福島県監査報告「只見線が1本に繋がってこそ意味があり、機能を発揮すると考えるのは共同幻想にすぎない。約54億円は別の事業で有効活用できたのではないか。」
ちょっと前に、こんなツイートが一部監査、決算マニアの間で話題となった。
#福島県 #只見線 #河北新報 福島県の包括外部監査人は、2018年度の監査結果を公表。只見線の復旧費用と維持費用は他事業に充てるべきだったと分析、「只見線は一本につながってこそ意味があると考えるのは幻想にすぎない」と断じる。 pic.twitter.com/pjwTNnpT2d
— 中央◇特快(お気楽撮り鉄) (@chuo_s_rapid201) April 4, 2020
福島県の外部監査で、災害で不通となっていたJR只見線の復旧費用は「他事業に充てるべきで、只見線は1本に繋がってこそ意味があると考えるのは幻想にすぎない。」と批評したというのだ。
しがないサラリーマンの私からすると「公認会計士の監査なんだから『批評』どころじゃねえだろう」と思うのだが、単なる批評ということにしたい願望がどこかから漏れ出ているのかしらんと思っていた。
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で、密かに全文が公開されるのを待っていたのだが、福島県のウェブサイトにUPされていたので、ここに紹介したい。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/388324.pdf
当該只見線の部分は、134頁からだ。
まあ、私はとてもやさしいので結論部分を抜粋してみよう。
「お、お、お前たちは鉄道の本当の価値を分かっていない!お前のかーちゃんでべそ!!わーん(泣)」
と思った方は、この先は読まん方がよかろう。
新聞記事では「幻想」だったが、実際には「共同幻想」である。大学のゼミで読んだ岸田秀や栗本慎一郎を思い出すな。パンツをはいたサルですよ。
閑話休題。監査報告書に戻ろう。
今回の監査テーマがこちら。別に只見線だけ狙い撃ちしたわけではない。 担当したのは公認会計士だ。
只見線の他にも興味深い項目がたくさんあって目移りするのだが、まずは本題である只見線の部分を紹介しよう。
JR只見線会津川口駅~只見駅間の鉄道復旧により、利便性の向上及び只見線を核とした地域振興を図るため、東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本とする)が実施する災害復旧工事等に要する費用の一部を補助する。
ということで、
JR東日本が実施する詳細設計及び災害復旧工事に要する費用の一部を補助する(補助率:2/3)
JR東日本が実施する災害復旧工事に必要となる資材置場、作業ヤード等の賃借料、土地取得費、測量、その他の関連費用を補助する(補助率:3/3)
という部分が福島県の支出となる(今回の監査対象となる部分だ)
こちらが、
会津川口駅~只見駅間の今後に関し、平成28年6月にJR東日本は、バス転換案と鉄道復旧上下分離案を提示した。その際にJR東日本はバス転換に際しての具体的支援策を提示した。
というものである。
バスの方が本数も多いし、所要時間も大差ない。
この辺は実際にバスではなく、鉄道復旧を選んだ経緯等が書いてある。
で、ここからが公認会計士の監査意見だ。
意見
会津若松駅発の只見線は、朝2本、昼1本、夕方から夜4本、計7本(うち、1本は会津坂下までなので実質6本)というダイヤであり生活路線(通学や病院へ通うために利用)である。朝は6時と7時半の2本しかないために、会津若松市に宿泊した旅行者が奥会津(只見)方面へ向かう場合には、宿で朝食を取ってから駅に向かうというスケジュールでは電車に乗れないだろう。旅行者にとって宿を出る時間帯である8時以降の列車ダイヤは昼1時まで全くない。このことは只見線がもっぱら生活路線であり、観光路線等にはなり得ないことを物語っている。特に会津若松駅~会津坂下駅間は学生の乗降客が多いが、会津坂下駅以降の下りは生活路線としても厳しい状況である。特に不通区間となっている、会津川口駅~只見駅間の1日当たり利用者数は平成22年度ベースで49人。同年度ベースの利用者数ではJR線最下位(岩泉線が平成26年で廃線となったため)である。只見線全線では1日当たり370人で、下から8番目の路線ではある。この49人と370人の違いは、会津若松駅~会津坂下駅間の利用者数が圧倒的に多くて、この区間が只見線全線を何とか維持させていることを示している。
生活路線としての只見線の本質を捉えると、会津川口駅~只見駅間を県・会津17市町村負担54億円掛けて鉄路で復旧させる必要はなかったのではないか。同区間はバス代行輸送により生活路線としての機能は維持できている。54億円は別の事業で有効活用できたのではないか。JR東日本がバス転換案で提示した地域振興策のように、古民家を活用した宿泊施設やサテライトオフィスを整備することも可能であろう。若しくは、医師、看護師招致(只見町朝日診療所などの国保診療所や県立宮下病院等)のための費用や、過疎地域でも都会と同じレベルの教育が受けられる受講費用、学習環境整備費用(自習室、図書室整備)など、医療、教育、福祉の分野での活用もできたのではないか。
不通区間の復旧は疑問視するが、不通区間以外の只見線の観光資源、観光振興を否定するものではない。只見線沿線の観光資源はもっと広く知られるべきであり、観光振興も強化されるべきであると思う。しかし、会津川口駅~只見駅間を約81億円(県・市町村負担54億円)掛けて復旧しても、年間運営費(平成21年ベースで)2.8億円(県・市町村負担2.1億円)掛かり、老朽化により経費はさらに増えると予想される。更に今後の災害復旧時には全額負担することになる。
同区間が復旧したがために、特に経済的効果が見込まれるものでもない。たとえ、企画列車を運行し、年間3,600人が新規に会津若松駅~只見駅間を往復したとしても、1,216万円(往復運賃@3,380円×3,600人)の収入増にしかならない。運行経費や当該企画のためのプロモーション費用(1千万円単位で予算化される事業)を考えると、実質赤字になるか、あまり経費補填には繋がらない結果になろう。会津川口駅~只見駅間の年間運営費の抜本的軽減策にはならない(なお、運賃収入はJRの収入である。)。
