今度開通する名二環(名古屋西JCT~飛島JCT)は、政令上は「近畿自動車道伊勢線」ということで、東名阪道ではなく伊勢道の仲間である件
2021(令和3)年5月1日に、名古屋第二環状自動車道 名古屋西JCT~飛島JCTが開通する。
ところで、この新規開通区間である名古屋西JCT~飛島JCT間は、「高速自動車国道の路線を指定する政令」によると、「近畿自動車道伊勢線」である。
https://www.cbr.mlit.go.jp/kikaku/jigyou/data/r0112/110_shiryou_6.pdf
近畿自動車道伊勢線というと普通イメージするのは伊勢自動車道だ。
一方、同じ名古屋第二環状自動車道でも、名古屋南JCT~楠JCT~飛島JCTは、「近畿自動車道名古屋亀山線」である。
東名阪自動車道は名古屋亀山線だし、名古屋第二環状自動車道は以前は東名阪自動車道と呼んでいたので違和感はない。
なぜ名古屋西JCT~飛島JCT間だけ、東名阪道系列ではなく伊勢道系列なのだろうか?
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まずは、「国土開発幹線自動車道建設法」の別表を見てみよう。
近畿自動車道伊勢線と近畿自動車道名古屋大阪線は、共に名古屋を起点として四日市を経由したのちに分岐し、伊勢市、吹田市を終点にしている。
国幹道法の名古屋大阪線は、道路名でいうと、名二環、東名阪道、(国道25号名阪国道)、西名阪道及び近畿道を形づくっている。
また、名古屋神戸線は、道路名でいうと新名神(第二名神)である。
しかし、これでは今回開通する名古屋西JCT~飛島JCT間が、法律上何自動車道にあたるかが分からない。
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そこで、「高速自動車国道の路線を指定する政令」で見てみよう。
先にあげた国土開発幹線自動車道建設法の別表は、第四次全国総合開発計画で第二東名・名神等約1万4千キロの高規格幹線道路が位置づけられたことを受けて、1987(昭和62)年に改正されたものである。
そして、1989(平成元)年1月に開催された第28回国土開発幹線自動車道建設審議会での審議を踏まえ、高速自動車国道の路線を指定する政令が改正された。
細かいところは目をつぶって、ザクっと路線網を描くと下記のような感じだ。
この段階では、「高速自動車国道の路線を指定する政令」では「近畿自動車道関伊勢線」であり、現在と異なり、名二環どころか、東名阪道とも重用していない。
名阪国道と接続していた「関ジャンクション」の名前が懐かしい方もいらっしゃるかもしれない。
「高速自動車国道の路線を指定する政令」は、この後、何度も改正されているのであるが、そのうち重要なものを取り上げていく。
1996(平成8)年12月に開催された第30回国土開発幹線自動車道建設審議会で、近畿道名古屋市緑区~名古屋市名東区が基本計画区間とされたことを受けて、1997(平成9)年2月に「高速自動車国道の路線を指定する政令」が改正された。
従前までは関町が起点だった「関伊勢線」が、このとき名古屋市が起点の「伊勢線」に変更された。
しかし、名古屋南JCT~楠JCT~名古屋西JCT~亀山が名古屋関線と重用し、亀山市で分岐するものとされたにとどまり、まだ今回開通区間である名古屋西JCT~飛島JCT間は、高速自動車国道としては出てこない。
(※このときの改正で法令上は名古屋~伊勢が繋がったため、便宜上現在の「伊勢関」を図に入れているが、実際に東名阪と伊勢道が直結したのは、2005(平成17)年3月である。ご注意くださいませ。)
やっと今回開通区間である名古屋西JCT~飛島JCT間が出てくるのが1999(平成11)年12月に開催された第32回国土開発幹線自動車道建設審議会である。
このときに、今回開通区間となる、近畿道 名古屋市中川区~愛知県海部郡飛島村間が基本計画となった。
ちなみに、いわゆる「道路公団改革」の一環として、国土開発幹線自動車道建設審議会は、この後「 国土開発幹線自動車道建設会議」に改められた。最後の「国幹審」の審議内容の一つが今回開通区間だったわけである。
当該区間を取り込んだ「高速自動車国道の路線を指定する政令」は、2000(平成12)年1月に改正された。
そして現在の「高速自動車国道の路線を指定する政令」が下記のとおりとなっている。
亀山以東を名古屋関線(東名阪道)と重用していた伊勢線が、四日市JCTから分岐し、今度は名古屋大阪線(伊勢湾岸道)と重用して飛島まで向かい、飛島JCTで名古屋大阪線と分岐し、単独で名古屋西JCTへ向かい、そこで名古屋関線(名二環)へ再び合流して起点の名古屋南JCTへ向かうという奇天烈なルートを辿ることになったのである。
近畿自動車道伊勢線の起点(名古屋市)から終点(伊勢市)を分類すると下記のようになる。
参考までに「日本道路公団年報 平成15年」から近畿自動車道伊勢線の部分を抜粋してみよう。小さな文字で「(名古屋関線と重用」「名古屋神戸線と重用」と書いてあるのがお分かりになるだろうか。
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以上が、名古屋第二環状自動車道 名古屋西JCT~飛島JCTが、「高速自動車国道の路線を指定する政令」では、近畿自動車道伊勢線となる経緯である。
ところで、「なんでこんな蛇がのたうち回るような路線にしたのか」が本当は皆様の知りたいところであろうが、それを明確に示す証跡は見つけていない。
いずれ国立公文書館で「高速自動車国道の路線を指定する政令」の改正経緯の資料が公開されるであろうから、そのときまでのお楽しみといったところか。
