯がある。
で、下記のようなツイートが見受けられるところである。
奥羽新幹線用地である(と言われている)森合緑地。 #はにわ旅16夏 pic.twitter.com/3nvHErGgUO
— はにわ (@soaringhaniwa) August 12, 2016
今は緩衝帯となっている福島駅北側の森合緑地、あれが奥羽新幹線用地という……
— れいこん (@Series_E3) January 31, 2019
福島駅から北に伸びる新幹線の高架区間の下の森合緑地って奥羽新幹線用だったような
— 採 れ た て ( 🍭 ) (@HS14_) September 24, 2014
こういうことを言い出すのは、川島令三だろうと思ったみなさん。ビンゴです。
「【新説】全国未完成鉄道路線」川島令三・著 講談社・刊152頁から
本来の奥羽新幹線は、福島駅を出てしばらく東北新幹線と並行、上り線が高くなって東北新幹線と立体交差し、そして別れると想定していた。そのために盛岡駅寄りには少しの距離だが、複々線にできる構造があるはずである。
そこで福島駅を降りて東北新幹線に沿って歩いてみた。そうすると、福島駅から東北新幹線信夫山トンネルの手前まで、高架線に沿って両側に緑地があるのがわかった。やはり、奥羽新幹線分岐用用地を確保していたのである。この用地は森合緑地となっている。
そこで、付近を散歩している人に、「この緑地はいつからあるのか」と聞くと「開通してからずっとある」との返事、なんであるのかと再び聞くと「騒音防止のための緑地ですかね」という。国鉄はまったくなにもいわなかったから、そのように思われているのである。
しかし、これは奥羽新幹線と東北新幹線とが複々線でトンネルまで進むための用地と確信する。緑地帯の両側には側道がある。これは市街地の高架線の両側に側道を設置しなければならないことから設けられたもので、分岐合流する新幹線駅以外には、側道はあっても緑地帯はない。
通常、新幹線の分岐合流駅などで用地を確保した場合は、雑草が生えるにまかせて放置されているが、福島駅では緑地帯になった。奥羽新幹線は、もうできないと考えられているからである。
「全国未完成鉄道路線」川島令三・著 講談社・刊154~155頁から
で、まずは福島市森合町内の東北新幹線が走る部分の公図をお見せしよう。
72-1が東北新幹線で、72-7と68-6がその両脇の森合緑地である。
もし、ここを今後とも奥羽新幹線予定としているのであれば、そこはJR東日本なり、鉄道整備機構なりの名義の土地であるのが自然だろう。
68-6の登記簿をお見せしよう。
当初は鉄道用地だったが、1997(平成9)年に東日本旅客鉄道から福島市に売却され、現在は公園用地となっている。
「平成9年なら山形新幹線開業後じゃねえか、山形新幹線ができたから奥羽新幹線用地としては用無しになって福島市に売却したんじゃねえの?」
という声もあろうかと思う。
上記は、山形新幹線の建設経緯だ。
ところで、都市計画図を見てみる。
森合緑地は、1981(昭和56)年12月15日に都市計画緑地として都市計画決定されている。
東北新幹線の大宮~盛岡間の開通が、1982(昭和57)年6月23日だから、新幹線開通の半年前から、森合緑地は公園になることが決まっていたのである。
山形新幹線の経緯等ほとんど関係ないと言っていいだろう。
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ところで、ネタバレになるのだが、当時東北新幹線建設に従事した国鉄職員が建設業界誌にこんなことを書いている。
東北新幹線は昨年三月に上野乗入れが実現し、ほぼ建設が完了した。昭和四十六年に着工して以来、実に十四年近く要したこととなる。
私は前半の六年半にわたり建設工事に関与させていただいたので、この間の若干の思い出と感想を述べてみたい。
(中略)
私は昭和四十八年の秋に福島県下約九十キロの建設工事を担当することとなり、本社より仙台新幹線工事局福島工事事務所へ転勤になった。
(中略)