只見線全線復旧という精神的価値に54億円を費やし、年間2.1億円の運営費を毎年負担するよりは、会津川口駅~只見駅間はバス代行輸送にした方が、現実的対応だったと思う。会津川口駅~只見駅間の鉄路復旧、只見線の全線開通それ自体が、特に経済的価値を生む訳ではなく、過疎、人口減少に対する地域振興策でもない。それを望むのであれば、不通になる以前に達成できていたはずである。只見線が1本に繋がってこそ意味があり、機能を発揮すると考えるのは共同幻想にすぎない。約54億円は別の事業で有効活用できたのではないか。
とまあばっさりである。 54億円あれば地元のためにもっと有効利用できたよと。
よく全国各地で「赤字解消のために観光列車を走らせよう!」とあるが、「プロモーション費用考えたら赤字じゃね?」とつれない。
まあ、「公共交通マニア」には「それでも只見線全通は54億円以上の換算できない精神的価値があるんだ!地元の教育や医療なんかよりも鉄道だ!!!111」という原理主義者もいらっしゃるのかもしれない。
昔なら「時刻表の地図に路線と地名が載ることにかけがえのない価値があるんだ」的なことを言う人もいたが、今の子は時刻表なんか見ないでグーグルマップの起点終点をクリックするだけだからなあ。
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上記にプロモーション費用の話がでてきたが、只見線のプロモーション事業についても監査が入っている。
こちらは只見線復旧費用への断罪に比べて意見なしだ。
ただ気になるのが、「只見線魅力発信業務委託」である。受託者が「株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシー」で約1500万円払っている。何やったんですかね?
こんな報道もあった。これは「魅力発信業務」なのか「プロモーション動画等製作業務」なのか気になる。
福島県のJR只見線の「応援大使」に選ばれた台湾の人気タレント、ウー・シンティさん。現地でプロモーション動画の撮影があり、「絵本のように、次から次へと美しい風景が続いた。自分の友達や家族に生涯に一度は来ようと勧めたい」と話しています。 https://t.co/5ZzawmoHpD pic.twitter.com/dgZBBEVCyC
— 朝日新聞(asahi shimbun) (@asahi) January 18, 2019
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只見線は以上で終わり。
あとは、個人的に関心をひいたものを抜粋してみる。
「ふくしま地域公共交通強化支援事業」81頁以降
「来て。乗って!あいづ二次交通強化支援事業」:交通事業者等に対し、観光資源等を活用した二次交通対策に係る経費を補助する。①二次交通バス運行、②交通結節点からの二次交通の確保・強化。
ということで、よくある観光の教科書的な「二次交通の支援」である。
只見線の有名撮影スポットや東武特急リバティとの連携等まあありそうな話だ。
で、監査結果はどうかというと。
意見
実証事業である「来て。乗って!あいづ二次交通強化支援事業」に関して、「奥会津ぶらり旅」には、1,993万円補助金を支出して、794人の乗降客、一人当たり補助金は2万5千円。「冬奥会津ぶらり旅」には999万円補助金を支出して、1,584人の乗降客、一人当たり補助金は6千3百円。「いなきた号」には、980万円を支出して、53人の乗降客、一人当たり補助金は18万5千円。実証事業といえども、ある程度の効果が見込めない実証事業への補助はもともと行われるべきではない。補助対象とする実証事業選定に当たって、どの程度の効果(集客数、乗降者数)が見込まれるかの、結果として単位当たり(一人当たりなど)いくらまでの補助金となる事業なら実証事業を行う意味があるか(例えば、一人当たり補助金が1万5千円以下になると見込まれる実証事業なら補助可能とか)、といった事前の判断基準の設定がない。実証事業に係る補助を効果的に行うには、単位当たり(一人当たりなど)補助金上限額や見込み入込数(集客数、乗降客数)を予め設定し、それが見込めない実証事業は、たとえ実証といえども補助対象としない、という補助金制度にすべきである。
全国で二次交通への実証実験とか社会実験という形での公共支援は行われていると思われるが、結果はどこもこんなものなのだろうか?
という感じで、「公共交通マニア」にとっては涙目の連続である。
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「福島イノベ構想」周辺環境整備交通網形成事業 94頁以降
福島イノベーション・コースト構想周辺環境整備として、施設と拠点間等を結ぶ交通ネットワークを形成し、地域産業の集積と交流人口の拡大などイノベ構想を更に推進する。
というもの。これは中身よりも委託先のお話。どこかの国のコロナ対策に似ているなあ??
この仕事は県が設立した「機構」しかできないので、随意契約しますた!
機構は業務を外部委託して、一般管理費と人件費をとりました!
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「福島県産農産物等販路拡大タイアップ事業」 203頁以降
専門家等を交えた農業者へのコンサルティングチームを組織し、農産物等の販路開拓等を支援する
というもの。
農業経営の専門家が、生産者と出荷の検討会を開くことになっていましたが、実際の検討会は、福島市内の居酒屋で関係者を交えて行っていたもので、関係者には「支援対象者の周辺の生産者」はいませんでした!
なんともはや
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