個人的な推測としては、「国土開発幹線自動車道建設法」の別表を改正せずに、事実上追加となる路線を建設したいという行政手続き上の理由で、既存の路線に潜り込ませるような形を取ったのではないかと推測している。
法律を改正して新規路線を追加しようとすると、「なんで名二環だけ?うちの地元の路線もこの際入れろや」との要望が全国から押し寄せられるため、政令の改正に潜り込ませたのではないか。
しかし不思議なのは、名古屋南JCT~上社JCT間及び名古屋西JCT~飛島JCT間約28キロが事実上追加されたにも拘わらず、高速自動車国道の総延長は追加以前と変わらず、11,520キロのままなんである。
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ということで、路線政令の文言上の言葉遊びみたいになってしまった。
同じような「路線名遊び」は、以前も「祝!外環道 三郷南~高谷開通!東京外環道って法令上の名称じゃないけどどうなってんの?」という記事を書いているので、お好きな方はあわせてどうぞ。
http://kakuyodo.cocolog-nifty.com/blog/2018/06/post-450c.html
話は変わるが、名古屋二環といえば、国鉄の貨物幹線となるはずだった城北線が一部区間を並走して走っており、ジャンクションのランプの中を車窓から眺められるという特異な路線でもある。
しかし、名二環に新交通システムが走る構想があったことはあまり知られていない。
(b)名古屋市周辺(名古屋環状二号線)
継続
名古屋市東部の国道302号(名古屋環状二号線)周辺の丘陵地域においては、宅地開発が急速に進められているが、この東京(ママ)地域tp都心部とは地下鉄で結ばれており、更に地下鉄三号線が計画されている。これら住宅地域と地下鉄を有機的に結ぶ環状方向の新道路交通システムを環状二号線に併せ導入することについて検討する。
「特集-昭和52年度予算の概要と重点施策 新道路交通システムに関する調査費について」建設省道路局路政課課長補佐・沢山民季「道路セミナー」1976年10月号69頁から
未成線マニヤの方からは「おい、bときたら、aやcも出すのが社会人のマナーだろう」と詰め寄られそうだが、
a) 仙台市周辺(北仙台線)
c) 岡山市周辺(市内環状線)
d) 広島市周辺(国道54号)
である。
このうち、実現したのは、「d) 広島市周辺(国道54号)」だけかな?
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「俺はまじめに名二環の成り立ちについて勉強しようと思ってこのページを開いたのに全く役にたたないではないか」と怒られそうなので、最後にそういう方向けのリンクを紹介しておこう。
■ 「名古屋環状2号線(一般国道302号」の整備について」道路行政セミナー 1992年8月号
https://www.hido.or.jp/14gyousei_backnumber/1992_data/seminar9208.pdf
■「名古屋圏における環状道路と放射道路の整備」道路行政セミナー 1995年7月号
https://www.hido.or.jp/14gyousei_backnumber/1995_data/seminar9507.pdf
■「名古屋都市圏の新たな可能性の幕開け「環状時代」!」道路行政セミナー 2000年6月号
http://www.hido.or.jp/14gyousei_backnumber/2000_data/seminar0006.pdf
■名古屋都市計画史
https://www.nup.or.jp/nui/information/toshikeikakushi/index.html
名古屋都市計画史Ⅱ(昭和45年~平成12年度)上巻の381頁以降が名古屋二環にあてられている。
■「名古屋環状2号線の開通による経済効果」 三菱UFJリサーチ&コンサルティング
https://www.murc.jp/report/rc/policy_rearch/politics/seiken_170822/
■「土地区画整理事業から見た名古屋環状 2 号線のあゆみ」
https://www.nup.or.jp/nui/user/media/document/investigation/h24/NUI.sugiyama.pdf
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(余談)
ちょっと高速道路名称の仕組みについてかじって、いきったネットキッズが
「東名阪道の法令上の正式名称は~」
とか言ってみたくなるところであるが、
上記を見て分かるように
「国土開発幹線自動車道建設法」では、「近畿自動車道名古屋大阪線」だが
「高速自動車国道の路線を指定する政令」では、「近畿自動車道名古屋亀山線」だ。
安易に「法令上は」なんては言ってはいけないということだね。
よいこは、法律上なのか政令上なのか理解したうえで使い分けようね。
なお、「東名阪自動車道」だって、日本道路公団の内規に基づいて正式に決裁を取ってつけられた名称なので、別に「正式ではない」のではない。官報にだって東名阪自動車道ということで掲載されている。(官報掲載が名称決定手続きの要件ではないが)
(応用問題)
平成元年は「名古屋亀山線」→平成9年は「名古屋関線」と変更し、現在はまた「名古屋亀山線」に戻っている理由を考えてみよう。
何かの間違いで検索してヒットしてしまったNEXCO職員は、コメント欄に理由を書いてみよう!
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