話は変わるが、福島駅を挟む前後約二キロの区間は、現駅に新幹線を併設した関係で密集した市街地を通過することとなった。特に北部の信夫山までの間は閑静な住宅地となっており、この地区を新幹線が高架で通過することに対して大反対があった。当時、大宮附近でも同様な問題が起きていたようであるが、新幹線歓迎ムードの東北地方で、最も地元との話し合いが難航した地区の一つといえよう。ルートを地下に変更することが当初の要求であったが、事実上不可能なことを何回となく説明すると同時に、騒音、振動対策として可能な限りの手を尽くすことで協議を進めた。御承知のように新幹線の騒音、振動は線路から離れるとともに急速に減すいすることから、線路の両側にそれぞれ五十メートル程度の緩衝地帯を設けることは止むを得ないが、線路幅の五倍もの土地を無条件で買収することは許されないため、次のような考え方をとることとした。
(1)線路と交差する街路は交差個所数を集約して構造物の経費を節減し、線路沿いに付け替え道路を設けることとした。
(2)線路の両側に四メートルの工事用、保守用道路を設けることとした。
(3)前記以外の用地は自治体に負担してもらうこととし、緩衝地帯についての街路及び公園等としての整備を都市計画事業としてお願いすることとした。
このようにして地元の要望を踏まえ、自治体の絶大な御協力を戴いた御蔭で、円満に工事が進められることとなった。
(中略)
このような経験から、今後の新幹線建設にあたって、市街地の線路は都市計画との調整が必要不可欠の条件として考えられ、むしろ都市計画事業により線路敷を生み出す方が望ましいと考えている。
「東北新幹線のこと」 日本鉄道建設公団・計画部長(当時)安原 明・著 「建設業界」1986(昭和61)年1月号 47~48頁から
現在の地図等を見ると「線路の両側にそれぞれ五十メートル程度の緩衝地帯」ではなく、「線路の両側合計で五十メートル程度」なんじゃないかなとも思いつつ、公園としての都市計画やら地元の費用負担等の平仄があう。
また、川島令三が「 なんであるのかと再び聞くと「騒音防止のための緑地ですかね」という。」と書いているのも、別に間違いでもなんでもない。
東北新幹線建設前の様子を今昔マップで確認してみると、確かに「密集した市街地」である。
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森合緑地から話は離れるが、安原氏は「このような経験から、今後の新幹線建設にあたって、市街地の線路は都市計画との調整が必要不可欠の条件として考えられ」と書いてあるのを見て「え?東北新幹線って都市計画決定していないの??」と思う読者の方もいらっしゃるかもしれない。
これはさいたま市の埼京線与野本町駅付近の都計図だが、御覧のとおり、新幹線も埼京線も都計施設ではない。
埼玉県庁に国鉄職員が現れて、20万分の1の地勢図に赤鉛筆で線を引いてここに新幹線を作りますって話をして、あとは国鉄と運輸省で許認可の手続きを進めて国が工事の認可をして、はいスタートという感じだったのだ。
つまり、地元住民どころか、地元自治体ともロクに事前調整していなかった。
なので、東北新幹線や成田新幹線で住民だけでなく、自治体まで反対する結果となってしまった。
そんなことも踏まえて、安原氏は「市街地の線路は都市計画との調整が必要不可欠」と、開通後に言っているわけだ。
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ということで、川島令三の「線路際に空き地が見えると未成線に見えちゃう病」の一つを検証してみた。
個人的には、営業中の新幹線の両側に平行してトンネルを掘るだけでも超大変なのに、更にそれを信夫山の中でクロスするなんてどれだけ難工事だよ、ありえねえだろうと思うのだが。
川島令三は、鷲羽山トンネルみたいな四連のトンネルが簡単にできると思ってるんじゃないかな。実際には「簡単にはできないから、いつ通るかも分からない四国新幹線用のトンネルも最初からある程度掘っておいた」というのが正確だと思うのだけど。
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